第436話 拗らせてる二人

 ――前回のあらすじ――


 ミノタウロスさん、美味しかったです(小学生並の感想)



【視点:桜井鈴】


 僕が次の核を探しに十階層を歩き回っていると、見知った人物を見掛けた。

 僕よりも鮮やかで綺麗な銀髪に、幼い容姿ながらもキリッとした目元と年齢に見合わない大人びた雰囲気を醸し出す美少女。


 パーティのマスコットキャラであるレベッカだ。 


「あ……レベッカ、こっちだよーーー!」

 僕が声を掛けると、レベッカはボクの声に気付いてこちらを振り向き、トテトテと走ってくる。


「見つけました、レイ様!」


 レベッカは僕の姿を見つけると、子供のような嬉しそうな表情を浮かべて抱き着いてきた。こういうレベッカを見るのは久しぶりだ。


 僕は勢いよく抱き付いてきたレベッカを受け止めるが、勢いに押されて少しだけ後ろに倒れそうになる。


「うわっと、危ないよレベッカ」


「そ、そうでした……わたくしとしたことが、とんだご無礼を……」


 レベッカは、今恥ずかしくなったのか、一歩後ろに下がって咳払いをする。

 そして、緩みきった表情をキリッとさせて言った。


「レイ様、ご無事で何よりでございます。

 少々遅かったようなので、わたくしがお迎えに上がりました。

 ここからは二人で中央の魔力の核の捜索に向かいましょう」


「あ、そうだったんだ。心配かけてごめん」


 言われてみると、僕は、ミノタウロスのお肉を美味しく食べてから少し寝てたんだった。ダンジョン内だから日も差さないし、時間の感覚が分かり難いんだけど、もしかして結構時間が経ってたのだろうか?


「もしや、魔物に苦戦されておりましたか? レイ様、随分とお疲れのようでございましたし……」


 レベッカは、そう言いながら僕の顔を覗きこむ。


「ぜ、全然大丈夫だよ」


「ふむ……確かに、少し前に別れた時に比べると、むしろ血色が良くなっているような……?」


「あ、うん、ちょっとお腹を満たしたからね。元気になったよ」


 僕が答えるとレベッカは、「そうでございましたか、それなら安心しました」と、柔らかな笑顔で返してくれた。


 ……お腹を満たしたついでに寝ていたことは言わない事にする。


「ところで姉さんは?」


「ベルフラウ様は、代わりに先に中央部へ進んで調査を行っております」


「え、一人で?」


「はい」


 ね、姉さんが一人で、か……心配だ……。

 僕が心の中で思っていると、レベッカがクスクスと笑う。


「レイ様、お姉様がご心配なのは理解できますが、大丈夫でございますよ。ベルフラウ様もお強いですし」


「そ、そうかなぁ……」

 確かに、魔力も高いし見た目よりタフなのは認めるけど、何処か抜けているというか……。元女神様の筈なのに、今は僕達の方が強いくらいだ。


「ベルフラウ様は、確かにわたくし達と比べて表だって戦う事は得意ではございませんが、いざという時の機転に優れております。それに、離脱という能力においては私どもよりも格上かと」


「……まぁ、それは確かに」


 レベッカの言う通り、姉さんはいざという時は僕達よりも冷静に立ち回る。

 それは姉さんが<空間転移>という、一瞬でその場から離脱可能な特殊な技を使用できることに起因する。この技を使用するタイミングは、下手をすると僕達が全滅の危機に陥る状況であることが多い。


 だからこそ、レベッカは今まで僕達を救ってくれていた姉さんに全幅の信頼を置いているのだろう。


「なので、仮にベルフラウ様がピンチの時も大丈夫かと」

「……そうだね」


 分かっているのだけど、それでもやっぱり心配だ。


「ではレイ様、参りましょうか」

「うん」


 そう言って、僕とレベッカは手を繋いで歩き出す。

 その後、レベッカは空間把握能力が高いのか、彼女が僕を導いてくれてるお陰でスイスイと先に進んでいく。こういう時、レベッカの能力の高さにいつも驚かされてしまう。


「レイ様、次はおそらくこちらかと」

「わかった」


 レベッカに手を引かれながら僕達は歩いていく。


 時々、巡回中の魔物と鉢合わせするのだけど、僕達二人とも心眼の技能を有しているため、まず不意打ちされることが無い。


 加えて、先手を取る能力に優れているレベッカがいるため苦戦することが無かった。


「レベッカと一緒だと戦いやすいね」


「ふふ、ありがとうございます♪」

 僕が素直に感想を言うと、彼女は嬉しそうに微笑んでくれる。


 そして、しばらく歩く。

 相変わらずレベッカは道に迷う様子が無い。


「レベッカは全然迷う様子が無いけど、どうやって道を選んでるの?」


「わたくしですか? そうでございますね、例えば……」


 レベッカは、僕が質問すると足を止めて、床を見つめる。


「……この鉄床、そして壁には僅かではありますが綻びがございます。

 場合によっては割れていて風が入ってきていたり、壁の模様が変わっていたりなどの特徴を把握して、同じ道を避けているのです。他にも、あまり通らない通路であれば埃が多かったりと、判断材料は意外とあるものですよ」


「……す、すごいね。僕、そんな事全然考えてなかったよ」


 僕は、感嘆しながら答えた。

 確かに、僕は、魔力の核がある場所を探すのに必死で、そこまで気が回っていなかった。


「それに、魔力の核は魔力そのもの。

 心を落ち着かせて魔力を辿れば大まかな位置程度であれば……」


「言われてみれば……」


 レベッカの言う通り、魔力の核は魔力そのものの結晶体だ。

 大小あれど同じ魔力を保有する僕達も、魔力で人物を特定する技術がある。

 レベッカは、その能力を応用して、位置を感知しているんだろう。


「さすがレベッカ、頼りになるよ」


「あぅ……そ、それほどでもございません」

 僕が褒めると、レベッカは顔を真っ赤にする。


「いや、本当に凄い。ちっちゃくて可愛いのに、僕よりも全然思慮深くて賢くて……」


「う、うう……や、止めてくださいまし……」


 僕が思った事を正直に言うと、レベッカは更に顔を赤らめて恥ずかしそうに身を捩った。


「本当に凄いよ、レベッカは。知識や洞察力だけじゃなくて、魔法も武器の扱いも凄いし、弓を使えば百発百中だし、しかもすっごい可愛いし、声も綺麗だし、肌も白くて美肌で、髪もサラサラで綺麗で……」


「―――――っ!!」


 レベッカは顔を更に赤らめ、僕から視線を外して背後を向く。


「?」


「……れ、レイ様……それ以上、わたくしを褒め殺しにするのは止めてくださいまし」

 と、肩をプルプル震わせながら言った。


「あ、ごめん……色んな意味で言い過ぎたよ」


 普段思っていることを一度に言っちゃうと、つい言葉が止まらなかった。


「む、むぅ……しかし、こうまで言われてしまうと、わたくしも負けていられませんね」


 と、レベッカは何かを決意したかのように言った。


「わ、わたくしもレイ様に言いたいことがございます!!」


 そう言うと、レベッカは振り返って僕の目を見る。


「え、ええっと……」


「レイ様、貴方は素晴らしい方です!」

 レベッカは、真剣な表情で僕をじっと見つめる。


「それに、とてもお優しい方で、戦いでも最前線でわたくし達を守ってくださいますし、格好良くて、素敵で、紳士な方で、それにそれに……」


「ちょ、ちょっと待って……」


「それにそれに……ああ、駄目ですね……もっといっぱいお伝えしたいことがあるのに、上手く言葉が出てきません」


 そう言って、レベッカは少し悔しそうな顔を見せた。


「あー……うん。……その、僕も言い過ぎたから、勘弁してほしい……」


 褒め殺しにされるのがこれだけ気恥しいとは……。


「い、いえ、決してそのようなことは。ただわたくしは、レイ様のことをお慕い申し上げておりまして、 だから、レイ様の素敵な所をお伝えしたかったのです」


「……」


「だ、黙らないでくださいませ!?」


「い、いや……その、ね。このままだと告白合戦になっちゃいそうだから……」


「こ、こくはく……」


 と、僕の言葉を聞いてレベッカの顔はみるみると赤く染まっていく。

 レベッカだけじゃなくて、僕もだ。多分、お互いゆでだこみたいになっちゃってる。


「そ、それはつまり……その……」


「……まぁ、僕だけじゃないよね、その……」


「で、ですよね……わたくしも、以前に……」


 僕達二人は、お互い何も言えなくなって下を向いて顔を伏せる。

 随分前に、お互いの気持ちは伝え合っている。その時の事を思い出すと心臓が高鳴ってしまう。


 そうして、僕達は何とか平常心を取り戻そうとしていると……。


「あらあら、うふふ……」


「!?」「!!!??」

 突然の声に、僕達は慌てて振り向いた。

 そこには、僕達の様子を見て微笑んでいる姉さんの姿があった。


「ちょ、ね、姉さん!」


「べ、ベルフラウ様! いつの間にそこにいらっしゃったのでございますか!?」


 誰も見てないと思っていた僕達は、突然の姉さんの出現におどろき戸惑っていた。


「ふふ、いつからだと思う?」

 慌てる僕達とは対照的に、姉さんは穏やかな表情で僕達に問いかける。


「えっと、ついさっき?」


「ううん?」


「では、いつから?」


「えっと、ねえ……『レベッカは全然迷う様子が無いけど、どうやって道を選んでるの?』ってレイくんが言った時辺りかな?」


「ほぼ最初からいるじゃん!!!」


「う……という事は、わたくし達が褒め合っている時からずっと聞かれていたのですか……」


 僕とレベッカは、あまりの恥ずかしさに悶絶していた。


 その様子を見て、姉さんは、

「もう、二人とも可愛すぎ!」と、言いながら僕達を抱きしめた。


「あぅ……ねぇ……さ……」


「うぅぅ~……」


「うふふ……二人とも、尊いわぁ……。あー、可愛い可愛い可愛い……」


 僕とレベッカは、しばらく姉さんの胸の中で顔を真っ赤にしたまま、されるがままになっていた。

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