第417話 美味しいけど複雑
気分が悪くなった僕は船内で横になることにした。
それから、体感では数時間が経過した頃。
「レイ、起きて下さーい。ご飯の時間ですよー」
僕を呼ぶエミリアの声が耳元から聞こえる。
彼女の声で、僕は意識を覚醒させて起き上がる。
「ふわぁ……おはよー……」
手を伸ばして伸びをしながら、あくびをする。
「おはよー」
「おはようございます、レイ様」
「少しは気分良くなりました、レイさん?」
順番にベルフラウ姉さん、レベッカ、サクラちゃんに声を掛けられる。
目の前に彼女達が立っていたので、僕はその場で固まる。
流石にちょっと恥ずかしくなって口を手で押さえてあくびを止める。
「お、おはよ……気分は大丈夫だよ」
「ふふ、よかった」
サクラちゃんはクスクス笑いながら、そう言った。
「……あれ、そういえばエミリアは?」
さっき聞こえたエミリアが居ないことに気付いた僕は部屋を見回すが、彼女の姿が何処にもない。
しかし、再び耳元でエミリアの囁くような声が聞こえた。
「ここですよー」
「えっ!?」
僕はすぐにそちらに振り向くがそこには誰も居ない。
だけど、僕の頭に何かがポンと置かれる。エミリアのとんがり帽子だった。
それと同時に、エミリアの姿が現れる。彼女は僕のベッドに腰掛けていた。
「うわ、驚いた!」
「突然振り向いたから私も驚きましたよ。おはようございます」
エミリアは、機嫌良さそうに笑いながら答える。
「イタズラ成功ですね。もし魔物だったら今のでピンチでしたよー」
僕とエミリアの様子を見て、サクラちゃんが笑う。
「ん、もしかしてエミリアの使ったのって?」
「正解です」
エミリアは、そう言いながら僕の頭に置いた帽子を手に取って再び姿を消失させる。
そして、僕から彼女が離れた気配を感じた後、数秒後にエミリアがレベッカの隣で再び姿を現す。
「やっぱり、
「はい、レイと違って移動しても残像が残ったりしませんよ」
彼女はそう言いながら、とんがり帽子を被り直す。
「むぅ……」
エミリアの方が魔法の扱いに長けてる事は知ってるけど、ちょっと悔しい。
「エミリア様、二時間くらい練習しただけでマスターしてしまいました。流石でございますね」
「えへへ、それほどでもないですよ。サクラさんの教え方が上手かったですし、コツを掴めばそこまで難しくはなかったです」
「エミリアさんは凄いですねぇ。私、師匠に教わった時は一週間くらい悩みながら使えるようになったんですけどぉ」
サクラちゃんは羨ましそうにエミリアを見ながら言った。
「二人はどうだったの?」
僕はレベッカと姉さんに視線を合わせる。
すると二人は苦笑して言った。
「わたくしは、レイ様と同じくらいでした。
一応姿を消せますが、よほどゆっくり動かない限り気付かれてしまいますね」
「お姉ちゃんはもう諦めたの」
「そっか、残念。てか、姉さんは諦め良すぎでしょ……」
「仕方ないじゃない。この世界の魔法は私とそんなに適正無いみたいだし」
姉さんの何気ない言葉に、サクラちゃんが反応する。
「この世界?」
「そ、……サクラちゃんなら言っても問題ないわよね。
私、別の世界から来た女神様なの。嘘じゃないわ、本当よ」
「今は普通の人間だけどね」
念の為に、僕は姉さんの言葉に補足する。
姉さんは今の自分が神様じゃなくなってる事を忘れてる節がある。
「へぇー」
「え、それだけ?」
「直に神様は見たことがありますし、事情も少しだけ聞いてたので。つまり、ベルフラウさんは、次元の門を開いてこの世界に来たって事です?」
「……まぁ、そんな感じね。……次元の門?」
「気にしないで下さい。比喩みたいなものなので」
サクラちゃんはそう言うと、「ふふっ」と楽しげに微笑んだ。
「本当はウィンド様が説明に来られた際に、
レイ様を起こうかと思ったのですが、ぐっすり寝られていたので」
「起こすの可哀想だったから私達が代わりに聞いておいたから安心してね」
「あー、ごめん……、それと、ありがとう」
僕は彼女達に謝罪とお礼をする。
「では朝食にしましょうか」
「朝食?」
エミリアの言葉に、僕は首を傾げる。
「……え、もしかしてあの後ずっと寝てた!?」
僕の驚きの言葉に、皆は一様に笑う。
そして、その後船の食堂に向かい食事を摂った。
食事は、船らしく魚と蟹の料理だった。
普段あまり食べないので、ちょっと新鮮な味に感動した。
「蟹とか何年ぶりかなぁ」
「美味しいわよね、この蟹の魔物料理」
「……」
ベルフラウ姉さんが言った言葉を聞いて、唐突に気分が醒めた。
「どうしたの?」
「出来れば、魔物という言葉は言わないで欲しかった」
「あ、ごめんね。ちなみに、こっちのサンマみたいな形の魚も魔物よ」
「だから言わないでって!」
僕は叫びながら、自分の食べた皿の上の魚の残骸を見る。
見た目は完全にサンマなんだけど……。
「あははっ、ごめんね」
姉さんは笑って謝罪する。そして、エミリアが悪戯っぽく微笑みながら言った。
「ちなみに蟹の魔物の名前は『殺人ガニ』、魚の方は『切断魚』という名前らしいです。蟹はそのハサミで挟んで斬り殺すんですよ。魚の方は、その刃のようなヒレを使って斬撃を放つそうです」
「へ、へぇ」
「もしかしたら今、私達が食べてるこの魔物の犠牲になった人達が」
「怖いから止めて!?」
僕は叫んだ後、テーブルに突っ伏す。
「いえいえ、今から海に潜って魔物の拠点に向かうわけですから、出現するかもしれない魔物の知識をレイに授けようかと思いまして」
「絶対嫌がらせだよ」
「そんなことはありません。
冒険者は戦いだけじゃなくて知識だって重要です。
レイもきっと役に立つと思いますよ」
「はいはい……」
僕が呆れながら答えると、彼女はまたクスッと笑った。
それから僕は皆と食事をしながら、皆が聞いたウィンドさんとの作戦内容を教えてもらった。内容は最初に陛下と話した内容をより詳細化したものだった。
レベッカが食事を終えてハンカチで口元を拭うと、こう言った。
「食事が済んだら甲板に出ましょう。
そろそろ、潜水艦の準備が始まる頃かと」
「そうですね。私達も潜水艦がどんなのか見てないから楽しみです」
レベッカとエミリアは、見たことのない魔道具に胸を躍らせているようだ。
「あはは……私はちょっと見ましたけど、思ったより狭いからびっくりしましたよぉ」
サクラちゃんは、苦笑しながらそう言った。
「そんなに?」
「本来、四人用のところを五人で無理矢理乗るわけです。ぎゅうぎゅう詰めになると思います。レイさんは男の子なので役得ですね!」
「それはあんまり嬉しくない……」
僕はため息をつくと、残りの朝食を口に運んだ。
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