第403話 脱兎のごとく

【視点:レイ】

 エミリア達が、古の魔王を必死に止めようと奮闘している時、

 レイは、魔軍将ロドクと一騎打ちを行い、その戦いは長引いていた。


 目の前の相手を如何に、自分に釘付けにするかに焦点を置いて戦っていたレイは、王都の方の様子がおかしくなっていることに気付く。


「あ、あれは……!!」

 王都周辺が闇に覆われ、巨大な人外の魔物と、足音と思われる地響きが聞こえてくる。巨体の魔物はどうやら王都に向かって侵攻をしているようだ。


「あの魔物、お前の仕業か! ロドク!!」

『……』

 レイは目の前のアンデッドの魔物に問いかけるが、彼は何も答えず、無言のままだ。


「(どうする……、皆が心配だけど……)」

 王都の方に出現している魔物は、目の前の魔軍将よりも危険に思える。

 こいつの足止めよりも優先して助けに向かった方が良いのでは……。


 僕が考えていると、ロドクが再び魔力弾で攻撃を仕掛けてくる。それを聖剣で振り払いながら僕は奴に接近して斬りかかる。

 しかし、聖剣の攻撃は奴が即座に召喚するスケルトン達が壁になり届かない。聖剣で斬り裂いたスケルトン達は、一瞬で消し炭となるがロドクは無傷だ。


『おお、怖い……まともに食らえば、我でもただでは済まんのぅ』

「く……!!」

 出来るかぎりMPを節約するために、

 範囲を絞ってるせいで奴に攻撃が届かない。


「(……自分の貯蔵魔力がほぼ空だ)」

 今はエミリアの魔力のお陰でどうにか戦えてるけど、あっちも無限じゃない。彼女も戦闘を行っているのか、魔力が減り続けている。

 この調子で遠慮なく戦い続けると、僕とエミリアの両方のMPが尽きて戦闘不能になってしまう。


 そんな僕の心中を察しているのか、

 ロドクは顎の骨をカタカタ鳴らして言った。


『最初の勢いはどうした、勇者よ。

 先程から防戦一方ではないか? もっと勢いよく聖剣の力を放出してみてはどうだ? 我は、アンデッドだ。ラッキーヒットすれば一撃で倒せるかもしれん』

「……うるさい」

 そこまで魔力が潤沢ならとっくやってるんだよ。


『ふむ……自身の魔力が底を突いているのか、王都に残した仲間が心配と見える。あのような巨大な魔物が出現したのだからな、当然であろう。カッカッカ!』

「…………」


 図星だ。

 こいつの言う通り、王都の事が気になって仕方がない。

 それに、魔力の方の推測も当たっている。


『どうだ? 今からでも我の仲間にならぬか?

 そうすれば、あの巨大な魔物も消してやろう。代償として貴様はアンデッドとして生きることになるが………。いやいや、アンデッドなのだから死んでいるか、これは失礼した』

「……」


 コイツの話を聞いている余裕はない。

 だけど、一つだけ確かめたいことがあった。


「……一つだけ聞かせろ。あの魔物は何?」

『ふむ……、貴様が倒した龍王ドラグニルと同じよ。

 体の大半が滅んでいたところを、我の魔力で復元し蘇られた存在。ただし、元の人格や魔力が完全に消失しているため、単一的な命令しか聞かぬから、巨体で踏み潰すくらいしか出来ん役立たずだ』


「……つまり、アレは魔王軍の兵器みたいなものか」

『左様。とはいえ、アレを使うのは我にも予想外の出来事であった。

 ……どうやらあちらは魔王軍が劣勢のようだ。あちらが我の許可なく呼び出したのは少々不満ではあるが、今は仕方なかろう』


 さっきは答えなかったけど、こいつは今『呼び出した』と言った。

 つまり、こいつ以外の何者かが<召喚魔法>を使ったことになる。


『さて、どうする? このままでは、あの魔物に踏みつぶされるぞ?』

「……」


『ほう、悩んでおるのか。別に行っても構わんぞ、我は止めぬ。

 その場合、自由になった我は自由にやらせてもらうが』

「!!」

 今の物言いに、ピンとくるものがあった。


「まさかお前……足止めされるフリをして、実は僕の足止めを……!!」

『カカカカカカ!!』

 ロドクは、笑い声を上げながら魔力弾を僕に向けて放つ。


『我は後方支援のついでに、こちらに向かってくる勇者を迎え撃っただけの話だ。それに、我が貴様と戦っていたのは、別に理由がある。それは―――』

 僕は、聖剣を振りかざして、魔力弾を打ち消す。


「その理由は、僕を王都へ行かせない為か!!」

『ご名答! 本来は、貴様以外何人かを受け持つつもりでいたのだがな。特に、雷龍があちらに戻ってしまったのは痛手であった。まぁ、一度くらいならどうにでもなるであろう』


「くそっ!!」

 僕は即座に踵を返す。

 このままこいつに足止めされていても埒が明かない。


『逃がさぬぞ。逆に貴様が我に付き合ってもらう』

 ロドクは両手を広げて詠唱を開始する。すると、ロドクの周囲に魔力が集まりだし、 黒いオーラを放つ魔法陣が複数出現する。


『<闇の牢獄>……これで、もう逃げられまい……!!』

「く……!?」


 ロドクと僕の周囲が闇のフィールドで覆われてしまう。太陽の光すらシャットアウトされてしまい、外の様子が殆ど見えなくなってしまった。これでは逃げることも出来ない。


『では喰らうがいい!! <超熱爆破>バーストフレア!!』

 ロドクは自身が上空に浮き上がり、大規模な爆発の魔法を展開する。並の爆発魔法と違い圧縮された炎の塊が、まるで隕石のように僕目掛けて飛来する。


「―――く」

『前回とは違うぞ、今度こそこの魔法で死に絶えるがよい』

 以前に喰らった同じ魔法だが、威力も広範囲な上に今は闇の牢獄のせいで走って逃げることも難しい。かといって直撃すれば即死だ。

 対抗手段は二つ、奴が飛んでいる上空に飛んで攻撃範囲から逃れるか、聖剣の力を最大開放して爆発を防ぐかだ。


 前回は、前者の手段を使ってそのままロドクを一度撃破した。

 同じ手が二度通用する相手では無い。なら、後者を選ぶしかないが――


「(あいつは絶対それが狙いだ!!)」

 あの時とは状況が違う。今は僕のMPはほぼ空に近い状態だ。

 全力で解放すれば、すぐに意識を失うだろう。


「(なら、逃げるしかない!)」

 切り札というほどではないし成功率も微妙だけど手段はある。

 上手くいけば、こいつの不意を突いて脱出できるかもしれない。

 

「――<変化>フォームチェンジ――」

 僕は、指輪の効果を発動させて、女性の姿に変身する。


『む……その姿は、最初に会った時の……!』

 ロドクの言葉を無視して走りながら爆発魔法の着弾地点を予測して動き回る。


「走れぇぇぇぇぇ!!」

 ボクは全速力で走り回る。

 この姿であれば、男の時よりも速度が格段に早い。


『愚かな、まさか走って躱す気か? 避けられるわけなかろう』

「うるさい、黙ってて!!」

 ボクは走りながら聖剣を構えて、力を解放する。


「いっけー!!!!」

 聖剣の力を借りることで一時的に体が浮き上がり、ロドクが飛んでいる付近へ急浮上していく。これで爆発の範囲外に逃げることが出来た。


 同時に、奴に近づけたため攻撃を仕掛けることも可能だ。


『そのような使い方があるとは……。だが、同じ手は通用せんぞ』

 ロドクはこちらの動きに驚愕しながらも、周囲に黒い霧を展開させる。


「(あの霧は確か……)」

 魔法攻撃を無効化するものだったか。

 前回から学んで魔法剣による攻撃の対策というわけだ。

 多分、聖剣の攻撃にも通用するのだろう。前回と違って倒しきれそうにない。


『だが、貴様は止まるまい!!

 そのまま突っ込んで返り討ちに合うがよい』

 ロドクは更に魔法を展開し、上空に大きな火球を出現させる。


「(……)」

 こっちは勢いよくジャンプしただけなので自由に動けるわけじゃない。ロドクの言う通り、このまま突っ込めば攻撃を弾かれた上に火球の餌食になってしまうだろう。


 だから、ボクは―――


<飛翔>まいあがれ

 聖剣の力を一時解除し、魔法を発動。ロドクをガン無視して飛翔の魔法ですり抜けて闇のフィールドの端に突っ込んでいく。


『な、何!?』

「たああああああ!!」

 ボクはそのまま闇に向かって、聖剣を一閃、闇の一部が僅かに切り裂かれそこに飛び込む。その直後に、僕は闇の牢獄の外に脱出し、闇の牢獄内部は大きな爆発音が響き渡るが、外には何の影響も無かった。


「やっぱり、そういう結界魔法だったんだ」

 一人で納得し、ボクはロドクを置き去りにして走る。

 姿を変えたことで内包するマナが増えて、<飛翔>の魔法を使うことが出来た。不慣れだから常に使えるわけじゃないけど、不意打ちの手段としては効果的だったようだ。

 

 そして、ボクは王都目指して全速力で駆けていく。

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