第426話 聖剣はレーザーを撃てる
―――第八階層にて。
勢いに乗じた僕達は、魔物の数が少ないうちに魔道製造機を目指してひたすら突き進む。
しかし、数が減っているとはいえ、魔物の基地であることには変わりない。時折、魔物の傍を通り過ぎてるが、物音に気付いて魔物達がこちらに向かってくることもあった。
「おい、今の音聞いたか!?」
「ああ! 六階の放火騒ぎといい基地内で何か起きているぞ!」
「くそっ! 俺達が探し出してぶっ殺してやる!!」
「多分、犯人は姿を消して動いてるはずだ。慎重に探すんだ!!」
魔物達の怒号が響き渡る中、僕達は気にせず走り抜ける。
そして、ようやく魔導製造機の元へたどり着いた。
「急いでください、敵に勘付かれないうちに」
「うん、これをセットすれば……」
僕は仲間に急かされながら魔法の弾をセットする。
これで残りはあと二つだ。
「よし、次の階層に向かおう」
僕は仲間に呼びかける。しかし、事はそう上手くいかない。
突然、魔道士風の魔物が通路の方から何匹か現れる。
そして、奴らはこちら杖を向けて一つの魔法を協力して発動させる。
「
僕達の足元付近に巨大な黒の魔法陣が出現し、黒い光が僕達を包み込む。
すると、僕達に掛かっていた
「しまった!」
「く……魔法無力化されてしまいましたね……!」
僕達は、魔物の前に姿を完全に晒してしまった。
「やはり姿を隠していたようだな!!」
「逃がすものか、こい!!」
魔道士風の魔物の後方から多数のゴブリンが現れてこちらに向かってくる。
数はおよそ二十程で、グレートゴブリンやゴブリンウォリアーなどの上位種が殆どだ。
更に、奥の方にはまだこちらに向かってくる魔物達の姿がある。
「レイくん、どうしよう……!」
姉さんが焦った表情で聞いてきたが、この状況となると対処は限られてくる。
逃げるか殲滅するかのどちらかだ。
まだ魔道製造機はあと二つ残っており、まだ四階層分残っている。
この場で撤退し、逃げ帰るわけにはいかない。
かといって、時間を掛けて倒そうとすれば魔物達が延々を湧いて出てくる。
「エミリア、もう一度
僕はエミリアに向かって声を掛けるが、エミリアは首を横に振る。
「……駄目です、どうやらさっきの魔法で一時的に同じ魔法が使えなくなっているようです」
「……不味いね」
消失の魔法が使えないということは、ここから隠れて進むことが困難になる。
そうなればどうしても遭遇戦が続いてしまい、いずれこちらが体力切れを起こしてしまう。
「レイさん、ここはもう戦うしか!」
サクラちゃんは両手に短剣を構えて、僕達を守るかのように前に出て魔物の前に立ち塞がる。
「……サクラ様の仰る通りですね、ここからは強引に行きましょう」
サクラちゃんの言葉に同意したレベッカも、<限定転移>で槍を取り出して構える。
既に二人とも、戦う気満々だ。
確かに、この状況下では戦うしか道が無いかもしれない。
ただ、それを行うのはまだ時期尚早だ。
これ以上増援が増えてしまうと、消耗戦となってしまいこちらが不利。
仮に勝ったとしても、先に進むだけの余力を残せるか分からない。
消耗したところで不意を突かれて全滅ということもあり得る。
なら、何とか突破口を開いて、この場から離脱をするべき。
そう思い、僕達は皆に声を掛ける。
「皆、巻き込まれないように後ろに下がって」
そう言いながら僕は、鞘から剣を取り出して構える。
「レイ様、何を?」
「強行突破する。あと、姉さん、これ渡しておくよ」
僕は姉さんに鞄を投げ渡す。
しかし、僕の言葉に、姉さんは首を横に振って言った。
「まさか、レイくん一人で戦うつもり!?
そんなのダメ、私だって戦えるから一緒に――」
「別に、囮になるとか『ここは僕に任せて先に行けー』って言うわけじゃないよ。今から使う技が不慣れだから少し邪魔になるんだ」
僕は姉さんにそう言って、聖剣に呼びかける。
「
『……眠ってたのに……』
僕の声に、蒼い星は本当に眠っていたかのような気の抜けた声で応える。
「そう言わずに頼むよ」
『仕方ない……じゃあ形状変化する』
蒼い星は渋々言いながら、剣の姿が光り輝いて大剣の姿に変貌する。
「何をゴチャゴチャと!!
構わん、人造ゴブリン共!! 貴様らの強さを見せてやれ!!」
魔道士風の魔物が号令を掛けると、ゴブリン達が一斉に襲ってくる。
僕は、深呼吸して前に出る。
「――――
そう剣に話しながら、僕は剣を横に構えて、その場で一閃させる。
「
技名を叫ぶと同時に、一閃された斬撃が光を放ち前方に破滅の光をもたらす。その一撃は前方の敵全てを呑み込み、一瞬にして殲滅し、周囲の壁や床を削り取っていく。
光が収まる頃には魔物達は一匹残らず消滅しており、魔道士風の魔物だけがその場に消滅せずに残る。しかし、僕の放った攻撃の余波により魔道士もボロボロになって倒れる。
「ば、馬鹿な………まさか、貴様……ゆう………しゃ」
魔物は、何かを言いかけて絶命する。
「い、今の技って、先輩の……」
「カレンの……聖剣技……ですか?」
「名前だけだよ。それより皆走って!!」
僕は大声で呼びかけて、みんなはハッとした表情となり一斉に駆け出す。
僕も一緒に駆け出そうとするのだが―――
「―――っ!」
見様見真似の聖剣技を無理矢理発動したためか、立ちくらみで足を止めてしまう。
「……レイ様?」
「……何でもない、先に行って」
レベッカの心配そうな表情に笑顔を作って答える。
彼女は何か言いたそうだったが、再び走り出す。
『―――レイ、平気?』
「……大丈夫、ちょっと疲れただけだよ。少し休憩すれば―――」
しかし、皆が先に行った直後。
後ろからドゴンと強い力で何かを殴り飛ばしたかのような音が響く。
振り向くと体長四メートルはあろう、紫色の人型の魔物が扉と壁を突き破って現れる。
「ブルルルルァァァァァァァァ!!!」
魔物は僕達を見ると、雄たけびをあげて周囲を振動で震わせる。
「こいつは、オーガ……かな」
僕は魔物の正体を推測する。装備や外見の大きさに差異はあるものの、頭に角が生えて筋肉隆々で身長の高い体型は、以前見たオーガに酷似している。
鉄で出来た棍棒を左右一本ずつ手に構えており、白目を剥いて筋肉が膨張したかのように血管が剥き出しの状態だった。
『違う、あれはそれの上位種。<オーガロード>と言われる存在』
「なるほど……あれが」
蒼い星の解説に僕は納得する。
『……ただ、様子がおかしい。オーガ種は凶暴だけど、それでもある程度の知性が残っている。
でも、目の前のオーガロードは理性を完全になくしてる。まるでバーサーカーみたい』
「……もしかして、この研究所で製造された魔物?」
『あり得る』
「……何にせよ、強敵っぽいね」
しかし、魔物は何故か積極的にこちらに襲ってこない。
「……何で近づいて来ないんだ?」
『おそらく、生まれたばかりで知性が低すぎるのだと思う。命令が無いと動かないのかもしれない』
「それなら、このまま逃げよう」
僕は聖剣を構ながらオーガロードから距離を取って後ろに下がると、
オーガロードが入ってきた入り口から別の魔物がこちらに向かって走ってくる。
「……はぁはあ……! な、なんだこのザマは!? 貴様の仕業か!!」
入ってきた魔物は、部屋の惨状に驚愕しながらこちらを睨みつける。
「オーガロード、コイツを殺せ!!」
命令を受けたオーガロードは、襲いかかってくる。
『やはり、自身で考える能力を持っていない?』
「かもしれない……逃げたかったんだけど、仕方ないね」
オーガロードは右の棍棒を振り上げて、僕の居る場所に無造作に叩きつける。その攻撃を後ろに跳んで躱すが、叩きつけた衝撃で周囲の床が割れ、そこから破片が飛び散る。
「……これじゃ近づけないね」
四メートルの巨体から繰り出される攻撃は、当たればひとたまりもない威力だろう。
おまけにリーチの差があり過ぎてこちらの攻撃が届きそうにない。この研究所内だと走り回りながらヒットアンドウェイするだけの広さも無く、まともに戦える状況じゃない。
「なら、これはどうかな……!!」
僕は剣を構えて、魔法を使用する。
使用する魔法は
「グォオオオッ!!」
全身に強力な電撃が流れ、オーガロードの身体の至る所の細胞がはち切れて煙を上げる。
両腕も黒焦げになって既にボロボロだ。
「よし、十分効いてる……!!」
通常の個体よりは明らかに強いものの、能力的にはそこまで飛び抜けているわけではない。
今の自分であれば、単独でも勝利を得られるレベルの相手だと判断する。
「トドメだ」
あれほどのダメージを負ってしまえば両手の棍棒を振るうことも出来ないはず。仮に出来たとしても、その振り上げる速度は著しく低下して、僕に攻撃が直撃する前に僕の剣が先に届く。
―――結果的に、その判断は誤りだった。
初速を使い、僕は一歩目の踏み込みの速度を上げて魔物の懐に入り込む。予想通り、魔物は僕の速度に付いてこれず、オーガロードは遅れて棍棒を僕に向けて振り上げようとする。
「遅い!」
懐に入っていた僕は、構わずその肉体に向けて聖剣を突き入れる。加速を伴ったその突き攻撃は、魔物が装備していた鉄の鎧を容易に貫き、腹から背中を貫く。
血しぶきを浴びながらも、確実な一撃を与え、
敵を倒しきれたことを確信し、僕は剣を魔物の身体から引っこ抜く。
そして、魔物の顔を見ると……。
「ブルルルァァァ!」
「ッ!! なっ……」
だが、魔物の動きは止まらなかった。
背中を貫かれて、まともに身体を動かせないはずなのに、まるで痛みを感じないかのようにオーガは僕に向けて棍棒を構える。
回避を考え、僕は動こうとするが―――
「―――っ!!」
先程の聖剣技で、魔力を持ってかれてしまったため再び立ちくらみを起こす。
そのせいで、僕は動きを再び止めてしまう。
『レイっ!!』
蒼い星の切羽詰まった僕を呼ぶ声が脳に響く。
「―――――っ!!」
次の瞬間には、魔物の棍棒が僕の身体に振り下ろされる―――!
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