第401話 不死身の魔物
【視点:アルフォンス】
魔王の抜け殻をカエデの究極破壊光線で撃ち抜き、その巨体は足から崩れ落ちていった。その光景を目撃していた騎士達や前線で魔物達と戦う戦士たちは、歓喜の咆哮を上げ、士気は一気に高揚していく。
こうなれば、残った魔物達が多かろうと勝勢はこちらにある。今は、国王陛下の力添えもあり、前線の戦士たちは凄まじい勢いで魔物を倒していく。
この戦い、決着は近いだろう。
団長はこちらの勝利を確信しながらも思いに更ける。
「ふむ……しかし……」
王宮騎士のガダール団長は、
巨体の魔物を滅ぼした雷龍の姿を目に焼き付けて言った。
「あれほどの力があるとは……。
なるほど、伝説に違わぬ存在だったという事か……。
どうやら儂の目が曇っていたようだな」
その表情は、感心というよりは畏怖の目で見ている。やや堅物のこの男は、味方になった頼もしさよりも、敵になった時の脅威を恐れているのだろう。
そこで、俺はガダール団長に声を掛ける。
「ガダール団長、まだ他の魔物は残っています。陛下も久しぶりに前線に出て張り切ってるみたいですし、無茶されて、最前線に飛び出される前に俺らも行きましょうや」
「……そうだな。よし、我々も行こう。
皆の者、これより我ら王国騎士団も戦線に加わる!
一匹たりとも街に入れるな!! 行くぞぉおお!!!」
「「「オオオォォーーッ!!」」」
王宮騎士団ガダールは精鋭を連れて戦場に向かう。
「さぁて、俺らもいかねぇとな。……おいお前ら、行くぞ」
そう言いながら、俺は自身の部下に声を掛ける。しかし、
「団長……アレを!」
「ん?」
一人の団員の声に反応すると、彼はさきほど雷龍が倒した巨体の魔物を指差していた。その魔物の死体の傍に、何者かが立っている。
「……誰だ?」
その姿は、少女のような姿だった。飾りか何か分からないが、頭にツノのようなものと背中に羽のような装飾が付いている。
こんな戦場のど真ん中に突っ立ってる人間が民間人の筈はない。
おそらく闘技大会に参加していた戦士の一人だ。
「おい、そこで何をやっている!!」
俺は少女に向かって大声で声を掛ける。
しかし、その少女はこちらに見向きもせずに、巨体の魔物の死体に近付く。
「おい、近づくな!!
死んでるとはいえ、何が起こるかわからねえんだからよ!!」
俺は声を荒げる。しかし、少女は一瞬こちらを見て――――
「――――邪魔をするな」
そう言いながら、彼女は両手に黒い塊の魔力を作り出し、
こちらにその魔力の弾を複数飛ばしてくる。
「―――な!」
少女の突然の行動に戸惑いつつも、俺は剣を取り出して魔力の弾を弾き返す。弾き返された魔力の弾は周囲で爆発を引き起こす。
「あ、危ねぇじゃねェか、いきなり何すんだよ!」
「……」
彼女は、こちらを無視して巨体の死体に手を当て、目を瞑る。
そして数秒後、彼女の手から黒い光が放たれ、その光が死体に溶け込んでいく。
すると………。
「た、隊長……あ、あのデカブツ、また動き出して……!!」
「……マジかよ」
死んだはずの巨体がゆっくりと起き上がり、大きな雄叫びを上げる。魔物は、胸と腹に大きな風穴が空いた状態で立ち上がり、再び王都へと進んでいく。
「てめぇ!!! 一体何をしやがった!!!」
「……見てのとおり。
意思などない肉体だけの存在。痛みなど何も感じない。
私の魔力で動かせる稼働時間なんてたかが知れてるけど、少しの間なら動く」
「ふざけんじゃねぇ!! この野郎!!」
俺は剣を構え、戦闘態勢に入る。
他の部下たちも彼の指示に従い、武器を構える。
「おい、お前ら!! アイツを止めるぞ!! これ以上好き勝手させるわけにはいかねぇ!」
俺達は、彼女に向かって剣を構える。
「今の話だと、てめぇを倒せばあのデカブツは止まるって事だろ?
女の姿だと思って油断しちまったが、てめぇがレイ達が言ってた魔軍将ってやつか!!」
「……今更、気付いたの? 本当に愚か……」
彼女は、悪魔の翼を広げて空に浮かんでいく。
「連戦で疲労してるけど、あなた達程度なら問題ない」
その魔軍将、アカメは、何処からともなく剣を取り出す。
「構えろ!!」
俺の指示に、部下たちは一斉に彼女に斬り掛かる。
「……無駄」
次の瞬間、彼女の目が赤く光る。
それだけで、俺を除く騎士達の動きが止まってしまった。
「た、隊長、身体が……!!」
「う、動かない……!!」
「くっそ、なんだこれ……!」
「貴方たち程度の力では私に触れる事すらできない」
そう言いながら、彼女は団員達に向かって斬り掛かる。
しかし、俺が割って入り、彼女の剣を自身の剣で受け止める。
「―――!!」
「うおりゃあああ!!」
俺は力任せに剣を押し返し、女は軽く吹き飛ばされて空中に再び退避する。
「……少々、油断した。多少強い奴も混ざってた」
「舐めてんじゃねえぞ!! てめぇ、部下に何をしやがった?」
「<麻痺の魔眼>……。
一定未満の能力の相手なら睨み付けるだけで麻痺させて動けなくする。
あなたにも掛けたつもりなんだけど、基準に入らなかった」
目の前の女は俺をジッと見る。
「俺にはそんな攻撃通用しねえよ。部下を解放して、あのデカブツを止めろ。さもないと女の姿をしてても斬るぜ」
俺は剣を向け、いつでも戦える体勢をとる。
「断る」
「そうか、じゃあてめぇ一人が死ね」
俺は剣を上空に向けて、絶技の構えに入る。
女は片手に黒い魔力弾を出現させ、攻撃準備に入る。
しかし、そこで第三者の声が掛かり二人は動きを止める。
「
俺の背後から、誰かの声が響く。
その声と同時に、女は全身に重みを感じて地上に着地して膝を付く。
「――ぐぅ!!」
女は魔法に抵抗しながら、
俺……いや、魔法を掛けた背後の人物を睨みつける。
「アルフォンス様、お怪我はございませんか?」
二人の戦いに割り込んだのは、槍を持った小柄な少女だった。
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