第402話 レベッカとアカメ

【視点:レベッカ】

「アルフォンス様、お怪我はございませんか?」

 私はアルフォンス様に声を掛けます。

 しかし、彼はアカメを鋭い目つきで見つめたまま言いました。


「……レベッカだったか。今の魔法はお前か?」

「はい。並の魔物ならあれだけで終わるのですが……」

 しかし、アカメは魔法を力づくで振り払い再び羽で空に浮かび上がる。


「……やっぱり、この程度では通用しませんね」


 レベッカは彼女を見据える。

 拘束が解けたアカメはレベッカを無言で見つめる。


「……またお会いしましたね、アカメ様」

「……私はもうあなたの相手はしたくない」


「残念ですがそれはできかねます。

 貴女がわたくし達と敵対する限り、何度でも止めてみせます」

「……敵対とはまた別、私はあの王都を滅ぼさないといけない」


「それは何故?」

「……」

 アカメは再び黙ってしまいます。


「……あの魔物は貴女の魔力で足を動かしているだけなのでしょう?

 貴女は連戦とあの巨体の魔王を動かすことが精一杯で、立っているのがやっとではありませんか?」

「…………」

 アカメは、わたくしの言葉に応えず無言を貫く。


「……アルフォンス様、騎士の方々を連れて、あの魔物の元へ。……この場はわたくしが」

「……すまん」


 そう言うと、アルフォンス様は騎士達に肩を貸して共に下がっていく。彼ら騎士団が動きを止めて下さらないと、王都が壊滅してしまうでしょう。今は踏ん張ってもらわねば。


 わたくしは彼らを見送った後に槍を構えてアカメと対峙します。


「これで一対一ですね」

「……本当に邪魔ばかりしてくれる。あなた達は」

「えぇ、邪魔します。これでもわたくし、勇者であるレイ様パーティの一員でございますから」

「……忌まわしい……、何故、彼は神なんて存在に手を貸すの……?」

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味。……神は彼にとって害悪にしかならない。

 あなたも、そう。土の女神の巫女である貴女は、いずれ人間でなくなり、未来永劫、【女神】という名の神の奴隷にされてしまう」

「……何が仰りたいのか、理解出来かねます」


 しかし、彼女はわたくしの言葉を無視して言葉を続けます。

 まるで自分に言い聞かせているようでした。


「【勇者】も同じ……、私も……いえ、私たちにとって神は敵。神なんていう存在に縛られたこの世界なんてあってはならない」

 アカメは、そう言って翼を大きく広げる。


「……それが、あなた達、魔王軍の目的でしょうか?」

「……肯定、私達が滅ぼしたいのは【神】と神が作った世界の破壊」

「随分と壮大なお話ですね」

「否定、大袈裟ではない。【人間】という種族も、いつか必ず滅びを迎える。

 私は知っている。【神】によって滅ぼされた世界がいくつも存在することを。だからこそ、私達は止めないといけない」


「……どういうことですか?」

「私達は、次元の扉を開き、神の座へ至る。そして――――」

 次の瞬間、アカメの姿が消えて、わたくしは空を見上げる。

 そこには翼を広げたアカメがこちらを見つめていた。


「―――私達は、真の意味でこの世界を救う。例え、全てをゼロに変えても。

 忌まわしい、神による時の輪廻に囚われたこの世界を救うために。それこそが、私が生まれた使命だから―――」

 そう言い残して、彼女は姿を消した。


「……逃げられてしまいましたか」

 わたくしは限定転移で槍を消失させる。


「(今の魔法……おそらく、ベルフラウ様と同じ空間転移……)」

 わたくしの使用する<限定転移>や<重圧>を彼女が使用していたことも引っかかる。これらの能力は特殊な存在以外は使用できない魔法のはず。


「……と、すると、彼女は……」

 と、わたくしはそこまで、思考したところで中断する。


 今はこちらに気を取られている場合では無い。

 古の魔王は、国王陛下率いる騎士団が槍や弓、大砲などで攻撃を幾度も繰り返しているのだが、ダメージを喰らいながらも王都への進撃を緩めていなかった。


「このままでは、不味いですね……」

 騎士団の方々が攻撃を続けていればいつかは倒しきれる。

 だが、あと五分もしないうちに、王都内に足を踏み入れる。騎士団の総攻撃で倒しきれたとしても、その頃には王都が壊滅していてもおかしくない。


「今、ここで食い止めるしかありませんが……」

 頼みのエミリア様やサクラ様は、アカメの放って精鋭の魔物達に足止めをされている。カエデ様は、究極破壊光線を撃った直後に、レイ様から呼び出しがあったようで不在だ。


 レベッカは、考える。

 前線で戦っている猛者たちに呼びかける時間もおそらくない。それにあの巨体では、ただ歩くだけでも甚大な被害が出てしまう。接近戦で倒すのは危険過ぎる。

 なら、弓矢や魔法で倒すしかないが、あの巨大な存在は装甲は固すぎて、よほどの高威力でもない限りダメージを与えられない。


「(……なら極大魔法?)」

 極大魔法は、人間が編み出した最高峰の攻撃魔法だ。攻撃範囲が広すぎて、カレン様が囚われている状況では使用できなかったが、今なら……。


 この場で極大魔法を使えるのは、エミリア様とサクラ様の二人だ。極大魔法クラスの場合、おそらく王都にも多少被害が出る可能性がある。

 だが、幸いにも王都の住民の大半は避難した後だ。最悪、王都が半壊しても、国民さえ無事なら問題ない。


 だが、二人とも今は戦闘中だ。

 レベッカが助力したとしても、今から間に合うか分からない。

「(それに……、お二人とも極大魔法を使用できるほど魔力を残しているかどうか……)」

 エミリア様は、レイと<魔力共有>している状況だ。遠くで戦ってるレイ様のMPを彼女が賄っており、彼女自身も連戦に次ぐ連戦を行っている。サクラ様も、連戦状態で更にMPの消耗が激しい聖剣を使って戦っている。


「(国王陛下は……)」

 元勇者、という肩書もあり、おそらく実力はあるはず。

 だけど、彼自身が「倒せない」と断言している。……彼の護衛であるウィンド様は国王陛下の代わりに前線の指揮をしており、彼女が抜けてしまうと前線に影響が出てしまう可能性が高い。


 つまり、あの魔物を倒しきれる術は、どこにも――


「――――いや、ある!」

 レベッカは思い出す。

 王都に来てから、ウィンド様から教わった魔法の事を。

 まだ今の自分には扱いきれないので、ウィンド様によって使用を禁じられていたが、今は緊急事態だ。

「……ならば、急がねばなりません」

 そして、レベッカは息を大きく吸い込み、あの巨大な魔物と戦っている国王陛下と騎士達に向かって大きな声で叫ぶ。


「国王陛下様、それに騎士の皆様がた!!!

 今から、全身全霊を込めて、一つの魔法を使用させていただきます。

 どうかその魔法が完成するまでの間、その巨体の魔物の足を止めていただけないでしょうか!!」

 レベッカの声を聞いて、魔物と交戦していたグラン陛下は、彼女の方へ振り向く。


「それは、どのような魔法なのだ!?」

「詳しい説明をしている時間は無いのですが、攻撃範囲が広い魔法なので、わたくしが詠唱完了したタイミングで後退してくださると助かります!!!

 一つ言えるのは、直撃すれば、確実に倒せるという事です!!

 多少、王都を巻き込んでしまう可能性がありますが……、それについては申し訳ございませんが、許可をお願い申し上げます!!!」


 レベッカの言葉に、グラン陛下は一瞬だけ考えてから、頷く。


「……キミを信じよう。

 聞いたか、我が騎士団よ。彼女が言う魔法が完成したと同時に、奴から離れるぞ。

 いいか、絶対に死ぬんじゃないぞ。生きて帰るんだ、我々の国に!!」


 その言葉に、騎士団全員が「おおっ!!!」と答える。


「……ありがとうございます、国王陛下」

 レベッカは、国王陛下に感謝を述べてから、意識を集中させる。


「……精霊様、力をお貸しください……」

 レベッカは、精霊魔法で周囲のマナを取り込みつつ自身の魔力を飛躍的に高める。

 彼女が目を閉じて、集中すると、周囲に魔力のオーラが迸る……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る