第425話 一気に駆け抜ける
敵基地にて騒ぎを起こしながらも任務を続けている僕達だったが、少々、派手な行動を起こしてしまったため、僕達は小部屋にて事態が収まるのを待つことにしていた。
「……」
僕は扉を小さく開けて、周囲の様子を伺う。
「……レイくん、どお?」
「うーん……まだ魔物が集まってるね……ちょっと出れそうにないかも」
被りを振りながら、僕は扉を静かに閉める。
「黒煙騒ぎは流石にやり過ぎたかもしれませんね……」
エミリアは床にぺたんと座りながら苦笑する。
「エミリア様の薬品は効果絶大でございましたね」
レベッカが感心するように言う。
「あはは、でも煙が可燃物に引火して爆発するとは思いませんでしたねー」
サクラちゃんは少し困ったような緩い笑顔で言った。
「これが火薬じゃなくて良かったよ……」
僕は鞄に入ってる魔法の弾のケースを取り出す。仮にこれが魔道具じゃなくて可燃物の類だったら、煙を焚いた時点で僕達も危なかった。
残った魔法の弾は残り四つ、上層の何処かにある魔道製造機の残数と同じだ。
僕達はあと四つ見つけてセットすれば任務完了となる。
「派手に周囲に引火しちゃったせいで色んな場所が火事になっちゃったわね……。もし、ここが民家だったら私達、放火犯よ」
姉さんは、ちょっと罪悪感を感じたのか、ため息をついた。
その様子を見て、僕達は乾いた笑みを浮かべる。
それにしても、エミリアの薬の効果は凄まじかった。
あれほどのものを簡単に生み出せるとか、実はとんでもないのでは?
「エミリア、この煙幕が調合で簡単に作れるってマジなの?」
「あー……これは、私が改良しまくったものなので実質別物ですね」
「そ、そうなんだ」
僕が相槌を打つと、エミリアは機嫌良さそうに答える。
「最近、調合にちょっと嵌ってるんですよ。万能ポーションを作るのが目的ではあるんですが、過程で色々なアイテムを作ってまして。今回は持ってきてませんが、今度、色々見せてあげます」
「楽しみにしております、エミリア様」
「任せてください!」
エミリアはガッツポーズをする。
「……はは」
楽しそうなエミリアは置いといて……。
この階層には上層から降りてきた魔物達が集結しつつある。最初に比べるといくらかマシになっているがまだ数が多い。とはいえ、いつまでも隠れているわけにもいかない。
「(なんとかならないかな)」
ここが安全だという保証は何処にもない。万一、魔物が犯人捜しを始めて、魔力を探知されるような事をし始めたら一発でバレる。
「レイさん、扉をじっと見て何を考えてるんです?」
サクラちゃんは扉を睨みつけていた僕を不思議そうな目で見ながら言った。
「うん、どうやったらこの状況を切り抜けれるかと思ってさ」
「今は待つしかないと思うんですけどー」
「……だよね」
彼女の言う通り、今は身を隠すのが安全策ではあると思う。
ただ、騒動を起こしたことで、魔物達の警戒心が強まってしまったのは事実。このまま魔物達が元の配置に戻ったとして、僕達は今までより苦戦を強いられることになるだろう。
なら、今すぐこの場を突破して進むことが出来れば、
今は手薄な状態の上層を攻略出来るんじゃないだろうか。
「(やってみる価値はあるかな……)」
幸い、僕達はいくつか身を隠す手段を持ち合わせている。
やろうと思えば、魔物達を素通りしながら先に向かうことも出来るはずだ。
「……よし、皆、ちょっと聞いて」
僕は、皆の方を振り向いて言った。
「ここから一気に上まで駆け上がって、魔道製造機を探したいんだけどどうかな」
僕の提案に、皆は黙り込む。
「それは賛成ですが、敵に見つからずに行けるでしょうか?」
これはエミリアの質問だ。僕はそれに答える。
「今、魔物達は総出で異変の対処に当たってるっぽい。
少々物音があったとしても、気を取られている状況じゃないはず。
姿を隠せば走っていっても気付かれる可能性が低いと思う」
「……一理なくはないですが、慎重派のレイにしては珍しい提案ですね」
「僕は慎重というより臆病なだけだよ。だけど、ここで時間を潰して事態が好転するとは思えないし、 今なら上層は手薄なんじゃないかって思うんだ。
ここで待っていても警備は厳重になるだけだし、今が頑張り所かなーって」
僕は苦笑する。
「成る程、確かにそうですね……」
「ふむ……レイ様の推測も、正しくはありますね……多少賭けではありますが」
「うーん……
エミリア、レベッカ、姉さんは、一応僕に賛同してくれたようだ。
あとはサクラちゃんだけど……。
「良いですね! 行きましょう!!」
彼女は元気よく立ち上がると、やる気に満ちた表情をしていた。
「サクラちゃん、大丈夫? かなり疲れてるみたいだし、休んでても……」
「いえ、私はまだまだ平気ですよ!」
サクラちゃんは両手でガッツポーズをしながら言った。
その様子だと心配なさそうだ。
「……よし、それじゃあエミリア、まずは扉の外の周囲の索敵をお願い。
敵の数が少なければ、サクラちゃんに消失の魔法を使ってもらってそのまま走って上に向かうよ」
「了解しました。すぐに調べます」
エミリアは、扉の前に立って魔法陣を展開して
そして、それから一分ほど索敵を続けて、エミリアが反応した。
「周囲500メートル範囲の敵の数が合計三十匹、うち通路で遭遇する可能性のある魔物は五匹です。一気に走りきれば、誤魔化せるかもしれません」
「よし、それなら……」
僕は、サクラちゃんの方に目配せして、彼女にサインを送る。
しかし、エミリアは続けていった。
「―――ですが、一匹の魔物はこの部屋に近付いてきています。……これは」
「……まさか、この部屋に?」
「多分、あと十数秒もしないうちにこの部屋に入ってきます」
エミリアは、顔を強張らせて、扉から離れる。
同時に、様子を伺っていた他の皆も臨戦状態に入る。
「……いや、大丈夫」
僕は扉の近くに待機する。
「レイ?」
「魔物がこの部屋の扉を開けた瞬間、僕が魔物の手を掴んで引っ張るよ。
その後、即座に無力化して、すぐにここを出よう」
僕は早口で言って待機する。
そして、その五秒後―――
――ガチャッ、と音を立てて扉が開いた。
「(今だ!!)」
僕は素早く前に出て、魔物の手を掴む。
「!?」
僕が手を掴んだのは、ゴブリン上位種のグレートゴブリンだった。
体格はそこまで大きくないものの、単純に戦闘力が向上したタイプの変異種でもある。
しかし、この状況なら何の魔物だろうと関係ない。
僕は魔物の手を引っ張り、そのまま羽交い締めの形に持っていく。そして、サクラちゃんは魔物の口をハンカチで塞ぎ、手に持っていた短剣で魔物の喉を切り裂いた。
「…………!!!」
魔物は叫び声をあげようとするが殆ど声が出ず、床に倒れて絶命する。
「行こう!」
僕は声を出すと、サクラちゃんが自身を中心とした範囲に
幸いなことに、下層の騒ぎに気を取られているのか、上層には見張りらしき魔物の姿はなかった。僕達は、誰一人として見つかることなく上層へとたどり着くことが出来た。
―――第七階層にて。
僕達は魔物が少ないうちに通路を走り続ける。数回魔物と鉢合わせしそうになったが、魔法ののお陰ですぐには気付かれることはなく、僕達は構わず進んでいく。
そして、第七階層の魔導製造機の部屋に辿り着いた。
「レイ、魔物は出払っているようです、誰も居ませんよ」
「よしなら早速―――」
僕はケースから魔法の弾を一つ取り出し、魔導製造機にセットする。
「……これで、あと三つだ」
「レイさん、この調子でまた上層に行きましょう!」
「うん!」
僕はサクラちゃんに返事をして、再び僕達は駆け出す。
「ま、待ってぇ……!!」
姉さんだけ、みんなの速度に付いて行けず遅れて走り出す。
僕達は、一旦足を止めて、姉さんが追いつくのを待つ。
「……仕方ありませんね、レベッカ」
「はい……。精霊よ、お力添えを――――
彼のものに、韋駄天の加護を与えたもう―――
姉さんの足元に魔法陣が展開され、姉さんが光に包まれる。
「あ、ありがと、レベッカちゃん」
「いえ……エミリア様、魔法が解けたようなのでお願いします」
「了解です。……
魔法を使用したレベッカと姉さんの消失の魔法が解除されてしまうが、傍にいたエミリアが即座に掛け直す。全員に魔法が掛かったところで、再び僕達は駆け出す。
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