第429話 女の子だもん
しかし、吸気口は狭くて男の身体ではとても動ける広さでは無かったため、レベッカの発案で女性の姿になって進むことにした。
【視点:???】
ボクとレベッカは施設内に張り巡らされている狭い吸気口の中を進んでいた。
「女の子モード……再び、だね」
ボクはため息を付きながら、目の前の暗い吸気口の中を進む。
「レイ様、そんなに女性の姿になるのがお嫌なのですか?」
レベッカが後ろから話しかけてくる。
「……ううん、そんなことはないんだけど」
最初の方は男に戻りたくて仕方なかったけど、今はそんな感情は湧かない。
むしろ、とある理由でこの姿になると男に戻るのが嫌になるくらい。
「その割に、ため息を吐いておりますが……」
「……少しね、この状態だと色々考えてしまうことがあって」
「と、言うと?」
「……うまく言えないけど、この姿はちょっと違うんだ」
「ふむ、どういう事でしょうか?」
「……」
レベッカが分からないのは当然だ。
ボク自身も確証がないし、言葉では上手く表現出来ない。
「……一言で表すなら、
「それは分かっておりますが……」
レベッカからすると何が言いたいのか分からないだろうね。
ボク自身、これを言ってもいいのか迷うくらい。
「……今から言うことは、皆には内緒にしてね」
「……? 構いませんが」
ボクは、すぅーっと、深呼吸を繰り返して覚悟を決める。
そして、それからボクは、懺悔する様に話した。
今の自分がどういう状態なのかを。
◆
それから、ややあって―――
「………」
後ろで、レベッカが息を呑んだような気配を感じた。
「………なんてね。ごめんね、変な話をして」
「い、いえ……その、なんと言ってよいのやら……」
ボクが苦笑しながら謝ると、レベッカは困惑した様子で言葉を濁す。
「……その、
「構わないよ。レイには違いないから…。
……ただ、今のボクが『桜井鈴』と呼べる存在なのかは分からないけど」
「……では、これからも今まで通り『レイ様』とお呼びしますね」
「ありがとう、そうしてくれると嬉しいよ」
……と、その時だった。
ボク達は吸気口の分岐の途中で、行き止まりになっている場所を発見する。そこにボク達が入ってきた
「レイ様、外の様子は如何でしょうか?」
「ちょっと待ってて……」
僕はこっそりと、蓋を取って下を覗き込む。
そこは施設の中庭のような場所になっていて、その先に階段が見えた。
どうやら、ここを降りれば次の階層に行けそうだ。
僕は顔を上げてレベッカに言った。
「レベッカ、下に階段があるよ」
「ということは、そのまま降りれば先に進めるということですか?」
「うん、ただ一筋縄ではいかないかも……魔物がいる」
ボクは再び、下を覗き込む。
予想通りというか魔物が階段前に待ち構えていた。魔物の数は三匹ほど、階段を守るように魔物が配置されており、他にも数匹、中庭に繋がる通路を見張ってる魔物もいる。
「(どうしよっかな……)」
戦闘で突破するという手も無くはない。この場で地上に降りて、即座に斬り掛かれば奇襲が成功し、階段を駆け抜ければ突破もさほど難しくない。
だけど、その場合は魔物達が上層まで追いかけてくる。
出来れば、魔物達には、ボク達がここに留まっているように思いこませたい。
「……そうだ」
ちょっと思い付いたことがある。
僕は頭を上げて、一旦ダクトの蓋を閉じて『僕』の時にズボンのポケットに入れておいた<匂い袋>をスカートの中から取り出す。
補足を入れておくと、ボクの装備は性別が変化すると形状も変化する様になっている。男性の時はズボンでも女性の時はスカートに変わる仕組みだ。
この匂い袋は、第一階層に積まれていた魔物の餌を一部詰めたものだ。
これを水に染み込ませると、魔物が好む匂いがする。
さっき下を見た時、中庭付近に水の溜まった岩場があった。
そこに投げ入れて、魔物を臭いで誘導させることが出来れば……。
「レイ様、それをどうされるのですか?」
「これを上手く使えば誘導できそうかも、レベッカ、これを矢に付けて放つことが出来る?」
「はい、可能です」
「それじゃあ、ちょっとお願いしていい? ボクの投擲の腕だとそこまで狙い撃ち出来なくて」
ボクはレベッカに、矢を撃つ場所を指示して、今度はレベッカが下を覗き込む形になる。
弓を引き絞る必要があるため、僕の時よりも身を乗り出す必要がある。なので、僕はレベッカの下半身辺りを上から支える必要がある。
「レベッカ、上手く狙えそう?」
ボクはレベッカの太ももよりも少し下辺りの脚の部分を両手で支える。
「あ、はい……大丈夫、なのですが……」「?」
レベッカは、何故か言葉を曖昧にして、再び顔を上げる。
どういうわけか、レベッカは凄く顔を赤らめていた。
「あ、あの……男性にそこを触られると……その……レベッカは……」
顔を赤らめてモジモジとくすぐったそうな表情をするレベッカの姿を見て、ボクはようやく理解できた。
「あ、ごめんね。でも大丈夫、ボクは女の子だから、レベッカの太ももを触っても特に何も思わないから」
「そ……それはそれで、複雑なのですが……」
「……なんか、ごめんね」
レベッカの気持ちを察して、ボクは彼女に謝る。
先程話したことは、彼女からすれば簡単に受け入れられないだろう。
ただ、何も感じないわけじゃないのは内緒。
プニプニもっちりした白い太ももが凄く羨ましいと感じてる。
何食べたらこんなに綺麗な肌になるんだろ……?
気を取り直して、レベッカは再び下を覗き込み、その状態から<限定転移>を使用し、矢と弓を取り出す。
今回取り出すのは、何の変哲もない『木の矢』だ。
岩場に弓を放った時に、他の矢だと矢じりが突き刺さって、ボク達が何か細工をしたことに気付かれてしまう。なので、固い場所に着弾すると矢じりを含めてバラバラになってしまう『木の矢』を使って証拠を消す。
それでも人間なら気付かれてしまうが、
生憎、下に居るのは知性の乏しい魔物達だ。おそらくバレないだろう。
「――――っ!」
レベッカは、小さく息を吐いた後に、濡れた岩場目掛けて、匂い袋を付けた矢を放つ。
そして、見事に命中する。
水に濡れた匂い袋は、異様な匂いを放ち始め、僕達は鼻を抑える。
「う……」
「これは、ちょっと人にはイヤな匂いだね」
ボクは、苦い顔をしたレベッカと顔を合わせながら苦笑する。
例えるなら、腐った魚を大量に集めた水槽の中に、強烈な香水をぶちまけたような感じだ。どうも魔物は極端な臭いの物が好物らしい。普段ジメっとした場所に居るのもちょっと納得だ。
当然のように魔物達が騒ぎ出し、匂いの元を探し始める。
階段の下に待機していた魔物三匹も匂いに釣られてフラフラと匂いの方に向かっていった。
「……じゃ、降りよっか」
「はい」
ボクは、頷いて先にダクトから降りる。着地の寸前に、風魔法を利用して、着地の衝撃を可能な限りゼロにして、音も立てないようにする。
「(さて、敵は……)」
魔物達の様子を見ると、見事に匂い袋の方に釣られていた。
安全を確認したボクは上のレベッカにサインを送る。
その後、飛び降りてきたレベッカをお姫様だっこの形で受け止める。
「(……れ、レイ様重くありませんか?)」
「(ううん、凄く軽いよ)」
ボクは、そのままレベッカを降ろしてあげる。
そのまま、僕達は足音を立てないように、階段を走り抜け、無事に次の階層に辿り着いた。
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