第404話 おうちに帰りたい勇者
【視点:レイ】
ロドクの闇の牢獄から逃れたボクは、ロドクを無視して王都目指して走り続けている。
マナ量の底上げとスピードを上げるために、今は女の子に変身している状態だ。別に女の子になりたかったわけじゃない。
しかし、王都までの距離は直線距離で見積もっても二十キロはあり、初速を使い続けても時間が掛かり過ぎる。
「(勢いで出てきたけど、失敗だったかな)」
この調子だと、王都に着くまで何十分掛かるか分からない。
まだ後ろからこちらを追ってくる気配を感じるため、隠れながら進んでるけど構わず最短距離を目指すべきだろうか。
しかし、そんなことを考え始めてから数分後に、王都の方で変化があった。
突然、王都の上空で雷鳴が響き渡り、上空に飛んでいた影が地上に向けて、光り輝く紫電の光のレーザーを地上の魔物に解き放つ。
その光のレーザーにの余波で周囲の空が照らされ、地上で暴れていた巨大な魔物は崩れ落ちていった。
「あれは、カエデ……」
ボクは光を遮るために、近くの樹の影に隠れて様子を伺う。光のレーザーが周囲を照らすため、その影が仲間である雷龍のカエデであることが分かった。
今、彼女が放ったのは<究極破壊光線>とかいう、どんなものでもぶっ壊すチート技。あれの直撃を受けたのであればまず倒せない魔物は居ないだろう。
「(良かった……なんとかなったっぽい……)」
あれなら無理にボクが王都に向かわなくても大丈夫だろう。仮に向かったとしても、ボク自身があれはどうにか出来たかは疑問だったけど。
「さて、じゃあどうするかな……」
ボクもあれ以上戦ってても近いうちに限界が近かっただろう。
エミリア達は、後で助けに来ると言ってたけど、あちらの様子を考えるとこっちに来る余裕は無さそうだ。そうなるとやはり撤退したのは正解だったのだろうか。
「(……いや)」
魔軍将ロドクを自由にするのは危険だ。
下手にまた召喚魔法を起動されては戦況がひっくり返されかねない。
「……よし」
ボクは樹の傍に寄り掛かって座り見えにくい位置に移動する。その後に、上級ポーション3個、魔法の上位霊薬3個を全て飲み干す。
これらは単独行動すると決めた時にエミリアに押し付けられたものだ。ポーションの方はHP、霊薬はMPを回復すると言えば効果が分かりやすい。全快には程遠いけどある程度戦いにはなるだろう。
それから、契約の指輪に呼びかける。
「カエデ、聞こえる?」
ボクがそう呟くと、契約の指輪から声が聞こえてきた。
『桜井君!?』
カエデの声だ。どうやらあちらも無事のようだ。
「ちょっと状況が変わったんだけど、そっちは大丈夫?」
『大丈夫だよ! さっき、すごくデカい魔物を倒したよ!!』
「うん、遠くから見てたよ。
悪いんだけど、こっちに迎えに来てくれないかな。ちょっと今逃げてる最中で追われてるんだ」
『そ、それ本当!? 分かった、今そっちに行くね!』
「お願い」
そこまで話して、契約の指輪からの通話が終わる。
「これでよし、と」
もし、今から行う作戦が失敗しても、これで一応の保険が出来た。
万一の時はカエデに助けてもらおう。
とはいえ、今すぐとはいかないだろう。ロドクが追ってきているなら、そっちの方がずっと早いタイミングで来るはずだ。
「(気配は……)」
目を閉じて<心眼>を集中させる。
「(何かが上空からこちら方面に向かって飛んできているな……)」
飛行系モンスターだろうか。その割には少し速度が遅い。
飛翔の魔法を使用している割には、あまり魔力の気配を感じない。
「……ん、もしかして」
感じる気配は二つだ。それは上空で二つ重なってる。
もしかして、飛行モンスターに何かが騎乗しているのか?
「(……うん、的外れじゃなければロドクだ)」
おそらく、自身が召喚した飛行系モンスターに乗ってボクを捜索しているのだ。
結構早い速度だけど、初速を使ってるボクの速度には劣るから今まで追いつけなかったのだろう。
迫ってくる敵の正体が分かれば、そこからはもう早かった。
ボクはこのまま樹の影に隠れて敵が横切るのを待つ。案の定、上空を飛ぶワイバーンと、その背中に騎乗するロドクの姿が見えてきた。
「……」
ボクは聖剣を抜いて、タイミングを計る。
距離が離れているため魔法を使いたいところだけど、魔法だと魔力の発動の際に相手に気付かれてしまう可能性がある。
なので、ギリギリのタイミングで飛び出して、純粋な身体能力で斬り込む。
そして、十秒ほど待ちワイバーンが樹の傍を横切った時に飛び出し、初速の技能で一気に加速する。即座に背後を取り、そのままボクは純粋な身体能力のみで、大きくジャンプして飛び上がる。
地面を蹴り上げた瞬間に音を立ててしまったため、
背中に乗っていたロドクは異変に気付いたのか背後を振り返る。
しかし、その瞬間―――
「―――バックスタッブ!!」
サクラちゃんよろしく、
ロドクの背後を取った状態で背中に向けて聖剣の刃を振り上げる。
『―――!!』
ロドクは声を上げる暇すら与えずに聖剣の効果を起動する。
光に包まれた聖剣の刃は、光を纏った衝撃波となり騎乗しているワイバーンもろとも吹き飛ばす。そして、攻撃が終わったと同時に、ボクは地面に着地して、その場から一旦離れる。
「(思ったより簡単にケリが付いたな……)」
正直、あんなに上手くいくとは思わなかった。
魔軍将ロドクはアンデッドだ。
聖剣の攻撃をまともに受けてしまえば、まず助からない。
手応えは十分にあったため、あの一撃で倒せたと思いたい。
「(これで王都に戻って、後はみんなに任せよう)」
そう思い、王都の方角へと向かおうとした時、
―――一瞬、強烈な殺気を感じた。
「くっ!?」
突然、背後から衝撃が走りボクは吹き飛ばされる。
それでも、殺気を感じた瞬間に気を張ったおかげで意識を持っていかれずに済んだ。
「今のは……」
立ち上がりながら、ボクは後ろを確認する。そこには、下半身が消し飛んだ状態で浮かび上がるロドクの上半身と、身体の大半が吹き飛んだワイバーンの死体が転がっていた。
『カカカ……残念だったな……!』
ロドクは、不意打ちを受けたにも関わらず致命の攻撃を避けていた。
騎乗していたワイバーンは、聖剣の攻撃を回避しようがなくそのまま直撃してしまったようだ。
「うそ……聖剣の直撃を受けたはずなのに……!!」
ボクは信じられない光景を見て、唖然としていると上半身だけになったロドクは言った。
『確かに、アンデットは聖なる力に弱いとも。だが、我は少し特殊でな。これでも人間の時はそれなりに信仰心を持っていた身だ。聖属性への耐性も多少は持っているのだよ』
聖属性とは聖剣による攻撃の事だろう。
他にも姉さんが使用する<浄化>の魔法などもこれに当たる。
つまり、ロドクには浄化の魔法も通用しないということになる。
「嘘でしょ!? そんな人間がなんでアンデットなんかに!?」
『目的があったからだと言ったであろう。
普通の人間が悠久の時を得ようとするならば、人間以外の存在になるしかあるまいよ。
勇者としての使命を完遂した奴なら話は別だが、我は違ったからな』
「く……こいつ……!!」
ボクは剣を構えたまま、ジリジリと後ろに下がる。
さっきのダメージもあり、このまま戦っても不利な状況だ。
『ふむ、不意打ちが失敗したとはいえ、随分な怯えようではないか。
それともこの姿が恐ろしいか? 意外と身軽で良いものだぞ、空を飛べさえすれば不自由はない。貴様もアンデッドになれば分かるというものよ』
「断るよ!!」
ボクは返事と同時に、奴に向かって火球の魔法を放つ。しかし、ロドクはそれを軽くなった体で身軽に回避して、腕から魔力弾を数発作り出す。
『そら、お返しだ』
「っ!!」
奴から飛ばされた魔力弾を聖剣で弾き返すが、一撃一撃がかなり重い。さっきいくらか回復したはずだが、それでも奴に対抗する力には戻っていないようだ。
『ふむ、我に不意打ちをしたときに力をかなり消費したとみえる。
―――――どうやら、貴様との楽しい小競り合いはここで終わりのようだな』
その言葉に、ボクの心臓が大きく跳ねる。
奴の言葉に『ボクを本気で殺す』という感情が読み取れてしまった。
ボクは、即座に後ろを向いて、その場から全力で逃げ出す選択をした。
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