第421話 玄関先で泥棒行為を働く勇者

 僕達は海底洞窟に向かい、洞窟内にあった隠し部屋を発見する。

 そして、隠し部屋の中に別の場所に梯子を見つけて、僕達はその先に目的の魔導研究所があると確信する。


「まずは僕から行くよ」

 通じる場所が安全である保証は何処にもない。

 いきなり攻撃された時に素早く逃げ出せるように、最初は僕一人で梯子に手を掛ける。


 梯子を上ってから鉄で出来たハッチを開く。そして顔だけ出して通じている場所を確認する。そこは今までのような洞窟のような様相ではなく、周囲は分厚い鉄板の壁で補強された部屋だった。


 壁際には小さな燭台があり、そこに火が付いている。部屋の中はそこまで広くなく、物資が多数置かれている。この部屋は倉庫を兼ねているらしい。正面には鉄の扉がある。


「……レイくん、どお? 敵さんとかいる?」

 梯子の下で待機していた姉さんに声を掛けられる。


「ううん、誰もいないよ」

 物資の影に魔物が隠れていないかを探ってから僕達は下の4人に安全であることを告げる。

 そして、僕に続いて彼女達も梯子を上ってくる。


 ひとまず全員上れたことを確認すると、僕達はその部屋を検分する。


「洞窟を出たと思ったら、随分とまぁ近代的な場所に出ましたね」

 エミリアは、部屋の中の壁に触れながら言った。


「何かしら、この部屋……倉庫?」

「ふむ……何でしょうか?」

 姉さんとレベッカは、部屋に積まれている粉状の何かが入った白い袋に触れる。

 重さは10キロほどでそれが何段にも積み重なっている。


「エミリア様、この袋の中を鑑定してもらえませんか?」

「はいはい、待っててくださいね」


 エミリアはレベッカに呼ばれて振り返り、物資の方へ足を運ぶ。

 物資の調査は目的ではないけど、今は安全そうだから慌てなくても大丈夫だろう。


 そう思い、僕は鉄の扉の方に意識を向ける。

 サクラちゃんも僕と同じ事を考えていたようで、僕の隣に並んで言った。


「レイさん、扉の先を確認しました?」

「ううん、今から」

 サクラちゃんにそう返事を返しながら、僕は鉄の扉の取っ手に手を掛ける。

 そして、音を立てないようにそっと開けると、隙間から外の様子を確認する。


「……廊下だね」

 僕が見た光景は、この部屋に似た鉄の壁と床で作られた長い廊下だった。

 ここ以外にも鉄の扉がいくつかあり、ここと同じような小部屋が複数あるようだった。

 僕が覗き込む下からサクラちゃんもひょっこり顔を出す。


「他にも部屋が……もしかしたらお宝があるかもっ?」

 サクラちゃんは目を輝かせて言った。

「僕達の任務忘れたの? 今はダンジョン探索じゃなくて仕事だよ」

「むー」

 僕の言葉にサクラちゃんは頬を膨らませる。


「レイさんはダンジョン探索のロマンが分かってないです!

 未知の場所に来たら、脳内マップ全部埋めるくらい探索して、そこに宝箱がないか確認するのが冒険者じゃないですか!」


「えぇ……そうなの……?」

 少なくとも、僕の知ってる冒険者たちはそこまでやってなかったと思うんだけど……。


「もしかしたら、見逃した宝箱に金銀財宝とか、

 伝説の剣が入ってるかもしれないじゃないですか!

 ―――というわけで、ちょっと探ってきます!!」

「えっ」

 サクラちゃんは早口で言いながら、僕が止める前に廊下に出ていった。


 ……まぁ、彼女なら魔物に鉢合わせしてもどうにかするだろうけど。


「……はぁ」

 もしかしたらとんでもない問題児を仲間にしてしまったのかもしれない。僕がそんな風に悩んでいると、物資を調べていたレベッカ達に声を掛けられる。


「レイ様、こちらの調査が終わりました」

「お疲れ様、何だったの?」


「エミリア様の<鑑定>チェックで調べてもらったところ粉末の食料だそうです。魔物が好む食べ物のようですね」


「ふむふむ、それで……?」

「この粉を水に入れると魔物を誘引する匂いを発するそうです。ですので、少しばかり持っていっては如何でしょう」


「……つまり、囮に使えるって事?」

 僕がそう訊くと、今度はエミリアが答える。


「調合で『匂い袋』という魔物を引き寄せるアイテムが作れるのですが、まさにそれの材料がこれなんですよ。多少効果は落ちますが、今回の作戦に使えるかもしれません」

「なるほどね」


 僕は鞄から小さな袋を取り出し、倉庫内に積まれている袋の一つに穴を開ける。そこから取り出した袋に入れ替えて、パンパンになったところで袋を紐で結んで零れない様にして、ズボンのポケットに袋を忍ばせる。


「これで、よし……と。使い方はどうすればいいの?」

「水分を含ませれば匂いを発するので、それを何処かに設置すればいいかと」

「分かった。使えそうな場面で使ってみよう」

 僕達が会話していると、廊下の方から足音が聞こえてきた。


「サクラちゃんかな?」

 僕はさっき出ていった彼女の姿を思い浮かべる。

 勝手な行動をしてるわけだし、ちょっと注意してあげないと……。


 そう心に誓い、彼女が扉を開けるのを待つ。

 そして、足音が扉の前にところで足音が途切れる。その瞬間―――


「―――! エミリア、<消失>インヴィジビリティを使って!」

「!!」

 僕の指示で、エミリアは咄嗟に消失の魔法を僕達に発動させる。

 それと同時に、鉄の扉が開き、僕達の姿も搔き消える。


 扉を開けたのは、サクラちゃんではなく、魔物だった。

 ウィークデーモンという悪魔系のやや小柄な魔物で知性のある厄介な存在だ。

 その魔物が二匹、この部屋に入って歩いてくる。


「(あ、危なかったぁ)」

 一瞬、殺気を感じたためエミリアに指示を出したけど、反応が遅れていたら見つかっていただろう。

 消失の魔法を使ったことで、僕達の姿は魔物には見えてないはず。僕達は、魔物達が出ていくまで声を潜めて物陰に隠れる。


「―――ん?」

 先に扉に入ってきた魔物が、周囲を見渡して声を出す。

 それに、もう一匹の方が反応する。


「けけ、どうした?」

「今一瞬、人間が居たような……?」

「人間? けけ、気のせいだろ」

「いや、でも確かに……俺様の見間違いか?」


 二匹の魔物は、部屋の中をキョロキョロし始める。

 そして、片方の魔物は、部屋のハッチが開いたままであることに気付く。


「おい、何故これが開いているんだ?」

「けけけ、閉め忘れじゃないのか?

 知性の低いサハギン共はロクに規則も覚えやしねぇからな」

「そういうお前もこの間忘れてたじゃないか」

「けけ、うっせぇ」

 魔物たちは軽口を叩きながらハッチを閉める。


「……ん? ……やっぱりおかしい、この部屋、人間の匂いがする」

「けけけ……何だと?」

 魔物の言葉を聞いて、もう一体の魔物は鼻を引くつかせて部屋の中の匂いを探る。


「(……ヤバいですね)」

 僕の隣に座っていたエミリアが耳元で声を出す。


「(消失の魔法は姿は誤魔化せますけど、気配とか匂いまでは誤魔化せません)」

「(それで僕達の事を気付かれそうになったってことか……)」

 だけど、このままじゃマズい。

 もし僕達が居ることに気付かれて別の魔物に知らされたら作戦どころじゃなくなる。


「(どうする、レイくん? このままだと不味いよ)」

 僕の後ろで身を包ませていた姉さんに声を掛けられる。


「(レイ様、こうなれば気付かれる前に不意打ちで仕留めましょう)」

「(そうだね……)」

 僕はレベッカの言葉に同意して、鞘から剣を抜く。


 ―――しかし、僕が覚悟を決めたと同時に、部屋の扉が再び開かれる。


「!?」

 新たな魔物が現れたのかと一瞬、身構えるが、扉を開いたのはサクラちゃんだった。


「お待たせっ! お宝ありましたっ!」

 サクラちゃんは満面の笑みを浮かべながら入ってくる。

 しかし、彼女が見たのは二体の魔物だった。


「なっ!?」

「誰だ、この女!?」

 突然現れた彼女に魔物は驚きの声を上げる。


「えっと、ええと、ええと……」

 サクラちゃんも予想外だったようで、あたふたしながら僕達の姿を探す。


「あ、あれぇ? 部屋間違えたかなぁ……」

 サクラちゃんは、誤魔化すように笑いながら後ろに足を動かすが、


「貴様、何処から入った!?」

「生きて帰れると思うなよっ!!」


 二体の魔物は既に臨戦状態で、サクラちゃんは逃げられそうにない。そして、彼女に襲い掛かろうとする瞬間、僕は消失の魔法を解いて背後から一体の魔物に斬り掛かる。


「ぐわっ!?」

 突然背後から斬られた魔物は、そのまま床に倒れて這いつくばる。


「な、他にも人間が居たのかっ!」

 残った魔物は、僕と対峙し、鋭い爪を伸ばすが――――


「隙ありっ!!」

 今度は、サクラちゃんに背を向けたため、彼女の短剣によって背中を切り裂かれる。


「ぎゃあああっ!!」

 残った魔物は、バタリと倒れて、その後少ししてから魔物の死体は煙と共に消えていく。


「ふぅ、危なかったぁ……」

 サクラちゃんは胸を撫で下ろしながら安堵する。


「サクラちゃん、そこはまず安堵より先に言う事あるでしょ?」

 僕はちょっと強めの口調で言った。


「ご、ごめんなさい」

 サクラちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。


「まぁ、無事で良かったけど……。今後は勝手な行動はしない事。いい?」

「はい、反省します」

「ならいいよ」

 彼女が素直にごめんなさいと謝ったので、これ以上は怒らない。魔物達が倒れたから隠れていた三人も消失の魔法を解いて、こちらに歩いてくる。


「今のは危なかったですね」

「うん。でも、結果的に上手くいったし結果オーライだよ」

 あのまま部屋を探られると、感知されて仲間を呼ばれた可能性があった。

 仮にサクラちゃんが部屋に現れなくてもこちらから仕掛けざるおえなかっただろう。


「ところでサクラちゃん、さっきお宝がどうとか言ってなかった?」

「あ、そうでした!」

 サクラちゃんは、さっきまでの反省顔から一変して笑顔に変わる。

 そして、彼女は先程見つけたという箱を取り出す。


「じゃーん! これです!」

 自慢気に言いながら、蓋を開けるとそこには光り輝く金色の指輪があった。


「うわぁ、綺麗……」

「本当だね……」

「これは見事なものですね」

 レベッカ達は感嘆の声を上げながら指輪を見つめる。


「えへへ、やっぱり宝探しして良かったです♪」

 サクラちゃんはそう言いながら指輪を元々あった箱に収める。

 僕達は緊張感が解けて話をしていると、不意にイヤリングの通信魔法が作動する。


 そして、冷静な女性の声が聴こえてくる。


『作戦は順調ですか?』

「……あ」

 今、作戦中だったことを思い出した。

 その後、僕達はサボって雑談していたことがバレてウィンドさんに説教された。

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