第439話 強制脱出魔法陣

 レイ達の活躍により、三つの結晶体が破壊された。


 それにより人々を閉じ込めていた牢屋の魔力の供給が無くなっていく。

 魔力の供給が無くなった牢屋はただの檻でしかない。傍で待機している彼女達がいれば、もはやそれは障害ですらなく、魔力の供給が無くなったことを感知した彼女達は次の行動に出た。


【視点:エミリア】

 この牢獄に立ち込めていた怪しげな魔力の波動を感じなくなりました。

 どうやら、彼らは魔力の核を破壊に成功したようですね。


「皆さん、もう出られるはずですよ」

 私は彼らが閉じ込められていた牢に近付き、その扉に手を掛けます。

 すると、それまで頑なに閉ざされていた牢屋がいとも簡単に開きました。


「こ、これで出られるのか……」

「やったー! 俺達は自由だー!!」


 中に閉じ込められていた方々が歓喜の声を上げながら出てくる。

 その数は合計二十人ほどだ。どうやら彼らは近くの集落に住んでいた人達のようで、一週間ほど前に魔物に襲われて連れて来られたようだ。


「あ、ありがとうございます! 本当に助かりました!」

 その中の一人の女性がわたくしに感謝を述べてきます。


「いえ、当然のことをしたまでです。

 準備が整い次第早くここから離れた方がいいでしょう。

 魔物達が嗅ぎつける前に……」


「そ、そうですね……ところで、どうやってここから出ればいいんでしょうか?」

「ちょっとだけ待っててくださいね」


 私は彼女にそう声を掛けてから、自身の所持するイヤリングに触れる。


「サクラ、そちらの準備は整いましたか?」


【視点:サクラ】


 ―――ほぼ、同時期。


 牢屋の周囲に感じていたいやーな魔力の気配が消えた。

 もしかして、レイさん達がやってくれたのかな?


「よーし、じゃあ試してみましょう!」

 私は牢屋の扉の目の前に立ち、試しに牢屋を殴ってみる。


「たあっ!」

 ドガーン、グシャッ!!

 私が殴った牢屋の扉は簡単に外れて、そのまま牢屋の奥に吹き飛んでいった。


「あ゛」

 しまった、やり過ぎた。

 私が唐突に扉を壊したせいで、中に入ってた人達がドン引きしてる。


「お、おいおい女神様、すげぇな……」

「あの子、今素手で鉄の牢屋の扉破壊したのか……」


 なんか、周りの人が集まってきて私を凝視している。

 うぅ、やっちゃった……。


「ま、まぁ、これで自由ですから!」

「お、そうだな!」

「ありがとー、女神さまー!」


 牢屋の中に居る人達は、嬉しそうに外に出てくる。


 別に良いんだけど、私は女神様じゃなくて勇者なんだけどなぁ……。

 否定しなかったせいでそう呼ばれてるんだけど、本物の女神様に怒られそう。

 いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃないよね!?


「あ、そうだ!」

 私はレイさんから預かった袋を取り出す。


「あのー、ここに来る前に、魔物に隠されてた私物を見つけたんですけどー」

 そういうと牢屋から出てきた何人かが集まってくる。


「え、本当ですか……?」

「どれどれ……」


 預かったものは、財布やアクセサリやハンカチなどの小物が多い。他にも銀貨などのお金だ。そこまで価値があるものじゃないけど、この人達にとっては多分大事なものだろう。


「おっ、これ俺の財布だ!」


「おおっ! 俺のコレクションの最初期に製造された銅貨だ、これ価値あるんだよなぁ!!」


「って、私のパンツがなんで一緒に混ざってんのよ!!」


 みんな喜んでくれているみたい。

 良かったぁ、これで役に立てたかなぁ。


 ……っていうか、ここにあった布きれってパンツだったんだね。


 レイさん、普通に握りしめてたけど、気付いてたのかな?

 

 もし気付いてたら変態だね。

 

 いやいや勇者のレイさんが変態なわけないよね?


 ………もしかしてわざと?


 私がレイさんが変態かどうか頭を悩ませていると、一人が声を掛けてきた。


「あのぉ~、私達、どうやってここから出ればいいんですか?」


 あ、忘れるところだった。


「大丈夫です、待っててくださいね。もうすぐあっちの準備が整うと思うんで!」


「準備?」


 私が答えようとすると、イヤリングから声が聴こえてくる。


『サクラ、そちらの準備は整いましたか?』

 イヤリングから聴こえてきたのは、こっちとは別の牢の前で待機してるエミリアさん。


 私よりもすっごい魔力を保持してる凄い人だよ!!


 少し前まで『さん』付けしてたけど、エミリアさんが呼び捨てにしてくれたお陰でちょっと距離が縮まったかも?


「はいはーい、きこえてますよー」

 私は彼女にそう答える。


『――――良かった。こっちの準備も整いましたから、魔法陣を一緒に起動しましょう』


「了解でーす」


 私は通信を繋げたまま、既に用意したあった魔法陣に魔力を注ぎ込む。

 その魔法陣が光り輝き、大体六メートル四方の大きさになる。


「な、なんだ?」

「急に光が……」

 突然現れた巨大な魔方陣を見て、周囲の人達がざわつき始める。


「皆さん、ここに入ってくださーい。

 この魔法陣に入ると、自動的に王都の方に転送されますからー」

 私はそう言って皆を集める。


「え、村直通じゃないのか?」


「王都ってどこ?」


「あー、あそこだよ、あそこ。何故か王様がずっと変わらないすげえ国らしい」


「ずっとってどれくらい?」


「100年以上だよ」


「え、王様化け物なの?」


「王都行くのが怖くなってきた……」


「あの、直接村に行けませんか? 帰るの面倒なんですけど……」


 なんか色々言われてるけど気にしない!

 っていうか、みんな我儘だよ!!

 いくら勇者だからって無茶言われても困るんだよー!


「いいから早く入ってくださいー! わがままは聞きませーん!!」


「は、はい!」


「わかりました!」


「おら、お前ら行くぞ!」


「「「はいっ!」」」


 そう言って、囚われていた人たちが魔法陣の中に集まる。



『そっちの準備はいいです?』


「大丈夫ですよー、それじゃあ合わせますよー!!」


『「せーのっ!!」』


 私達は同時に魔力を注ぎ込み、魔法陣の発動に成功する。

 すると、牢屋の床全体が青白く輝いた。


「うわっ!?」「きゃあっ!?」


 牢屋の中に居た人達が悲鳴を上げる。そして、次の瞬間には魔法陣の中の人が消失し、ここから遠く離れた王都に転送される。


 静まり返った牢で、私達は通信装置を通じて喜び合う。


「やった、成功!!」

『こっちも無事成功しました……。はぁ、初めてだから緊張しましたよ』


 あんな凄いエミリアさんでも緊張するんだね~。


「エミリアさん、凄いです! 初めてなのに<移送転移魔方陣>を扱えちゃうなんて!」


『いやぁ、それほどでもありませんよ。あはははははー』

 エミリアさん、照れてるみたい。かわいいな~。


「じゃあ、合流しますか!」

『ええ、お願いしますね!』


 私達はお互いに通信を切り、皆と合流するためにレイさん達の元に向かうよー!

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