第409話 苦戦するレイくん
逸れた仲間を探す間、サクラちゃんとデートする事に(意訳)
その途中で、腕試しと称して、男たちがタイマンで競い合う小規模の催しがあった。優勝すれば金貨五十枚の価値がある『万能ポーション』が貰えるらしい。
サクラとレイは、寝たきりのカレンを治すため出場することにした。
だけど、こんな小さな催しで高級な景品を用意するものなのだろうか?
レイはちょっと疑いの目で見ていた。
そして、二人はエントリーして、最初はサクラの出番となった。
しかし、サクラのデビュー戦は……。
「たあー!」
ドゴッ!!!!
「!?!?!?!?」
開始5秒でサクラちゃんは対戦相手の金的を檜の棒でブッ叩く。
対戦相手は突然の股間の衝撃で、泡を吹きながら倒れた。
「さ、サクラ選手、まさかの大男を一撃でノックアウトです!!」
「「「おおー」」」
「ひ、酷い……」
僕は思わず自分の股間を抑えて震える。
サクラちゃんが容赦なさ過ぎて、男として恐怖を感じた。
「レイさんの番です!」
「う、うん」
彼女の戦いっぷりを見てビビッていたが、気を取り直して前にでる。
相手の人は、体格の良いけど優しそうな男性のようだ。
三十歳くらいの人の良さそうなマイホームパパって印象だ。
何気に観客席に彼の奥さんと子供がおり応援している。
「やぁ、よろしくね」
「よろしくお願います」
僕と男性はお互いに、礼をしてから距離を取る。
そして、勝負が始まるが――――
「てやぁぁぁぁ!!!」
声だけ迫真なマイホームパパは、
ゴブリンよりも遅い速度で走ってきて檜の棒を振り上げる。
「(あー、完全に素人さんだ……)」
力自慢で参加しただけで、ルールとかもよく分かってない感じかな。
妻と子供が見てるから気合いは入ってるんだけど、これは……。
「パパ―、頑張ってー!」
「パパ―!」
観客席から彼を応援する奥さんと子供の声援が聴こえてきた。
や、やりづらい……。
だけど、僕もカレンさんの為に頑張らないと……。
で、でも心苦しい……ど、どうしよう……。
だけど、ここは心を鬼にして……。
僕は「えいっ!」と掛け声と同時に彼の檜の棒を素手で受ける。
流石に、武器で殴り返す気にはならなかった。
パシンッ!
と手の平に受け止めた衝撃を受けるが、手袋越しだから痛くはない。
「なっ!?」
マイホームパパは僕から檜の棒を取り返そうと力を込めて引っ張るが、何だかんだで能力が上がりまくってる僕の腕力には勝てないようで、ピクリともしない。
「……降参しますか?」
「くぅ……!」
彼は悔しそうな表情を浮かべながら、無言で首を横に振る。
家族の為に頑張るお父さんだ。むしろ応援したくなる。
だけど、本当にごめんなさい。
僕は心の中で正座して謝り、覚悟を決める。
「じゃあ、行きますよ!」
僕は掴んでた檜の棒を引っ張り上げて、彼を場外へ投げ飛ばす。
「うわあああああっ!」
「ぱ、パパ―!!」
彼の悲鳴と同時に、観客席の妻の声が響き渡る。
「(怪我させるわけにはいかない!)」
僕は、内緒で魔法を発動させる。使用する魔法は
それを遠隔で発動させ、更に爆風の威力を極限まで低くする。
彼が地上に落下する寸前、一瞬だけ地上に緑色の魔法陣が出現する。
一瞬だけ発動した魔法は彼の落下の衝撃をほぼゼロに変えて、彼は羽が地上に落ちるかのようにふわふわとした勢いで地上へ落ちる。
「へ!?」
男性は困惑していたが、怪我無く着地することが出来た。
彼の妻と子供は彼の健闘を称えて男性を労っていた。
「い、一体何が……? しょ、勝者、レイ選手!!」
「………ふぅ、疲れた」
あっという間に終わってしまった試合だが、何とか勝つことができた。
「なんとかっていうレベルじゃなかったですよ?」
「サクラちゃん、僕のモノローグに突っ込まないで」
「す、すみません……」
サクラちゃんの突っ込みに突っ込み返すが、今の魔法の発動と調整に苦労してしまった。この先の戦いも同じ事することになるなら考え直さないといけない。
「でも、この調子だと加減した方がいいかも。
見た感じ、さっきの人みたいな素人さんが何人かいるっぽいし」
「そ、そうですね……。容赦なく金的殴ったの不味かったかな……」
「素人じゃなくても不味いよ。まぁ、次からは程々にしようね……」
「はい……」
そんな会話をしつつ、僕達はステージを一旦後にする。それからしばらく、外野から見学していたのだけど、予想通りというかまともに戦闘したことのない人ばかりだった。
「(これは、場違い過ぎる……)」
小学生の喧嘩に大人が混ざってしまったような状況だった。
「……サクラちゃん、やっぱり僕は棄権するよ」
「ええー? でも、万能ポーションが……」
「うん、それは分かるんだけど……」
そもそも、こんな催しに万能ポーションが出るのかも怪しい。
僕はサクラちゃんにその話をして彼女を説得する。
「むむむ、分かりました……。でも私は最後まで棄権しませんよ。万能ポーションが本当かどうかは分かりませんが、先輩の為に優勝を目指します!!」
「そっか……まぁ、手加減してあげてね」
「いえ、勇者たるもの全力で」
「サクラちゃんが全力だと本物の闘技大会も優勝してそうだよ……」
「うふふ、頑張ります!」
そして、僕はスタッフの人に声を掛ける。
「ごめんなさい、棄権します」
「え!? ……で、でも貴方は一回戦突破したじゃないですか! 観客のウケが良かったですし、このまま出て下さいよ。絶対盛り上がりますから!!」
と、スタッフに言われてしまう。こうなると断りづらい。
「でも……あ、そうだ。……実は、僕、試合中に魔法を使ってしまったんです。魔法の使用は反則行為ですよね?」
「え、魔法? でも、使った様子は全然ありませんでしたが」
「使ったんですよ、嘘じゃないです」
嘘は全く言っていない。
僕は試合中に場外に落ちた対戦相手に魔法を使っている。
「ルール上、反則を犯したんだから僕の負けです。お願いします」
僕は、スタッフの人に頭を下げて言った。
「わ、分かりました……」
「ありがとうございます。あの人を二回戦進出させてあげて下さいね」
僕は、さっき戦ったマイホームパパを指差しながらお願いをした。
その後、僕の反則負けという形でマイホームパパは二回戦進出し、二回戦で同じ素人さんと互角に渡り合い、結果的に負けたものの、家族にカッコいいところを見せられて嬉しそうだった。
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