第434話 どさくさに紛れて呼び捨てにする魔法使いさん

 僕とサクラちゃんは、囚われた人達を見つけ出す。

 しかし、見張りの魔物は倒したはいいものの、彼らが収容されていた牢は、不思議な結界に覆われており、どうやっても開けることが出来ず僕達は撃つ手が無かった。


 僕は、通信装置のイヤリングを使用して、仲間に助けを求めることにした。


「エミリア、エミリア、応答お願い!!」

 僕は、必死に呼び掛ける。

 しばらくするとようやく繋がり、エミリアの声が聴こえてくる。


『レイ?』


「良かった、出てくれないんじゃないかと思ったよ」


『何ですか、この慌ただしい状況で……。まさか、トラブルに巻き込まれているとか?』


「い、いやまあ……ちょっと、ね。相談したいことが……」

 僕は、今の状況を簡潔に説明した。


「――――ってわけなんだけど、どうしよう?」

 僕が半ば縋る思いで、エミリアに助けを求めると……。


『そんなに必死にならなくても大丈夫ですから……』

 呆れつつも、どこか嬉しそうな声でエミリアは言った。


『実はこちらでも囚われた人達を見つけたのですが、似た様な状況です』


「そっちも? 何とか解除できる方法知らない?」


『こっちも少し試したのですが、この階層の何処かから魔力が流れ込んでいて、その魔力によって牢屋に強力な障壁が形成されているようですね。それを何とかしなければいけません』


「どうすればいい?」


『少し待っててください。流れ込んできている魔力の核を辿って、その場所を破壊すればおそらく……』


 イヤリングから聞こえるエミリアの声が遠ざかっていく。

 どうやら、何か魔法を使い始めたようだ。が、少しするとまた別の声が聞こえてくる。


『レイ様、レイ様、応答お願いいたします』


『やっほー、レイくん、サクラちゃん』


 何処かで聞いたことがあると思ったら、レベッカと姉さんの声だった。

 やや硬い声のレベッカに反して、姉さんはやたら軽い。


「聴こえてるよ。二人とも、そっちは大丈夫?」


『こちらは問題ありません。レイ様達の方こそ大丈夫でしょうか?』


「大丈夫、こっちも問題ないよ」


 すると、今度は姉さんの声が聴こえてくる。


『あれ、もしかして男の子に戻った? 声が戻ってるよ』


「うん」


『そっかー、なんか戻りたく無さそうだったから、ちょっと驚いちゃった』


「戻りたくない? 僕、そんなこと言ってたの?」


 僕が答えると、何故か沈黙が流れる。


「あの、どうかした?」

 僕が尋ねると、今度はレベッカの声が聴こえてくる。


『……レイ様、女性の姿になっていた時の事は覚えていらっしゃるでしょうか?』


「いや、実はあんまりなんだけど……」


『……そうでございますか』


 レベッカは、ほっとしたような、残念なような複雑な声を出す。


 ……何かあったんだろうか?


 僕は、首を傾げつつ、気を取り直して話を続ける。


「えっと、それで何か用事があったんじゃないのかな?」


『今、エミリア様に魔力の核となる場所を魔法で探して頂いているのですが、エミリア様は核の場所は複数にあると推測しておりました。ですので、個別に動いて捜索したいと思っております。許可をお願いしてもよろしいでしょうか?』


「分かった。僕達はどうすればいい?」


『もし、魔物が戻ってきた際に、見張りが倒されていると何かあったと気付かれてしまうでしょう。その場合、最悪囚われた人々に怒りが向く可能性がございます。なので、最低一人は残していただけると助かります』


「なるほど……じゃあ、サクラちゃんに残ってもらうことにしようかな……」


 会話しながらサクラちゃん達の方に視線を向ける。

 彼女は囚われた人達を励ますために、一生懸命話をしているようだった。


『承りました。では、こちらはわたくしとベルフラウ様が動き、エミリア様にここに残っていただいて通信魔法で指令を送って頂きます』


「分かった、そういう事にしよう」

 僕が了承すると、通信は再びエミリアの声に切り替わる。


『お待たせです、場所が分かりましたよ。核となる場所は合計三か所のようで、それぞれが牢屋の近くに一つずつ。それと、この階層の中央に最も大きな核があるようです。それらを壊してしまえば障壁が消えて自由になれると思います』


「ありがとう、エミリア。早速行ってみるよ」


『はい、ご武運を。……あ、それとサクラさんに通信を代わってもらえませんか?』


「ん? 分かった」


 僕は、耳のイヤリングを外してサクラちゃん達の方に歩いていく。

 サクラちゃんもこちらに気付いて、彼女にイヤリングを渡す。


「サクラちゃん、エミリアが話があるって」


「え、私? なんだろ?」

 サクラちゃんは、頭にクエスチョンマークを浮かべながらイヤリングを耳元に持っていく。


「……はい、あ、どーも。……え、アレをですかぁ?」


 サクラちゃんは困ったように頬に手を当てて言う。


「うぅ……あ、はい、了解しました。……あ、はいはい、それじゃぁ……」

 そして、しばらく会話した後、僕の方を向いて話す。


「話を聞きました。レイさん、今から核を破壊しに行くんですよね。近くの核を破壊したら、三人で中央に集まって対処した方が良いってエミリアさんが言ってましたよ」


「なるほど……エミリアが言ってたのはそれだけ?」


「いやー、実はエミリアさんに<移送転移魔法陣>の描き方を教えてくれって言われちゃいまして……」


「え、それって確か、図形の形や文字を全て同一にしないと機能しないっていうアレ?」


「まさにそれですよぉ。私も、師匠に散々習ったから教えられなくはないんだけど、通信装置の通話だけで教える自信が……」


「そっか……まあ仕方ないか。それで、どれくらいかかりそうなの?」


「ざっと見積もっても二時間はかかるんじゃないかなー」


「そんなにかかるのか……」


「だって、魔法式を書き写すだけでも大変なんですもん。

 それに計算もすごく多くて、展開術式も頭こんがらがっちゃうくらいっていうか……」


 それならいくらエミリアの頭が良くても時間が掛かるかもね。

 ちなみに僕はさっぱり理解できていない。雰囲気で魔法を使ってる。


 サクラちゃんが頭を悩ませていると、

 イヤリングから再びエミリアの声が聴こえてくる。


『おーい、お二人さん、聴こえますかー。私の事なら心配しなくて大丈夫ですよ。

 図形と応用さえ分かれば自力でどうにか出来るので、サクラさん……面倒ですね。こほん……『サクラ』は、図形の大きさとそこに記された術式の意味さえ教えてくれれば、大丈夫です。

 あとレイも、レベッカとベルフラウは出発してるので、行ってきてくださいな。近くの核を壊した後はレベッカ達と合流してくださいね」


「分かった。じゃあ、今度こそ行くよ。また後で合流しよう」

 そう言い残して、僕はサクラちゃんに通信用のイヤリングと、途中で入手した囚われた人達の所持品を預けてから駆け出して行った。

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