第420話 基地へ
海の中を潜水艦で進み、僕達は海底の中に怪しげな大穴を見つけた。
覚悟を決めてその中に進むと、海水が途切れて目の前には鍵の掛かった鉄格子が現れた。
レベッカと姉さんの活躍により、最初の関門を難なく切り抜けた僕達は海底洞窟の奥へと進む。
海底洞窟といったが、道は今のところ一本道だ。
明かりになるものもなく、周囲には水コケが大量に生えており、
中には水もないのに洞窟内で小魚の死骸なども転がっている。
明かりはないが、姉さんの魔法のおかげで視界はそこまで悪くない。
僕は鞘に納めた剣の柄を握って先頭を歩く。万一、魔物が出た時の備えだ。
それから数分歩くと、道が左右二手に分かれていた。
先は暗くて分からない。見た感じ、何の変哲もない別れ道だ。あるいは、右が正解で左が行き止まりという可能性もあるが、両方繋がっている可能性もある。
しかし、判断出来るだけの材料に乏しく、僕達は一旦足を止める。
「どっちに行く?」
僕は、後ろを歩く仲間達の方を振り向く。
自分自身では判断が付きそうにない。なら彼女達に頼るしかない。
「右、かな」
「右に行きましょう!」
「右……のような気がします」
「ひだ……いえ、右で」
一人、皆の発言聞いて変えた人がいるけど、見事に全員一致だ。
「理由、聞いてもいい?」
僕は彼女達に質問する。
「女神の勘」
「勘です!!」
「右側に何者かの気配を感じました。おそらく魔物かと。
今から向かう場所は魔物の基地、そう考えればそちらのが怪しいと思われます」
「ちょっと分からないので、皆に合わせました」
「……」
理由を聞いたら、二人は勘だった。
ちゃんとした理由を語ってたのはレベッカだけだ。
ちなみに、周りに合わせたのはエミリア。
「それじゃあ、右側へ行こう」
「「「「おー」」」」
僕達は右側の別れ道を進んでいく。
姉さんの魔法により周囲を照らしながら歩く。
周囲は相変わらず洞窟が続き、明かりも見当たらない。
「それにしても、明かり無しで魔物はここを通ってるのかな」
「魔物は夜目が利く種類も多いですからね」
「海の魔物も視力は低い事が多いから、感覚的なものが備わってるのかも……」
僕達は、魔物の姿が見当たらないので話しながら進む。
しかし、後ろを歩いていたサクラちゃんが、歩く僕を制止して静かに言った。
「―――しっ! ……足音が聞こえます」
「え?」
彼女の言葉に、僕達は声を潜めて物音を立てないようにする。
すると、前方からペタペタと二足歩行の裸足で歩く足音が聞こえてくる。
「明かりを消す?」
姉さんに質問され、僕は首を横に振る。
「……いや、ここだと隠れるより倒した方が早いと思う」
ここまで一本道だ。
隠れる場所もなくどうあっても魔物と鉢合わせしてしまう。
「……確かに」
「じゃあ、ちょっと先行して僕が行ってくるよ」
そう言いながら、僕は聖剣を鞘から取り出す。
「レイさん、ここは私に任せて。
その長剣だとこの洞窟だと上手く攻撃出来ないだろうし」
サクラちゃんに言われて、僕は抜いた剣と左右の洞窟の壁を見比べてみる。
洞窟の壁は凸凹しており、下手に大振りすると確かに引っかかるかもしれない。
サクラちゃんを見ると、以前の短剣を構えている。
前の戦いで壊れたはずだが、どうやら修理し直したようだ。
短剣であるなら、この場所でも問題なく動けるだろう。
「分かった。敵の種類が分からないから慎重にね」
「うん!」
「……じゃあ、お願い」
「はーい!」
僕の言葉に、彼女は笑顔で答えた。
◆
「そこっ!!」
気配を捉えた瞬間、サクラちゃんは一気に動く。
普段の彼女からは想像できないほどの、速度を以って駆け出した。
そして、曲がり角を曲がった瞬間、サクラちゃんは勢いよく跳躍。
壁を蹴り、天井を蹴って、空中で身体を捻り、鉢合わせた魔物を奇襲する様に動き回る。
いきなりの奇襲に魔物達は、何の抵抗も出来ずに彼女に切り裂かれて倒れ伏す。
「……ふぅ……終わりましたー」
サクラちゃんは、血で濡れた短剣を布で拭き取り鞘に納める。
彼女が倒した魔物は、サハギンといわれる魚人系の魔物だった。さっき、ペタペタと足音がしたのは、魚のヒレの様な器官が付いた水に濡れた足で歩いていたからのようだ。
「お疲れ様。怪我はない?」
「大丈夫ですよ。これでも私、結構強いんですよ?」
「知ってるよ、サクラちゃんと最初に会った時も同じようなこと言ってた」
「あれ、そうでした?」
僕は彼女の言葉に、笑いながら「そうだよ」と返事をする。
魔物を倒した後、僕達は更に先に進む。
それ以降、魔物に会うことは無かったものの、進むたびにどんどん道が細くなっていく。それでも進める幅ではあったので、僕達は怪我をしないように進んでいく。
だけど、その進んだ先で―――
「……あれ?」
僕達が進んだ先は、今までよりも少し広い空洞ではあったものの、
周囲は岩に囲まれており完全な行き止まりになっていた。
「困りましたね……道を間違えてしまいましたか」
「うーん、右に行ったのは失敗だったかな」
エミリアと僕はどうしたものかと頭を悩ませる。
しかし、レベッカは言った。
「ですが、先ほどの魔物はこちらから来ていた筈です。
何も無いのにあんなところを歩いているでしょうか?」
「確かに……」
レベッカの疑問に、僕も同意する。
もし、あの魔物達がこの奥から来たのなら、ここには何かあるはずだ。
「……よし、もう少し調べてみよう」
僕の言葉に皆が賛同し、僕達は更にこの空間を調べることにした。
少しして、壁際を探っていたサクラちゃんが言った。
「ここ! ここの壁、何かおかしいです!」
サクラちゃんは壁を叩きながら言った。
「……? どこがですか?」
エミリアは、サクラちゃんの言っている事が分からず首を傾げる。
「ほら! ここの壁だけ、なんか叩くと感覚がおかしいっていうか」
サクラちゃんはそう言いながら、今度は壁を抑える。すると、壁はいきなりクルッと回り、壁を抑えてたサクラちゃんはバランスを崩して転んでしまった。
「いったぁ……」
「だ、大丈夫!?」
サクラちゃんの声を聞いて、慌てて駆け寄る。
しかし、彼女はすぐに立ち上がった。
「大丈夫! それより……」
サクラちゃんはさっき触ってた壁の端を今度はゆっくり押していく。
すると、壁はゆっくりと開き、向こう側の部屋が見えるようになった。
その先に、上に登る梯子があった。
「ありました、隠し通路です!」
「本当だ……」
サクラちゃんの言う通り、そこは隠し通路の入り口だった。
上を見上げると梯子の上は自然に出来たような洞窟の岩では無く、
鉄板のような灰色の金属で覆われている。
「これは、隠し通路というより、秘密基地みたいですね」
「……なるほど、魔物の秘密基地というわけだね」
僕はエミリアの言葉に、ちょっと感心して言った。
「つまり、ここが『魔導研究所』の入り口というわけでございますね」
レベッカの言葉に、僕達は全員頷く。
「……ここからは今までよりも慎重に行った方が良さそうね」
「ええ、魔物の数が多い場所では、私かサクラさんの
「魔物の数が少ないなら、他の魔物に気付かれる前に、一気に仕留める感じだね」
「もし、ピンチになったらエミリアさんに貰った煙幕を使って逃げましょう!」
僕達は、打ち合わせた行動指針を話し合う。
そして、僕はイヤリングの通信魔法を起動させる。
「……よし、ウィンドさん。僕達は今から『魔導研究所』に入ります」
そうイヤリングに呟くと、数秒してから反応があった。
『―――了解です。今作戦の目的は、
魔道研究所内にある『魔道製造機』計10ヵ所に魔法の弾を設置、
その後、速やかに脱出を試みてください』
「了解です」
『ではご武運を』
通信が切れる。
「じゃあ行こうか」
「はい!」
「分かったわ」
「承知しました」
「慎重に行きましょう」
僕の言葉にそれぞれ返事をして、まずは僕が梯子を登り始める。
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