第433話 喜んでいいのか複雑な勇者ちゃん
僕達はそれぞれ別チームに分かれて十階層目を探索することに。
ここには、魔物達によって浚われた人達が何処かに監禁されているはずだ。
まずは彼らを見つけて助けてあげないとね。
―――捜索開始から、一時間経過。
僕達は何度か魔物に遭遇しながら進んでいくのだが……。
いくつか行き止まりに行きつきながらも迷いながら先へと進んでいく。すると、少しずつ周囲の風景が変わっていき、一部、鉄格子が掛かった牢屋のような場所に差し掛かる。
もしかしたらこの辺りに、囚われた人がいるのでは?
僕達は、そう考えてこの辺りを重点的に調べることにした。
しかし、余計な事に反応し始めた者がいる。僕の今の相棒のサクラちゃんだ。
「あ、宝箱発見!!」
「えぇ!?」
どうやら彼女はダンジョンの宝箱を見つけてしまったらしい。
確かによく見ると、奥の方に光る物体が見える。
「えへへ、開けちゃいますよぉ~」
サクラちゃんは嬉しそうな顔をしながら小走りで駆け寄っていく。
「また、ミミックじゃなきゃいいんだけど……」
下層で宝箱に化けていた魔物は『ミミック』という名前らしい。
ついさっき見事に引っかかった自分としては、ちょっと複雑な気持ちだ。
そんなことを考えている内に、サクラちゃんが罠の有無を確認してから宝箱を開ける。
「やったー! 当たりですよ!」
「おお!」
今回は本物のようだ。僕達は早速中身を確認する。
「……んー?」
「……これは……」
僕とサクラちゃんは、宝箱に入っていた物を見つける。中には、古びた指輪や皮の財布、錆びた銀貨や銅貨、そして、ボロボロになった布切れなどが入っていた。
正直、価値がありそうにも思えない。
「ハズレ、みたいですね……」
「いや……ある意味、当たりかな。多分だけど」
僕はそう言いながら、鞄の中から袋を取り出し宝箱の中の物を全て詰め込む。
「どういうこと、レイさん?」
「ほら、見て。この皮の財布に名前が書かれてるよ。多分、この名前の人が牢獄に入られた時に魔物に奪われて、魔物がここに適当に詰めておいたんじゃないかな」
僕の勘が当たってるなら、囚われた人達の持ち物なはずだ。
ある意味、当たりというのはそういう事だ。
「てことは、やっぱりこの辺りに……」
「うん、近くに牢に囚われた人たちが収容されてるんだと思う」
「よし! それじゃあ早く助けましょう!」
「もちろん」
サクラちゃんは張り切って前に出て歩き出す。
僕も彼女に付いていくように歩く。先に進むほど魔物と遭遇する率が上がってきて、僕達の予想は確信に変わりつつあった。
魔物との戦闘を繰り返し、怪しげな雰囲気を感じた僕達は足を止める。
僕達が行く先に沢山の気配を感じる。
それは、今まで遭遇した魔物だけではない。多分、人の気配も混じっていた。
「……」「……」
僕達は念の為、サクラちゃんより前に出て足音を消して進む。
そして、狭い通路を抜けて広い空間に出る。
そこには、大きな牢屋があって、その中に人間が纏めて収容されていた。
「……」
周囲には魔物の姿は見えない。
大勢魔物が配置されているとかと思いきや、意外だ。
「……」
牢屋に入れられてる人達は、皆、囚人服のようにボロボロの布の服を纏っている。男女の区別なく、大きめの牢に入れられており、中には小さな子供の姿も見られる。
どの人も、生気が抜けたような表情をしている。
血色はそこまで悪くないようで、数ヶ月入れられていたという感じでは無さそうだ。
まだ、浚われて間もないという事だろうか?
僕が考えていると、後ろからちょんちょんと肩を叩かれる。
振り向くと、サクラちゃんが小さな声で言った。
「行きますか?」
「……うん」
パッと見る感じ、魔物の姿が無い。
少なくとも、見た目動いているのは牢屋に入っている人達だけだ。
後は牢屋の周囲で揺らめく蝋燭くらいのもの。
……だけど、見張りがいないというのも不自然だ。何か見落としが無いだろうか?
そう思い、僕達はもう一度辺りを見回す。
すると――
「――!!」
僕は思わず声を上げそうになった。
今まで暗くて良く見えなかったが、牢屋の左右にに何かが置かれていた。
最初は、石像でも置いているのかと思った。しかし、違う。確かに、見た目銅像そっくりなのだけど、悪魔のような翼を持った忌々しい姿をしている。
そして、その姿には見覚えがあった。
「あれって……」
以前に潜った古代遺跡で見たことがある。
「ガーゴイル……ですね。……石像に化けた魔物です」
ガーゴイル、僕が下層で見掛けたミミックと同じくトラップモンスターの一種。
石像や彫像など、無機物に化け、近づく獲物を待ちかまえる魔物だ。翼があるため、空を飛ぶことが出来て、固い身体に覆われている強敵だ。
ただし、弱点もあり背後からの攻撃に極端に弱い。また視野も狭いようで、上手く物陰に隠れさえすればこちらの姿をすぐに見失うという欠点もある。
「とはいえ、ここから不意打ちは無理そう……」
「うん、正面から出ていくしか無さそうだ」
牢屋の中には多くの人がいる。
人質に取られる可能性もあるため、出来れば戦闘は避けたいところだが……。
「……どうしますか?」
「……よし」
僕は少し考えて、作戦を決める。
「僕が合図したら、サクラちゃんは魔法を発動させて。その後、僕がすぐに斬り込むよ。即座に一匹倒して、もう一匹の注意を引き付ける。その間にサクラちゃんは囚われている人達の救出に向かって欲しい。万一、彼らが人質にされない様に、サクラちゃんが護ってくれると助かる」
「……任せてください」
「うん、それじゃあ行こう」
僕は少し前に出てから、サクラちゃんは詠唱を始める。
「ダンジョンの精霊さん、力貸してね―――」
サクラちゃんが詠唱を始めると、彼女の周囲にマナが集結し始めて彼女の身体に取り込まれていく。そして、取り込まれたマナを自身でブーストさせながら、魔法の発動の準備を行う。その間、僕も剣を抜いていつでも飛び出せるように準備をする。
しばらくすると、彼女は魔法を放とうとする。
「風よ、刃となりて我が敵を切り裂け!
風の魔力が凝縮された斬撃がガーゴイル目掛けて解き放たれる。その威力たるや、同種の
「レイさん、逃げました! 後はお願いします!」
「任せて!」
僕は地面を強く蹴り、一気に加速する。
サクラちゃんの放った
そして、ガーゴイルの腹部に剣を突き刺す。
「ギャアァッ!!」
悲鳴を上げるガーゴイルに向かって僕は、剣に魔力を込めて追撃を加える。
「
突き刺さった剣に流し込んだ電撃魔法により、ガーゴイルは体内からビクビクと痙攣を起こし、やがて息絶える。
ガーゴイルを仕留めた後、地面に着地した僕は牢屋の中にいる人達の方を見る。
皆、突然の出来事に驚き固まってしまっている。
しかし、魔物はまだ一匹残っており、僕はそちらに向かう。
意外にもガーゴイルは僕を無視して、牢屋にいる人達に向けて動き出す。
もしかして、牢屋の中の皆を攻撃するつもりだろうか?
だけど、元々それを想定して僕達は動いている。
ガーゴイルは牢屋に居る人間の周囲に向かって<火球>の魔法を放つ。
おそらく脅しのつもりだ。これ以上暴れるのであれば、中にいる人間たちを皆殺しにする……と。
だが、それをこちらは初めから承知で動いている。
故に、彼女が牢屋の正面に即座に回り込む。
僕のスピードを凌ぐ勢いで、いきなり正面に回り込んだサクラちゃんは即座に魔法を発動させる。
「
彼女が使用したのは、風属性の正面に強烈な爆風を起こす魔法だ。
その魔法と、ガーゴイルが使用した火球の魔法をいとも簡単に弾き返す。
「!?」
弾き返された火球は、そのままガーゴイルに直撃し、吹き飛ばされる。
「えっへん! 囚われた人達は私が護りますよっ!!」
得意げに胸を張るサクラちゃん。
「だ、誰……?」
「もしかして、助けに来てくれたのか……?」
「うおおおっ!! 女神様だあっ!!!」
「ありがとうございます……!」
「ありがてぇ……、本当にありがてぇ……」
「助かったぁ~……」
牢屋の中の人達が口々に感謝の言葉を述べる。
「あはは、女神なんてそんなぁ……実物見た身としては複雑ですぅ……」
サクラちゃんは照れたような表情で謙遜している。
「レイさん、こっちは私に任せて」
「分かった」
彼女に囚われた人達を任せることにして、怯んだガーゴイル目掛けて斬り掛かる。
しかし、怖気づいたのか、ガーゴイルは再び空に浮上しようとするが、僕の剣が僅かに届いたため、魔物の片足を切り飛ばす。
「ぎゃあああああ!!!」
魔物は悲鳴を上げながらも、飛翔し続けて僕の攻撃範囲から逃れていった。
「……逃げたか」
僕は、敵の逃げる姿を確認して剣を鞘に納める。
無理に追う必要はないだろう。今は、囚われていた彼らを助けるのが優先だ。
「サクラちゃん、そっちに怪我はない」
「大丈夫です。ですけど……」
サクラちゃんは途中で言葉を途切れさせる。
「?」
何かと思い、僕は近づく。
「もしかして、鍵が閉まってるとか?」
魔物が見張っていたとはいえ、鍵が開いてるとは思えない。
「いえ、そうじゃないんです。見ててくださいね」
そう言いながら、サクラちゃんは短剣を取り出して、牢目掛けて斬り掛かる。
しかし、牢屋に当たる直前に、見えない透明な壁に弾かれてしまう。
「結界魔法かな……」
「多分……うぅ、私じゃ解除は難しいかも……レイさんは?」
「え? いや、えっと……僕も無理、かな」
……あれ、これ、もしかしてピンチでは?
「だ、大丈夫です、任せてください!」
と、サクラちゃんは彼らに元気づけるように言う。
そして、手の平を牢屋に向けて言った。
「皆さん、後ろに下がってください。強引に破ってみます」
サクラちゃんは手の平にマナを集中させて、そして中に居る人に当たらない様に牢屋の端に向けて魔力弾を解き放つ。
ドカンと、大きな物音を立てて衝撃が走る。
しかし、それでも牢屋は傷一つ付いていなかった。
「そ、そんなぁ……」
サクラちゃんは、へなへなと腰を落とし、床に座り込む。
「お、おいおい、折角ここまで来てくれたのに、出れないのか……」
「そんなぁ……」
捕らわれた人達は不安そうな声を上げる。
「待って、魔法に詳しい友達がいるんだ。少しだけ待っててください!」
僕は慌てて、イヤリングの通信魔法を起動させて呼びかける。
「エミリア、エミリア、応答お願い!!」
僕は、必死に呼び掛ける。
しばらくするとようやく繋がり、エミリアの声が聴こえてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます