第443話 謎の声
僕達は探索を続けて、ようやく最後の上層に向かう階段を見つけた。
――いよいよ十二階層。
この階層に最後の魔道製造機が設置されてるはずだ。
最後の魔道製造機に魔法の弾を設置して、脱出すれば僕達の任務は終了となる。
魔物の基地に潜入という事で大変な任務だったけど、それももう終わる。
そう考えると、ちょっと感慨深いものがある。
「やっと終わりが見えてきたね」
「はい、そうですね」
「長かったなぁ……」
僕の言葉にサクラちゃんと姉さんが同意する。
「……? エミリアはどうしたんだろう」
ふと横を見ると、階段の前で足を止めて考え事をしていた。
「ふむ、どうかしたのでしょうか?」とレベッカは言った。
僕も気になったので、レベッカと一緒にエミリアの傍に近寄り、声を掛ける。
「エミリア、どうしたの?」
「何か心配事でしょうか?」と、僕とレベッカはエミリアに声を掛ける。
彼女はこちらを見て、少し間を置いた後に言った。
「レイ、レベッカ……いえ、ここの施設を巡ってて思ったことがあるんです」
エミリアは、少し言い辛そうに話し始めた。
「ここの魔道製造機、人間が作ったようなように思えませんか? それに、この地下の設備も……普通の魔物が設計できるとは思えない」
「人間……? うーん……言われてみれば……」
「ふむ……」
僕達は周囲を見渡す。
多少不格好で規則性のない構造故に、僕達は魔物らしい拠点だと思っていたのだけど、言われてみると、この施設内も人間が建物を作るときのような作りになっている気がしてきた。
「確かに、エミリア様の仰る通りでございますね……。
魔物風情がこれほど大規模な地下建造物を作り上げられるとはとても想像できません」
レベッカは、首を傾げながら周囲を見渡す。
僕達の話が聞こえたのか、階段を降りてきたサクラちゃんと姉さんは言った。
「そうねぇ……魔道製造機も精密そうだし……この場所だって魔物がどうにか出来るとは思わないわ」
「エミリアさん、ここは人間が建てた場所って言いたいんです?」
エミリアはサクラちゃんの言葉に頷く。
「私はそう思います」
「じゃあ、何でこんなところに?
それに魔物が住み着いてるのはもっと謎ですよ?」とサクラちゃんは聞いた。
「それは分かりませんが……」
エミリアも漠然とした疑問はあったけど、答えまでは出ていないらしい。
「そういえば、下層のモンスターが言ってた気がする」
僕は、数時間前の事を思い出しながら言った。
「ここで魔物を作ってるのは、魔軍将の命令だって」
「魔軍将……」
「しかも、将自ら討ち死にしたとも言ってた」
「討ち死に……というと」
エミリアの言葉に、ここにいる全員の視線が僕が僕に注目する。
「……え、なんでみんな僕を見るの?」
僕の言葉に、姉さんが苦笑しながら言った。
「だって、魔軍将を倒したのはレイくんだもん。
つまりレイくんが倒した魔軍将の誰かがここの管理をしていたってことじゃない?」
……考えてみれば、そういう事になるのか。
「という事は、『クラウン』か『デウス』のどっちかって事だね」
僕達が知ってる魔軍将は四人、うち一人は僕は顔を見てない。
エミリア達は先の戦いで交戦したらしいけど詳しい話は聞いていない。
最初の一人はプライドの塊みたいな奴だった『クラウン』という男。
人間に化けて街の重役に就いていたけど、正体がバレて逃げた後、僕達が倒した。
二人目は、アンデッドである『ロドク』という男。
こいつは元人間って事だけは知ってるけど、詳しいことはよく分からない。
先の戦いでも痛み分けに終わり今も何処かで生きているだろう。
三人目は、僕達の旅のきっかけとなった人物だ。
奴の行った悪行を知って追いかけてたんだけど、色々探る内に奴が魔王軍の幹部的な立ち位置という事が分かった。最終的には化け物に変貌して既に死んでいるが、それは問題じゃない。
問題は、こいつが『人間』だったという事だ。
名前は『デウス』だったか。
思えば装置を作ったのもそいつが自分で作ったと言ってた気がするが……。
奴は気が狂っていたため、本当の事を話していたのか謎が残る。
「……デウスがここの管理人だったという事かな」
「今置かれた状況を整理すれば、一番可能性がありそうなのはそいつですね」
「でも、もしそうだとしても……」
「一人でこれほど大規模な地下施設を作り上げるのは無理でしょう」
「……となると、他にも人間の協力者がいる?」
「そう考えるのが一番妥当なところでしょうか」
あくまで、推測でしかない。
もし本当にここが人間が作ったとして、今もここに居るとしたら……。
「(魔王軍の協力者に人間が他に居るとは考えたくないね……)」
逆に魔物に良いように扱われて、働かされているのであれば助け出さないといけない。
そんな事を考えていると、サクラちゃんが口を開いた。
「とりあえず、今は先に進まない? ……あ、すみません」
サクラちゃんはため口を使ってしまったことに気付いたのか謝る。
「気にしなくていいよ。というか僕としてはため口の方が話しやすい」
「そ、そうですか……良いのかな?」
サクラちゃんは距離感を気にしてるのだろうか?
もうそれなりに付き合いがあるんだし、気にしなくてもいいんだけど。
「うん、それじゃあ行こう。立ち止まってても仕方ない」
僕達は階段を上がって、十二階層目へと進んだ。
◆
今までよりも長い長い階段を登っていくと、今までと違い大きく開けた場所に出た。鬱屈な地下にも関わらず、天井があり得ないほど高く、よく見ると上の方は僅かに光が差している。
「広い場所ですねー」
「ええ、それにこの天井の高さ……あの光は、外の日差しを取り込んでいるのかもしれません」
「へぇ……こんなダンジョンに、わざわざ日光を取り入れてるなんて変わってますねぇ」
レベッカの言葉に、サクラちゃんは感心した様子で言う。
「もしかしたら太陽光をエネルギーに変えて、装置を動かしているのかもしれませんよ。そういう魔法技術があると聞いたことがあります」
「へぇー」
エミリアの解説に、僕とサクラちゃんが声を上げる。
「それじゃあ、早く装置を見つけて壊さないと」
「ええ、そうしましょう」
僕達は早速、この空間の中心へと向かう。
「これは……」
中心には天井まで伸びる柱と、その柱を中心にした大きな装置が設置されていた。今まで見た魔道製造機の中でも最も大きく、窓ガラスから移る製造中の魔物の数も今までとは段違いに多い。
万が一、これの中身が地上に出てきたらかなり面倒な事になるだろう。
「見張りも居ないみたいだし、早速魔法の弾を設置しましょう」
「そうだね……ん?」
僕は鞄の中のケースを取り出す。魔力の弾の数はあと二つ、元々十個あってここまで9か所設置したはずなのに何故か二個余っている。
「レイ様、一か所は魔法で破壊したため使いませんでした。覚えていないのですか?」
「あ、そっか。うっかりしてた」
レベッカの言葉で忘れてたことに気付いた僕は、魔法の弾を二つとも取り出す。
「これ、両方とも使っていいのかな?」
「いいんじゃないですか? 元々、この作戦の為に作られたものですし」とサクラちゃんは言う。
なら、遠慮なく使わせてもらうことにしよう。
「じゃあ、これで最後だね」
僕はそれぞれを装置の反対側に設置して準備を整える。
これで、僕達の任務は完了だ。あとは誰も来ないうちに、サクラちゃんに魔法陣を形成してもらって脱出するだけだ。そう思っていたのだけど……。
「レイ様!」
「レイ!」
「前見て、前!!」
サクラちゃん達が慌てたように声を出す。
何をそんなに慌てているのだろうと僕は立ちあがり、正面を見る。
すると、装置の窓から目玉のような化け物がこちらを凝視しており、今にも窓を突き破ってこちらに襲い掛かりそうになっていた。
「やば……もしかして、これ覚醒寸前の状態じゃ……?」
「レイくん、逃げよう!」
姉さんの声で我に帰った僕達は急いでその場を離れようとしたのだが、
装置のガラスにヒビが入り、そこから触手のようなものが飛んできて僕の右腕に巻き付く。
「くっ!? くそ、離せッ!!」
僕は、右腕を引き戻すように抵抗するのだが、物凄い力で引っ張られてしまう。
「危ない、今助けますっ!!」
サクラちゃんは、こちらに向かって走りながら腰に下げた鞘から二つの短剣を取り出し、僕を引っ張る触手に向けて投げつける。だが、 ガキン! という音と共に刃は弾かれてしまう。
「嘘っ!?」
攻撃を弾かれたサクラちゃんは驚きながらも、すぐに次の攻撃の準備に入る。
だが、それよりも早く、
「はぁあああっ!!」
サクラちゃんの背後から飛んできたエミリアの風の魔法が、僕を捕らえている触手を切断する。
「大丈夫ですか!?」
「助かった!!」
僕はお礼を言いながら装置から距離を取り、拘束されて鞘から取り出せなかった右銅の鞘から剣を取り出す。
しかし、僕が攻撃を加えようとする前に、
サクラちゃんが窓から這い出てきた魔物に向かって強烈な正拳突きを放つ。
「てえええええええええぃぃぃ!!!」
サクラちゃんの正拳突きが魔物に直撃すると、
ドッゴオオン……と、まるで自動車が衝突したような、衝撃が周囲に響く。
「す、すごい……」
その一撃で、部屋中に散らばる機械の破片が飛び散り、
サクラちゃんの一撃を受けた魔物は装置を突き破りそのまま倒れた。
「ふー、終わったぁ」
サクラちゃんは腕を摩って、装置から腕を引き抜いてから弾かれた短剣を拾う。僕達はサクラちゃんのその強さに唖然としていると、レベッカが真顔でサクラちゃんに問いかけた。
「サクラ様、無礼を承知で申し上げるのですが……。剣を使うより、素手の方が強いのでは?」
「えっ!? ち、違いますから……強化魔法で身体を強化してるだけで!!」
「そうなんですか?」
「そうですよ!!……多分」
エミリアの問い詰めに、サクラちゃんは動揺しながら答える。
「(仮に僕が強化魔法で素手を強化しても、ああはならないよ……)」
サクラちゃんの腕は僕よりも細身で、
筋肉はあると思うけど見た目はエミリア達と大差はない。
あれが勇者パワーってやつなのだろうか?
同じ勇者の僕にそんな力無いんだけど、なんか軽く劣等感。
「そ、それより早く脱出しましょう。もう帰るだけですから!」
サクラちゃんは誤魔化すように咳払いして、その場にしゃがんで魔法陣を描き始める。
僕達は彼女が慌てて魔法陣を描く姿を見て、苦笑しながらも彼女の言葉に従った。
「うん、そうだね。帰ろう」
「はぁ~やっと帰れる~」
姉さんは、腕を伸ばしてリラックスした様子で言う。
しかし………。
「―――おや、帰るのかの? もう少しゆっくりしていけばよかろうに」
と、この場にいる誰でもない、老人のような声がホール内に響き渡った。
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