第428話 こっそりと

 僕とレベッカは、後ろで叫んでる間抜けな悪魔を無視して上層を目指す。

 レベッカが階段の場所を知っているため、彼女に道案内をしてもらいながら先に進むのだが……。


「レイ様、魔物が……!」

「!!」

 レベッカが足を止めて小さく叫ぶ。

 目の前を見ると、<動く鎧>や<ゴブリンウォーリアー>などの人型の魔物が、

 唯一言葉を話せる<アークデーモン>の指示に従い通路を巡回していた。


「一旦隠れよう」

「はい」

 僕達は通路に置かれていた物資の影に隠れて様子を見る。魔物達は通路内と周囲を何度も巡回しており、時折通路内にある部屋の中を調べているようだ。


「……いたか?」

 アークデーモンが部屋を調べていた動く鎧に声を掛けるが、動く鎧は言葉を話せないため首を横に振っていた。

 どうやら、この魔物達の目的はこの階をくまなく調べることにあるようだ。

 多分、僕達か先に進んだエミリア達を捜索しているのだろう。


 <消失>インヴィジビリティの魔法で切り抜けられないか少し前に試したのだが、エミリアの言う通り消失の魔法が作動しなかった。時間制限付きで封じられたのか、永続的になのか分からないが、少なくともこの階層では頼れそうにない。


「(……どうするかな)」

「(レイ様、ここは強行して進んではどうでしょうか、階段も遠くありませんし)」

 僕とレベッカは、声を小さくして小声で話す。


「(階段の距離はどれくらい?)」

「(全速力で走ってあと1分程かと、距離に換算すれば1キロ程度と思われます)」

 ……いや、その速度はどうみてもレベッカ基準だろう。


 仮に全力疾走しても僕には到底無理だ。それに、この階には敵がうじゃうじゃいる。ここで見つかって戦闘になった場合、最悪挟み撃ちになって袋叩きにあう可能性もある。


「(では煙幕を焚くのはどうでしょうか、エミリア様の薬品が残っております)」

 悪くない案だとは思う。

 ただ、それを使うと次に追い込まれた時の離脱手段を失ってしまう。


「(……とりあえず、一旦この場から離れよう)」

 僕達は見つからない様に、少し後戻りしてから小部屋の中に入る。部屋の中は、木箱や樽などが多く積まれており、奥の方には食料庫らしき場所があった。


「……さて、どうしようか」

「……どうしましょう」


 二人で小部屋に籠って作戦会議をする。

 とはいえ、魔物達が巡回してるとなるとここにもいずれ入ってくるだろう。

 時間はあまりなさそうだ。


「通路は魔物が巡回中だし、多分広間は魔物が待ち構えているはず。二人で戦い抜くのは正直厳しいかな」


「煙幕で切り抜ける方法もあるかと思います」


「うん、でもその手段は六階層目で一度使ってる。急場を乗り切る手段なら良いけど、騒ぎで魔物が寄ってくる可能性が高いよ。今は下手に使わない方が良い」


「……しかし、わたくし達二人で行える手段は限られております」


「そうなんだけど……、うーん、何処かに隠し通路みたいな場所があればなぁ……」

「……」

 僕が頭を悩まし始めると、レベッカは僕の顔をジッと見つめる。

 何か言いたいことがあるのだろうか?


「レベッカ、どうかした?」


「あ、いえ、実はここの施設についてですが、エミリア様が仰っていた事が……。

 これだけ規模の地下施設となれば、吸気口きゅうきこうで酸素を取り入れないとまともに過ごせないでしょうね……と」


「吸気口……! そっか、そういう手もあったか」


 僕は思わず軽く手を叩く。

 確かに、これほど深い地下施設ともなれば吸気口があるはずだ。

 それを利用できれば、敵の目を掻い潜れるかもしれない。


「となると、通路の何処かか……もしかしたら部屋の中に?」


「分かりませんが、探す価値はあるかもしれません」


「よし、そうと決まれば、まずこの部屋の中から探ってみよう」

「はい!」

 僕達は部屋の中で、出口に繋がる吸気口を必死に探し始めた。

 すると、一か所、奥の食糧庫の端の方の天井に、空気を入れ替えるためのダクトが設置されていた。


「レベッカ、見つけた!」

「本当ですか!? レイ様、早速参りましょう!」

 しかし、ダクトの大きさは人が入るにはやや窮屈で、およそ直径六十センチといったところだろうか。レベッカくらい小柄な女の子なら入れるが、男の僕には厳しいか。

 

 それでも、レベッカだけなら行けるはず。


「レベッカ、入れそう?」

「はい、ここから跳んでみます」


 レベッカは助走をつけてから横の壁に跳び、そこから壁を蹴ってジャンプする。

 所謂、三角跳びというやつだ。そしてダクトの端に手を掛けて、レベッカは身体を揺らして勢いを付けてから腕に力を込めて、身体を一気に持ち上げる。


 そして、彼女の身体能力の高さと身軽さが功を為し、上手くダクトの中に入り込めた。

 レベッカは顔と手をダクトの外に出して、僕に手を差し伸べる。


「レイ様、わたくしの手を取ってくださいまし」


「いや、僕の体格だとちょっと無理かな。別の場所を探すからレベッカは先に行ってて」


「で、ですが……!」


「大丈夫だよ、また会えるんだしさ。ほら、行っておいで」


 僕が笑顔で言うと、不満そうな顔をしてレベッカはダクトの中に引っ込む。

 しかし、ちょっと沈黙した後、再び彼女は顔を出した。


 そして、溢れんばかりの笑顔で言った。


「レイ様、女性になってみては如何でしょう!?」

「は!?」


 レベッカの謎の提案に、僕は数秒間の時間戸惑っていたが、

 <身体変化の指輪>で身体を小さくすれば行けるのではないかという提案だった。他に手段も無かったため、僕はその提案に乗ることにした。


 ……その後、ボクとレベッカがどんな会話をしていたのか、僕は何故か記憶が無かった。

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