第414話 イタズラ好きな陛下

 陛下に召集の命令を受けた僕達は、

 仲間達と共に、謁見の間に集まっていた。


「それじゃあ扉を開けますね」

 サクラちゃんの言葉に僕達は頷くと、彼女はゆっくりと扉を開ける。


「失礼致します」

 サクラちゃんを先頭にして、僕達は中に入る。

 玉座には、王都の守護者である、グラン国王陛下が――――


「って、誰!?」

 そこには、グラン陛下ではなく、

 彼が成長したような姿の金髪の青年が玉座に腰掛けていた。

 僕が驚いていると、玉座に座っていた青年が呆れたような声で言った。


「誰とは失礼だな、レイ君。私だよ、グランだ」

「え、えぇ!?」

 僕は彼の言葉に困惑する。


 僕が知ってるグラン陛下は、十歳くらいの容姿をした金髪の少年の姿だ。

 だけど、目の前に居るの彼は、どう見ても背丈の年齢も違う。 

 今、聞いた声も別物だった。


「おい、レイ! 陛下の前で失礼だぞ!!」

「だ、団長……でも……?」

 僕が戸惑っていると、横からサクラちゃんに耳元で声を掛けられる。


「レイさん、レイさん! 目の前の青年は間違いなく陛下ですよっ」

「え、本当!?」

 僕は改めて、彼の姿をよく見る。……確かに、僕が知っている金髪に赤い瞳、それにサイズこそ違うが同じ服と、王家のマントを羽織っている。


「……え、本当に?」

「レイくん、現実を受け入れた方がいいと思うの」

 姉さんは言った。


「私も初めて見るけど、あの人は陛下よ。

 見た目の特徴も合致してるし、魔力の波長が同質みたい」

「……そうなの?」


「……ふぅ、やはり姿が変わると混乱を招くことになるな……」

 と、青年……いや、青年の姿になった陛下は溜息をつくと、僕達に向き直り、口を開いた。


「すまないな、諸君。驚かせたようだ」

「いえ……」

「今日君達を呼んだ理由だが、まずは私の私室に向かおう。来たまえ」

 陛下は、椅子から立ち上がり、奥の部屋に入っていく。


「……驚きましたね、陛下の姿が変わるとは」

「変身魔法なのでしょうか……? しかし、何故そのような事を?」

 後ろに控えて黙っていたエミリアとレベッカは、疑問に感じながらも陛下の後を追う。


 僕らも彼女達の後に続いて部屋に入った。

 そこは執務室の役割もあるようで、書類が積まれた机と本棚があった。

 陛下の趣味嗜好か、台所らしき設備もある。


 部屋の中央にテーブルとソファーがあり、そこに僕達は腰掛ける。


「さて、ここに来たのだからお茶をご馳走しよう。何か好みはあるかな?」

 陛下の言葉に、僕達は各々好みの飲み物を口にする。


「私は、紅茶で」

「コーヒーが良いです」

「果物ジュースお願いします」

「昆布茶……いえ、ベルフラウ様と同じ紅茶でお願いします」


 僕と団長以外は遠慮なく注文をする。

 しかし、僕と団長は恐縮して何も言えなかった。


「団長、相手は陛下なのに何故皆遠慮しないんですか……?」

「俺が聞きてぇよ……」

 団長は疲れたように呟いていた。

 そんな団長を見て、陛下は笑みを浮かべながら言った。


「はははっ、ここに来たら私が出した食事は口にするのがルールだ。アルフォンスくんとレイ君も紅茶で良いかな? ケーキも用意してある。さぁ、座りたまえ」


「は、はい」

「……ありがとうございます」

 団長と僕は頭を下げてから、席につく。

 それから数分して、僕達の前にお茶と洋菓子が出される。


「さぁ、食べたまえ」

 僕達は陛下に催促され、顔を見合わせながら洋菓子を口にする。

 そして、僕達が全員口にしたところで、陛下は言った。


「……ふむ、問題なしと」

「え?」

 僕は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。


「実は、この洋菓子と飲み物、猛毒が入っているのだ」


「「「「「「………?」」」」」」

 陛下の言葉に僕達は困惑し、次の瞬間に意味を理解して、全員が青ざめる。


「も、も、猛毒!?」

「へ、陛下、一体何をお考えで――――!?」


「―――まぁ人間には効かないのだが」

 陛下はそう言うと、手に持ったフォークで皿に置かれたケーキを刺し、そのまま食べる。


「ふむ、味は悪くない……まぁ私が作ったから当然か」 

「あの陛下……どういうことでしょうか?」


「先の戦いで、多数の魔物が人間に化けていたからな。

 今、君達が口にしたものは、魔物が食べた場合のみ、体内のマナが死滅する効果がある。魔物はマナの塊であるから、食べた瞬間に即死というわけだ。人間が食べた場合は、特に問題はないから安心したまえ」


 僕達は、陛下の話を聞きいてようやく真意を理解した。


「つまり僕達にそれを試していたと……」


「君達を疑っているわけじゃない。

 だが、何者かに成り代わって王宮に侵入する可能性もゼロでは無いからな。

 ここ数日は、私と謁見するものは全てチェックしている」


 僕達は、本気で毒を盛られたわけでは無いと知ってホッとする。


「さて、話が逸れてしまったな……」

 陛下は、真剣な表情になって、僕達の方を向いて話を続けた。


「先の戦い、君達の働きは見事なものだった。

 魔物に洗脳されたネルソン選手の凶行を食い止め、魔軍将の一人を撃破。

 更に、他二体の魔軍将を撤退に追い込み、召喚されたかつての魔王を撃破する働きは、まさに英雄えいゆうと呼ぶ他あるまい」


 陛下はそこで一度言葉を区切ると、団長の方を向いて続けて言った。


「アルフォンス団長、君の活躍も見事だった。

 騎士と戦士たちを見事に纏め上げ、多数の魔物達を一掃したその手際と武力の高さは本物だ。やはり君を騎士団長に添えた私の目に間違いは無かったようだ」

 陛下は、団長に向けて称賛の言葉を送った。


「お、俺なんかに勿体ないお言葉です……!」

 団長は深々と頭を下げる。


「さて、だからこそ君達に折り入って頼みがある。本来ならば、ここまで遅れる予定では無かったのだが、計画していた作戦を君達に依頼したいのだ」


「作戦……ですか?」

「そうだ。……本来、この作戦を主導する役割はカレン君だったのだが、彼女は今戦える状態ではない」

「………っ」

 陛下の言葉で、サクラちゃんが少し悲しそうな表情をする。


「サクラ様……」

 サクラちゃんの隣に座っていたレベッカが彼女の震える手を握る。


「……大丈夫、ありがとうレベッカさん」

 サクラちゃんはレベッカの手を握り返して微笑んだ。


「……少々、無神経だったようだ、すまないサクラ君」

「大丈夫です、陛下」

 サクラちゃんは、表情を改めて返事をする。


「……それで、その作戦というのは?」

「ふむ……」

 陛下は椅子から立ち上がり、入り口の扉の前に立つ。

 そして、扉の前で手を動かして何かを行っている。


「……陛下、何を?」

「万一の備えだ。……よし、それでは話を始めようか」

 グラン陛下は、準備が終わったのか振り返り、こちらを見据える。


「――では、これより、『魔軍拠点襲撃作戦』の概要を説明する」

 陛下に集められた僕達は、作戦の内容を聞くことになった。

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