第440話 第十一階層
【視点:桜井鈴】
僕達が魔力の核を破壊した後、
しばらくしてから姉さんの持つイヤリングに連絡が入った。
『お疲れ様です、囚われた人達の避難が終わりましたよ』
エミリアからそう言われて、僕達はホッと一息つく。
「そう、良かったわ」
『私とサクラで囚われた人達を王都に転送させました。
私達も今からそっちに合流しますから、少しだけ待っていてくださいね。
……それと、結晶体の採取をお願いしますね、でわでわ』
「りょうかーい、待ってるからねー」
どうやら、無事に救出できたようだ。
姉さんは通信を終えて、僕達の方を向いてから言った。
「じゃあしばらくここで待っていましょうか」
姉さんの言葉に僕とレベッカは頷き、エミリアに言われた通り砕けた結晶体の採取を行う。そして、魔力を多く含んでいる物だけ選別して僕の鞄に詰め込んだ。
―――そして数十分後
「よし、これで終わりっと」
僕は詰め込んだ鞄をパンパンっと叩いて立ちあがる。
「それにしてもエミリア様は、この結晶体を何に使うのでしょうね」
「魔力を多分に含んでるから調合か何かに使うのかな?」
詳しいことは彼女に聞いてみないと分からない。
それから、僕達はエミリア達が来るまで魔物を警戒して身を隠していた。
数十分後、彼女達と合流し、
この階層を探索した後に、魔道製造機がこの階層に無い事が分かり、
僕達は探索途中で見掛けた上層へ向かう階段に足を運んだ。
――第十一階層にて。
十一階は今までと雰囲気が違っていた。
今までのような研究所やダンジョンのような迷宮では無く、
そこは一面、荒野の世界だった。
空は赤く、地面は岩肌で覆われている。
後ろを振り返ると、さっき上ってきた階段も消えていた。
僕達はその光景を見て呆然としていたが、少しして正気に戻る。
「……ど、どういう事?」
「さっきまで、建物の内部だったはずなのですが……」
「……これは一体」
皆が困惑している。それもそのはずだ。
だってさっきまでは建物の中に居たのに今は外にいるんだから。
「……ねぇ、みんな。ここ本当に十一階なのかしら?」
姉さんは意味深に呟く。
それにサクラちゃんは質問する。
「どういう意味です?」
「つまりね、十一階だと思って上がったら罠で、別の場所に転送されてしまったとか」
「そんなことってあるんですか?」
「分からないわ。でも気が付かないうちに移送転移魔法陣を踏んでいたとしたら……」
「……あるいは、私達は幻惑を見せられている、なども考えられますね」
姉さんの推測にエミリアも賛同し、自身の考えも述べる。
「ってことは、私達、閉じ込められてる!?」
「可能性はあるかも……」
動揺するサクラちゃんだが、その可能性は十分に考えられる。
今までは隠密行動だったけど、僕達が潜入していることはとっくにバレてしまっている。
魔王軍側が何か策を打ってきた可能性は否定できない。
「どうしよう、レイさん!」
「落ち着いて、サクラちゃん」
僕は慌てているサクラちゃんに冷静に声を返して、自分の考えを話す。
「ここが本当に別の場所に転送されたかまでは分からない。
実は外に似せてあるだけで建物内部かもしれないし、いつの間にか僕達全員が何かの魔法で幻を見せられているって可能性もある。
本当に別の空間に転送されていた場合、僕達だけじゃ対処できないかもしれないけど、前者二つならまだ何とかなる状況のはずだよ」
「……ですね、まずは状況確認をすべきでしょう」
レベッカは僕の言葉に頷く。
僕はサクラちゃんの方を向いて言った。
「サクラちゃん、貸してたイヤリングでウィンドさんに連絡取れない?」
「……あ、そっか。師匠に助言を貰えば……」
サクラちゃんは左耳に付けたイヤリングを手で触って操作する。
しばらく、待っていると数回雑音が響いた後に無機質な音が続いた後に、女性の声が聴こえた。
『……聴こえますか? サクラ、レイさん』
「あ、師匠!! 聴こえます!!」
通信先から聴こえる女性の声にサクラちゃんは大きな声で答える。
『……いきなり五月蠅いですね、サクラ。
通信の時は小声で話せと言っているでしょう。貴女は声が大きいのですから』
通信先の人物、ウィンドさんは若干の怒気を含んだ声でそう答える。
「そんな場合じゃないんですよ、師匠!! 私達、変な場所に来ちゃったんです!?」
『………?』
「だから、私達は今、変な場所に閉じ込められてて! それで、助けて欲しいんですっ」
『落ち着きなさい。何を言っているのか全く理解できませんよ』
「だから、今いるこの場所は私達が知っている十一階じゃなくて、 全く別の場所で!」
サクラちゃんは必死に状況を説明しようとしてるみたいだけど、
言葉が足りずに、通信先にいるウィンドさんに上手く伝わっていないようだ。
会話の様子を見ていたエミリアはため息を吐いてから言った。
「サクラ、私が代わりに説明します」
「あ、ごめんね……エミリアさん」
エミリアはサクラちゃんの謝罪に頷き、自身の右耳に付けていたイヤリングに右手を置く。
「エミリアです。私が代わりに説明します。実は―――」
エミリアは、これまでの経緯を手短に分かりやすく伝える。
「――という訳です」
『……成程、状況は把握しました。とりあえず、そちらの現在地をこちらで調べてみましょう。少し待っていてください』
「分かりました」
それから少しして、再び通信が入った。
『お待たせしました。通信機の反応のある位置を調べたところ、その場所は研究所内部で間違いないようです』
「ということは、私達は転移したわけではないと?」
『少なくとも空間転移などで移動させられたわけではないはずです。
推測ですが、おそらくは幻惑魔法の一種で、施設全体に魔法が付与されていて通常とは別のモノを見せているのでしょう。歩き回れば多分すぐに分かると思いますよ。
解除の方法ですが、おそらくその空間の何処かに幻惑を見せる魔道具が設置されてるはずです。まずはそれを見つけてください』
「了解」
エミリアはそう答えてから、通信を終えて僕の方を見て言った。
「だそうですよ」
「分かった。じゃあ、早速探そう」
そして、僕達は幻惑の中で探索を開始することにした。
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