第431話 十階層目

 ――第十階層にて


 ボク達は先を行く階段を見つけてようやく十階層目に辿り着く。

 そこは今までのような研究施設では無く、どちらかというと普通のダンジョンような場所だった。

 相変わらず固い鉄の床と壁で作られた場所だったのだけど、この場所は入り組んでおり少し迷宮のような場所に近い。


「ふむ……なんというか、今までに比べると普通でございますね」

「今までが妙にハイテクめいた場所だったから、むしろ落ち着くくらいですね」

 レベッカとエミリアは共感しながら頷き合う。


「こういう場所だとやっぱり宝箱がありそう……」

「否定はしないけど……」

 サクラちゃんの、言葉を肯定しながら、ボクは言葉を続ける。


「魔物から聞きだした情報によると、ここには人が囚われているみたいだよ」

「人が? ……そういえば、二階層でそれっぽい事言ってた魔物が居ましたね」

 ボクの言葉にエミリアは思い出すように話して、レベッカに視線を合わせる。


「レベッカ、あの魔物の尋問は任せていましたが、何を言ってました?」

 エミリアはレベッカにそう質問する。しかし、レベッカは首を左右に振る。


「残念ながら、大した情報は……それらしい言葉を吐いてはおりましたが、傷が深かったのかすぐに気を失ってしまいました。怒りに任せて背中から槍を突き刺したのはやり過ぎだったかもしれません」


 レベッカは申し訳なさそうな顔をして謝る。

 可愛いのに容赦ない事するんだね。そういう所も好きだけど。


 しかし、エミリアは言った。

「いえ、構いません。相手が相手ですし、ああいう輩に手荒な手段を取るのも仕方ないでしょう。それに、レベッカが怒るのも無理はありませんよ。レイも怒ってましたし……ですよね?」


「……え、そうだった?」

 どういう事を言ったかは把握してるけど、その時の感情はちょっと曖昧だ。


「そうですよ。……というか、何故また女の子になっているんです?」

 エミリアの言葉に、サクラちゃんとお姉ちゃんがボクに注目する。


「あ、それもそうね。普段から女の子みたいに可愛いから気付かなかったわ」

「ベルフラウさん、さすがにそれはレイさんも傷つくんじゃ……?」

 サクラちゃんは苦笑いしながら言った。


「まぁ、色々と理由が……」

「そうですか。ですが、その理由は終わったのでは? 男に戻らなくて良いのですか?」


 エミリアの質問に、ボクは、少し間を置いてから答えた。


「………今は、戻りたくない。理由は、……ごめんね、言いたくないかも」

 ボクの言葉に、エミリアは不満そうな顔をしたが、「そうですか」と言って納得してくれた。

 その間、様子を見ていたレベッカは複雑そうな顔をしていた。


「(気を遣ってくれてるんだね、レベッカ……本当に良い子だよ)」


 言葉に出さないけどレベッカに視線を合わせて心の中でお礼を言った。

 ボクの言葉で場に沈黙してしまったところで姉さんが、パンと手を叩く。


「さ、話はここまで!! 目的の魔道製造機を探さなきゃだし、レイくんは囚われた人達を助けたいんでしょ?」


「うん、早く助けてあげないと……」


「だったら、早く探しに行きましょう。といっても、この階層にあるってことくらいしか分からないわけだし、何処から探せばいいのやら……」


 ボク達は周囲を見渡す。以前までの階層と比較してもここは随分と複雑だ。

 捕まった人達は牢獄に入れられてるみたいだけど、もしかしたら逃げ出さない様に構造が複雑化してるのかもしれない。

 となると、見張りの魔物が多いかもしれない。

 これまでと比べて隠れる場所もなども少なそうで戦闘は避けられない。


「ふむ……どれだけの規模か分かりかねますが、しらみつぶしに探すとなると相当時間が掛かるかと」

「そうよね……」

 レベッカの意見に、お姉ちゃんは困った顔をしながら頬に手を当てる。


「とりあえず、分かれて行動するのはどうでしょうか?」

 これはサクラちゃんの提案だ。

 以前提案された時には、採用しなかったけど今回は効率を考えるなら得策だ。


「うん、それが一番効率が良いかな……」

 今回はサクラちゃんの提案にボクも同意する。


「あ、でもチーム分けはどうする?

 流石に五人全員が単独行動ってのは危ないんじゃないかしら?」


「そうだね……二チームくらいに別れるのがいいと思う。

 エミリア、サクラちゃん、<消失>インヴィジビリティの魔法はもう使えるようになった?」


 ボクは二人に質問すると、エミリアは試しに使用してみる。

 すると、彼女の姿が一瞬ぼやけたと思ったら完全に消えてしまった。


「問題なさそうだね」

「ええ」

 エミリアがボクの言葉に返事すると、魔法が解除されて再び姿が現れる。


「エミリアとサクラちゃんはそれぞれ別のチームで、ボク達三人は二人のどっちかに付いていく形にしよう」

「ふむ、了解しました」

「分かったわ!」

 レベッカと姉さんが了承したので、それぞれ決めることになった。


 そして、Aチームがボクとサクラちゃん。

 Bチームがエミリア、レベッカ、ベルフラウお姉ちゃんの三人になった。


「レイ、そのイヤリング貸してください」

「え、これ?」


 エミリアに頼まれて預かってたイヤリング型の通信装置を渡す。

 受け取ったエミリアは、イヤリングに自分の杖を向けて何かを呟く。

 すると、イヤリングにエミリアの魔力が付与される。


「これで、一時的に私とも通話が出来る状態になりましたよ。イヤリングを起動して私の名前を呼んでください」


 そう言って、エミリアは預けたイヤリングをボクに返してくれた。


「ありがと。っていうか、いつからエミリアは通信魔法使えるようになったの?」


「いえ、私が使えるのはイヤリングの機能にアクセスすることです。

 通信魔法と違って効果範囲が狭いですが、建物内であれば問題ないでしょう。

 それじゃあ、お互い連絡し合いながら捜索を進めましょうね」


「うん、わかった」

「では」


 そういって、エミリアは自分のチームのところへ向かう。

 それを見て、ボクもサクラちゃんのところに向かう。


「お待たせ」

「大丈夫ですよー。それにしてもまた二人でダンジョン探索ですね!」

「あはは、そうだね」


 サクラちゃんと初めて会った初日依頼のダンジョン探索だ。

 その時は人探しだったけど、途中で半ばお宝探しに夢中になってしまった。

 今回は目的を忘れないでしっかり助け出してあげたい。


「レイさんは女の子のままでいいんですか?」

「あー、そうだね……」

 ボクはちょっと考える。


「(あの時は、とサクラちゃんの二人っきりだったし……)」


 流石に、『ボク』がこれ以上介入するのは違うかな……と、思い直す。

 本当は、もう少し皆と居たかったけど……。


「ちょっと待ってて」

 ボクはサクラちゃんに待ってもらって、<身体変化の指輪>を発動させる。

 そして、『ボク』の意識が一瞬、途切れる。

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