第446話 脱出後
僕達は最後の最後に魔物に追い詰められてしまう。
だけど、エミリアと姉さんの機転によって無事に基地を脱出することが出来た。
「はい、到着っと」
姉さんは、一仕事終えたかのように息を吐いて僕達の手を離す。
「ありがと、姉さん」
「ベルフラウ様、流石でございます」
「助かりました。私も空間転移使えると良いですけどねぇ……」
「女神様、ありがとう! って、普通にベルフラウさんってっ呼んだ方がいいのかな……?」
そんな皆に、姉さんは微笑む。
「気にしないで、ある意味これが私の最大の役目だからね」
姉さんは舌をペロッと出しながら茶目っ気のある表情で笑う。
「……い、いきなり森の中に出てしまうとは」
お爺さんは、呆然としながら身体をフラフラさせ、そのまま膝を付く。
「お、お爺さん、大丈夫!?」
「平気ですか!?」
僕とサクラちゃんがすぐに駆け寄り、お爺さんの身体を支える。
「大丈夫じゃ……ちょっとばかり、驚いてしまってのう……」
お爺さんは乾いた笑い声を出しながら言った。
「……さて、地上に出れたわけですが、これからどうします?」
エミリアの言葉に、僕達は互いに顔を見合わせる。
サクラちゃんは言った。
「少し前に師匠に連絡を入れました。船をこっちに寄越してくれるみたいです」
「なら少し私達は身を隠して到着を待った方が良さそうですね」
エミリアはサクラちゃんの言葉にそう返す。
「ん、何故身を隠す必要があるのじゃ? ここにはもう追手はおらんのじゃろ?」
お爺さんはそう言うが、レベッカは首を横に振って否定する。
「ご老体……そう言うわけにはいかないのです。確かに基地からの脱出は出来ました。ですが、ここは基地の真上の孤島、まだまだ油断は出来ない状況にあります。
それに元々の調査で、この孤島にも魔物は沢山棲息していることが分かっております。故に、船の到着まで何処かに身を隠さねばなりません。ご理解くださいまし」
年端もいかぬレベッカの淡々とした説明に、
お爺さんは唖然とした表情で「そ、そうじゃの」と恐縮したかように言った。
「お爺さん、そういうわけだから早速何処かに隠れよう」
「わかった……お主らに従おう」
お爺さんはまだ疲れている様子だったが、僕とサクラちゃんが交互にお爺さんを背負って魔物を避けながら隠れられそうな場所を探した。
森の中の比較的出口に近い場所。
その近辺の場所に結界を張って僕達は休む準備を始める。
休むと言っても、ここは敵陣の真上。
まずは安全を確保するために、比較的魔物が少なそうな場所を選び、魔物が来ないように僕とレベッカは周囲に聖水を撒いて下地を整え、その後は魔物が近寄らないように見張りを行う。
その間に、エミリアは安全に休めるように結界を張る。疲労困憊状態だったお爺さんはエミリアの結界が張り終わるまで姉さんと一緒に木陰で休んでいる。
「……これでよし、と」
エミリアは結界を張ってから見張りをしていた僕の元にやってくる。
「お疲れ様、もう結界を張りましたから見張りをしなくても大丈夫ですよ」
「うん、分かった」
エミリアの言葉を聞いて、僕は剣を鞘に仕舞う。
「……お爺さんはどうしてる?」
「結界を張り終わったと言ったのですが、腰が痛いようで自分で動けないみたいで……。ベルフラウが身体を支えてあげてる感じですね」
「そう……まぁ、あれだけ走ったもんね……」
「魔物じゃないか怪しんでいたのですが、レベッカのいうようにアレは間違いなく人間ですね。私達を油断させるにしたって隙だらけです、あんなのでよく今まで魔物達の巣窟で生き残っていたのか不思議で仕方ありませんよ」
「あはは……エミリア、まだ疑ってたんだ」
「そりゃあそうですよ。私はレイやレベッカほどお人よしじゃありませんから」
僕達はそんな会話をしながらエミリアの張った結界へと歩いていく。そこには、僕と同じく見張りを終えて戻ってきていたレベッカと、腰を姉さんに摩られながら岩場に座っているお爺さんがいた。
「お爺さん、大丈夫?」
「うむ、だいぶ楽になったわい……」
そう言いながらも、お爺さんの顔色は優れなかった。
「(当然か、ずっと魔物に幽閉されていたわけだし……)」
命は奪われなかったとはいえ、あまり良い扱いでは無かったのは脱出の時の魔物のやり取りで伺えた。もし僕達が来なかったら、いつか魔物に殺されていた可能性だってある。
この人は記憶喪失らしい。どういうわけか、魔軍将のデウスがこの老人の元を尋ねて拠点に連れていってあれこれ命令していたらしいのだけど……。
「(それにしたって、なんで魔物を製造する魔道具を作れたんだろう?)」
疑問点は尽きないが、今はゆっくりさせてあげた方が良いだろう。
とりあえず僕は姉さんの隣の地面に座って休憩することにした。
レベッカとエミリアも、僕達が座る場所と向かい合わせで1メートルほどの感覚を空けて座る。お爺さんはしばらく沈黙していたが、やがてポツリと話し始めた。
「……ワシは何故こんなところに……。
いや、それ以上に、ワシは一体何者なんじゃ……?」
その言葉に、姉さんが質問する。
「お爺さん、本当に何も覚えてないの?」
「……うむ、思い出せん。大昔に大切な人を失ったような気がするのじゃが……。ワシが覚えとるのは、この基地に連れて来られてから以降かの……それ以前の事はサッパリじゃ」
「ふむ……記憶喪失というわけでございますか」
レベッカは、老人を憐れむような目で見つめる。
「昔、記憶が飛ぶほどの強いショックを受けたのでしょうか」
理由は分からないけど、こうやって魔物に幽閉されて従わされていたのだ。
彼は被害者だと言ってもいいだろう。
「お爺さん、別に無理に思い出さなくてもいいからね。
この島を出たら船で王都まで戻るつもりだから、その時に陛下に事情を話して匿ってもらうように進言するつもりだよ。だから安心してね」
僕はそう言って、老人を安心させようとする。しかし……。
「……王都……?」
老人は、一言呟いて、頭を抱え顔を伏せて何かを考え始める。
「お爺ちゃん?」
姉さんは、心配そうにお爺さんの頭を摩る。
「……何か思い出したのですか?」
エミリアは何かを疑うかのような視線を向けて老人に問う。
「……い、いや……何も思い出せんのじゃが………何故か知っている気がしての……」
「なるほど、何か引っかかりを覚えるという事でございますね」
レベッカは神妙な表情を浮かべて横から老人を見つめる。
「う、うむ……だが、気がするだけで結局何も思い出せんのじゃ……」
「お爺ちゃん、無理に思い出さなくてもいいわよ」
姉さんは優しく声をかけるも、
お爺さんは顔を上げて僕達に向き直って言った。
「……すまぬ、迷惑をかけてしまっての」
それから小一時間、老人と会話を続けるのだが記憶が戻ることは無かった。
『王都』や『王』という言葉が会話に出た時に、一瞬だけお爺さんは反応を示す。
まるで、「自分はそれについて知っている」と言っているかのように。
「(何か、嘘を付いてる……?)」
僕はそう思案するが……老人は何か思い出そうとすると頭痛で頭を抱えてしまうため、それ以上の追及をすることは出来なかった。
「まぁ、そのうちに思いだすかもしれませんね……」
エミリアの言葉を最後にこの会話は終わった。
理由は、その直後に島の外から大きな音が聞こえてきたためだ。
ドオォォォォォォォォン!!
島全体に響く音と同時に、森の中が振動で軽く揺れる。
森の中の木に止まっていた鳥たちも一斉に空に飛び立つ。
「一体何ですか!?」
エミリアは驚いて杖を構えるが、そうじゃない。
「違う、多分迎えが来たんだよ」
僕は皆にそう伝える。
この島全体に響き渡る音は、武装船に搭載されていた大砲の空砲音だろう。
おそらく到着を知らせるために、僕達にサインを送ったのだろう。
「お爺ちゃん、動ける?」
「う、うむ……」
姉さんに聞かれて老人は、なんとか踏ん張って自力で立ち上がろうとするが、上手く力が入らないようだ。
「大丈夫? 私達で運びましょうか?」
「すまんの……」
そう言うと、お爺さんは僕達の手を借りて立ち上がる。
「サクラちゃん、
「おっけー!」
サクラちゃんは笑顔で僕の要望に応えて、魔法を発動させる。
これで、魔物達の目線だと僕達は見えないはずだ。
そうして僕達は空砲が聞こえた方角を目指して歩き出す。武装船は、こちらの位置を示すかのように定期的に空砲を鳴らして誘導してくれたおかげで迷うこと無くそちらに進むことが出来た。
しかし、デメリットもある。
空砲により僕達に位置を教えてくれるのは良いが、音で魔物達を引き寄せてしまい、船がある方向に魔物達がどんどん向かっていく。そのお陰でこっちに魔物は寄ってこないけど、船の方に魔物が押し寄せているようだ。
「これって不味いのでは?」
「船に乗船してる方々が心配でございますね」
エミリアとレベッカは船の心配をしているようだ。
「レイさん、あれだけ船の方に魔物が寄っちゃってるなら、もう姿を現しても問題ないんじゃないですか?」
「確かに、もう魔法は解いてもいいかな」
「はいはーい、じゃあ解除しますね」
サクラちゃんは僕の返事を聞くなり、即座に消失の魔法を解除させる。
「エミリア、お爺さんに飛翔の魔法をお願い。船の様子も心配だし、ここからは走っていこう」
「了解です」
エミリアは、僕の指示に従い、お爺さんに杖を向けて飛翔の魔法を使用する。お爺さんの身体は再び宙に浮きあがる。
「お、おう……またこれか……慣れないのぅ」
「我儘言わないでください。貴方の歩みが遅いからこうしてるんですから」
「そ、そうじゃな……すまない」
老人は素直に謝ると、姉さんが宙に浮いたお爺さんの手を取る。
「私がお爺さんと行くわ」
そう言って、姉さんは自分の能力で自身の身体を浮き上がらせる。一緒に浮いてしまえば引っ張る力もいらないという事だろう。姉さんと老人は手を繋いだまま浮かび上がる。
「じゃあ、お爺ちゃん、行きますね」
「頼むぞ……」
そして、姉さんと老人は空から、僕達は走って船の方へと向かった。
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