第408話 年下にも強気に出れないレイくん

 戦勝祭にて、僕とサクラちゃんは仲間と逸れてしまった。

 落ち込む彼女を励まそうとするのだが、僕が空回りしてしまう。


 しかし、そんな僕を見てサクラちゃんは言った。


「皆さんを探しながら歩きましょう。ちょっとしたデートって事で」

 サクラちゃんはそう言いながら、僕の手を引いてウィンクする。

 僕達は逸れた仲間を探す間デートっぽい事をすることになった。


「……う、うぅ……テンパっててゴメン」

 自分で自分が情けない。

 彼女を気遣おうとした僕が彼女に気遣われてしまっている。


「くすくす……、レイさんって私より年上なのに子供っぽいですね。

 こんなことで顔を真っ赤にしたりとか、時々先輩のことを『お姉ちゃん』って呼んでたり……。もしかして、デートとか経験無いんですか? あんな可愛い人達と旅してるのに……」


「しし、しし、してるよ!! 何回か!!」

「本当に?」

「ほほほほ、ホントだよ!

 そ、それに僕だって……何度か……告白とかその、ある……よ?」


 僕の言葉を聞いて、サクラちゃんは悪戯っぽく言った。


「へー、じゃあカレン先輩には告白したんです?」

「か、カレンさん!? い、いや……」


「じゃあ、ベルフラウさん?」

「ね、姉さんだし……好きではあるけど告白とかは……」


「なら、レベッカさん?」

「……えっと」


「うーん、エミリアさん?」

「……うぅ」


「なるほど、エミリアさんとレベッカさんですね」

「え、なんで分かったの?」

「分かりやすいですもん。レイさんって」

「そ、そうかな……?

 サクラちゃんはどうなの? 好きな人とかいないの?」

 僕の質問に、サクラちゃんは即答した。


「いますよ」

「えっ!?」


「カレン先輩」

「……あ、うん。だよね」

 知ってた。そうだよね、普段から仲良しだもんね。

 仲間から百合的な関係を疑われるくらいだもん。


「アリスやミーシャの事も大好きだし、パパやママの事も大好きですよ。私がよく遊んであげてる子供たちの事も好きだし、サクラタウンの皆の事が大好きです」

「そっかぁ……」


「他にも、以前、冒険者ギルドで仲良くなった職員さんとか」

「それは、男の人?」

「女の人です。物腰が綺麗で優しくて、先輩と並んで大人の女性です」

「そんな人が……? 前に立ち寄った時には、そんな人いたかなぁ……?」

 僕は思い出そうとするけど、あまり印象に残る人はいなかった。


 すると、サクラちゃんは目を閉じてふるふると首を横に振る。

「今はもうサクラタウンには居ません。

 元々は、別の街から一時的に配属されてただけだったので……。

 でも、今でもたまに通信魔法で連絡を取り合ってますよ」


「そうなんだ……その人の名前は?」

「ミライさんです」

「へー、ミライさんって言うんだ……」

 ……ん? どっかで聞いたことのある名前だ。


「まんまる眼鏡を掛けて、鮮やかな緑色の長い髪を結んでて、大人なのに可愛さと綺麗さを同居させた雰囲気の人ですよ。私と同い年くらいの妹もいるそうです。いつか会いたいですね」

 彼女は目を閉じながら、当時の情景を思い出すように言う。


「直接、会えるといいね。ミライさんにも、その妹さんにも」

「はい♪」

 サクラちゃんは笑顔で言った。

 さっきの暗い雰囲気が晴れて、表情が明るくなってきた。

 今の彼女は最初に出会ったあの頃に近い。


 良かった、少しは元気になったみたいだ。

 サクラちゃんは笑顔がとても眩しくて可愛らしい。

 彼女の笑顔を見ていると、不思議と気持ちが安らぐ。


「(少しは元気を出してくれたかな……)」

 それにしても、彼女の言っていた女性の話……。

 何処かで見た事ある気がするんだけど、思い出せないなぁ……。


 ※レイは、その二人と交流があったことをド忘れしています。


 ◆


 それから、二人は仲良く話をしながら歩いていると……。


「おお、レイさーん。何か、面白そうなことやってますよ!」

 サクラちゃんは、指を差しながら僕の腕を引っ張る。


「なになに?」

「あれ見てください、あれ!!

 なんか、男の人達ががなんか向き合って棒振り回してますよ!」


「え、喧嘩!?」

「違いますよ。あれは、先日やった闘技大会の真似事ですね。所謂力試しってやつです。多分、お店を出してる店主さんが腕に覚えがあったんでしょう。あの看板を見てください」


「看板? どれどれ……?」

 看板にはこのように書かれていた。


『腕に自信のある方募集!

 優勝賞品は万能ポーション一本!

 参加費は金貨1枚!誰でも参加できるぞ!見物料は銀貨2枚!』


「ああ、なるほど。優勝者には賞品が出るんだね」


「万能ポーションって物凄い効果なものですよ!!! 確か、売れば金貨五十枚くらいになることもあるって先輩から聞いたことがあります!」


「金貨五十枚か……」

 エミリアから聞かされてたけど、具体的な金額を出されるとインパクトがある。先日、魔軍将ロドクと戦ってる最中で使っちゃったんだけど勿体ない事したかもしれない。


「この薬を飲めばどんな怪我も治っちゃうって!」

「ふむふむ……」

 僕はサクラちゃんの話を聞いて納得する。

 それなら、小規模な割にかなり豪華な賞品かもしれない。


「私、ちょっと出てきます!! レイさんも参加してください!」

「え……いや、でも……」

 闘技大会を真似てるって話だし、

 その大会で一応上位入賞してる僕が出ていいのかな?


 ちなみに、闘技大会の途中で魔物達の襲撃に遭ってしまったため、闘技大会どころじゃなくなって中止になってしまった。決勝を改めて行うかはまだ協議中らしい。


「二人で出てどっちかが優勝すれば、万能ポーションが手に入るかもじゃないですか。それに、もし先輩に飲ませてあげたら目が醒めるかもしれないし―――」

「……それは」


 彼女のその想いが籠もった言葉に、僕は何も言えなくなる。

 僕だって早くカレンさんに目覚めてほしい。

 万能ポーションで目覚めるかはちょっと怪しい所ではあるけど。


「分かった、僕も出るよ」

「やった、じゃあやりましょう!!」

 そう言いながら、サクラちゃんは受付の人に話しかけていた。


「はい、参加者二名ですね! では、番号札をお持ちください!

 武器はこちらの指定したものになります! 相手を戦闘不能にするか場外に押し出せば勝ちとなります! それと、魔法やアイテムの持ち込みと使用は禁止です!!」


 受付の人はそう言って、僕達に粗雑な皮鎧と、檜の棒を渡してきた。


「これが参加者用の装備です。テントで着替えてきてくださいね」

「こ、これが武器……」

「ゴブリンすら倒すのに苦戦しそうな装備ですねぇ……」

 僕らは渡されたモノを見て苦笑する。


 そして、着替え用のテントで、別々に着替える。

 準備が整った僕達は、番号札を持って掲示板に向かう。


「えっと、サクラちゃんの番号は……」

「えっと……あ、ありました!」

 彼女は自分の数字が書かれた木片と掲示板を照らし合わせる。


「よし、頑張りましょう!」

「うん」

 そして、準備が整って、サクラちゃんの出番が来た。

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