第438話 弱ボス

【視点:レベッカ】

 レイ様がオーガロードと戦っている最中、

 わたくしとベルフラウ様は、地獄の悪魔ヘルデーモンとの戦いを繰り広げておりました。


 最初はわたくし達二人だと難敵だと想像していたのですが……。


「くそっ、なんて奴らだ!」

 悪魔はベルフラウ様の光の攻撃に翻弄されながらも翼で飛び回避を行う。

 わたくしも弓を向けて魔物の動きをけん制して妨害を数度繰り返す。


 すると、徐々に魔物の動きが鈍くなっていき、地上に降りてきました。

 どうやらこれ以上飛び回っても体力を浪費するだけと気付いたようです。


 そうしてわたくし達が優勢になりつつあった時に……。


 ――グシャアア!!


 レイ様と交戦をしていたオーガロードが地に伏して、その頭部が吹き飛ばされました。

 どうやら、あちらは勝負が付いたようですね、流石レイ様。


「さすがレイくん♪」

 ベルフラウ様は機嫌良さそうに声を出す。

 こちらも負けてはいられませんね。と、わたくしは声に出さず気合いを入れます。


 ですが、敵側のあちらにとっは予想外の事態であったようです。


「何、あのオーガロードが倒されただと!?」

 交戦している地獄の悪魔は、レイ様達が戦っていた場所を目を向けて驚愕します。


「な、何故だ、あの魔物不死身のはず……一体、どうやって……!!」


「それを貴方が知る必要は無いでしょう――!」


 わたくしは言いながら、悪魔に向かって即座に槍を振るう。

 悪魔は一歩遅れて反応し背後に引こうとするが、わたくしの槍の一撃が届き、槍の先端が悪魔の左翼を捉え、その翼が一文字に抉った。


「グオオッ!!」

 痛みと絶叫を引き裂かれた左翼を抑えながら、悪魔は血走った眼をこちらに向けます。

 血に濡れた左翼は、もう使い物にならないではずです。


「……今の発言を聞くかぎり、

 あの程度の魔物でレイ様を屠れると勘違いしたのでしょうが―――」

 詳細は分からないですが、レイ様は確かにあの時劣勢の状況でした。ですが、それはレイ様が無茶な攻撃を行って疲れ切っていたため、通常時では苦戦はしなかったはず。


 横目でレイ様の戦いを見ているかぎり、レイ様にしては過剰な程攻撃を加えているご様子。おそらく通常の魔物とは異なる存在だったのでしょう。


「こちらも終わらせましょうか、偽物の地獄の悪魔ヘルデーモン


「な、何?」

 偽物と言われて、その地獄の悪魔は狼狽える。


「戦っていて疑問でしたが、地獄の悪魔にしては随分と弱く感じました。

 おそらく、貴方は黒の剣で身体を無理矢理強化されたタイプではありませんか?」


 先ほどまで、わたくし達は違和感を感じていました。

 この地獄の悪魔は、先ほどのオーガロードと比べて明らかに弱い。

 以前に戦った覚えのある同種の魔物と比べても歴然だ。


「ここの<魔道製造機>といい<黒の剣>といい、魔王軍は随分と自軍の強化に専念されているご様子ですが、中身が伴わなければ所詮こんなものでございますね」


「……レベッカちゃん、挑発し過ぎよ」

 ベルフラウ様が困ったように呟きます。


「ぐぬぬ……言わせていけば……!!

 なら喰らうがいい、この選ばれた悪魔にしか使えぬ<破壊の散弾>ブレイクガトリングを!!」

 悪魔は、こちらから距離を取り、巨大な魔法陣を形成する。


「む……この魔法は……!」

 わたくしも見たことがある魔法です。

 爆発系の上位の魔法……確かに、このレベルとなれば並の魔力では使用できない。


「俺様を侮ったことを後悔するがいい!!」

 そう魔物が吠えた瞬間、多数の爆発魔法を弾丸のようにこちらに連射される。


「防御するわ!」

 ベルフラウ様はわたくしの前に出て、

 わたくしと自身を包みこむ防御魔法を展開する。


 ――ドガガガガガッ!!


 無数の爆発魔法が銃弾のように撃ち出され、わたくし達に襲い掛かる。

 しかし、ベルフラウ様の展開した光の障壁が、その爆風を防ぐ。


「無駄だ! 貴様ら程度の人間が、

 この選ばれた悪魔の俺様の魔力を防ぎきれるわけが――――」


 と、言ってるうちに、魔法陣から打ち出される爆発の連射が唐突に止まる。

 最後にプスンと間抜けな音がして、煙だけ漂った後に魔法陣が消失した。


「……」

「……」


 わたくし達も魔物も、沈黙してしまう。


「……えっと、もしかして今ので終わりかしら? 貴方、爆発魔法使えるほど魔力ないんじゃない?」


「……やはり、所詮は偽物でございますね」


 わたくし達が呆れた視線を送ると、魔物は顔を真っ赤にする。


「ば、馬鹿な!? こ、これは故障だ!! 俺様が失敗するなど、そんなはずは――!!」


 魔物は慌てふためきながら、必死に弁明を始めるが、


「もういいです、終わらせましょう」

 わたくしは、そう一言呟いて、即座に魔物に詰め寄る。


「!?」

 一瞬で自身の前に躍り出たわたくしに驚愕したような表情をしましたが、抵抗される前に槍でその悪魔の胴体を貫きます。


「ぐあああっ!?」

 魔物は苦痛の声を上げると同時に、私は槍を撃ち上げて魔物を上空に飛ばす。

 そして、最後はベルフラウ様に任せる。


「――払いたまえ、<浄化>の光を」

 ベルフラウ様が詠唱を終えると、

 聖なる光が周囲に放たれ、悪魔の肉体が灰へと変わっていく。


「お、おお……!?」

 悪魔は、その光に呑まれてそのまま光の中に消え去った。


「……ふぅ、浄化の魔法も久しぶりねぇ」


「お疲れ様でした、ベルフラウ様」

 わたくし達は互いの労をねぎらい合います。


 そこに、魔物を倒して様子を見ていたレイ様がこちらにやってきます。


「二人ともお疲れ、案外大したこと無さそうだったね」

 レイ様は、さっきの戦いの疲労を感じさせない穏やかな雰囲気で言いました。


「うん、楽勝♪」

「レイ様もお疲れ様でした。さぁ、目的を果たしましょう」


 目の前にある巨大な魔力の結晶体の前に立ちます。


「それじゃあ、三人で同時攻撃しよう」

「ええ!」

「オッケー!!」


 レイ様の言葉にわたくし達は頷き、それぞれ、槍と、剣と、杖を構えます。そして、ベルフラウ様が杖から光弾を出現させて結晶体に攻撃した瞬間に、わたくしとレイ様が同時に武器を振るいます。


「「はああっ!!!」」

 三つの武器による強力な合体攻撃で、魔力の塊である結晶体は砕け散る。

 それと同時に、この空間内に発生していた魔力の流れは断ち切られました。


「これで、終わったのかしら?」

「多分、後はエミリアとサクラちゃんに任せよう」

 そしてわたくし達は、彼女らの連絡を待つことにしました。

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