第399話 エミリアが頑張るターン

【視点:エミリア】

 私とレベッカは、雷龍であるカエデの力を借りるために戦場を離れる。レベッカは飛行魔法を使用できないので、私が彼女を背中に背負って私が飛行魔法で飛んでいる。

 カエデは近場で戦っていた筈なのだが、攻撃範囲が広いので少し距離を取って戦っているようだ。


「エミリア様、わたくし重くありませんか?」

「いえ全然」

 レベッカは不思議な程体重を感じない。

 私よりも彼女はいくらか小柄なのだけど、それにしたって軽く感じる。

 もしかしたら魔法か何かで体重を軽くしているのかもしれない。


「レイと違って軽いから全然余裕ですよ」

 かわいいし、柔らかいし、毎日こうやって背負ってあげたいくらい。


「い、いえ、流石に毎日は……」

 心の声が漏れてしまったようだ。

 レベッカは不思議な力で人の心が読めるみたいです。よくレイが被害に遭っていますけど、私も読まれないように気を付けないと……。


「こほん……。さて、カエデが何処にいるかですが……」

 私は誤魔化すように咳払いをして高所から地上を見渡す。

 カエデは身体の大きなドラゴンだから見渡せばすぐに見つかるはずだ。


「エミリア様、あそこでは無いでしょうか」

 レベッカは背中から手の伸ばして指を差して方向を指し示す。

 彼女が指し示す場所には、森の方向に向かって青い身体の巨体の何かが、電撃のようなブレスを放って何かに攻撃をしているように見えた。


「アレですね。レベッカ、急降下しますからしっかり掴まっててください」

「了解です。エミリア様」


 私は彼女の返事を聞くと風の魔法を併用しながら少しずつ降下し、徐々に速度を落としつつ着地の角度を緩やかにしながらゆっくり地面へと降り立った。

 そして、カエデが戦っていると思われる場所の近くに着くと、レベッカを背中から降ろして彼女の元へ向かう。


 私達が近づくと、草むらの中から複数の魔物が飛び出してきた。


「敵っ!?」

「戦闘準備を―――」


 と、私達二人が構えると、魔物達は私たちに目もくれずに逃げていった。


「あ、あれ……?」

「ふむ……軟弱な魔物達でございますね」

 レベッカの言葉に私は苦笑する。


「でも助かりました。……さて、カエデの所に行かないと」


 私は再び歩き出し、レベッカも付いてくる。

 しばらく歩くと、前方に大きなドラゴンの影が見えてくる。


「いたいた、探しましたよ。カエデ」

 私達が声を掛けると、そのドラゴンはこちらに顔を向ける。どうやらさっきの魔物達はカエデから逃げていったようだ。カエデの周囲に黒焦げにされた魔物の死体が沢山転がっていた。


『あ、エミリアちゃんにレベッカちゃん』

 カエデは、人の言葉を話しながらもドラゴンの唸り声を上げる。

 怒ってるのか歓迎してるのか分かり難いですね……。


『どうしたの? 桜井君を迎えに行く?』

「いえ、それもしたいところなのですが……」

 桜井君って誰?

 ……って突っ込みたくなりましたが、多分、レイの事でしょう。

 私達は彼女に事情を話しました。


「というわけで協力してくれませんか?」


『えー、100年前の魔王が現れたから私に倒してくれって!?

 私、こんなでも、一応中身乙女だよ? そういうのって桜井君みたいな勇者の役割じゃないの?』


「いや、まぁそうなのですが……」

 勇者であるレイは、魔軍将との戦いで手一杯だと思う。

 彼が離れれば魔軍将ロドクを食い止める者がいなくなってしまう。


「お願いできませんか? カエデ様」

『う~ん……分かった! じゃあ、二人とも乗って!!』

 カエデの許可が下りたので私達二人は彼女の背中に乗る。

 そして、私達を乗せたカエデは翼を伸ばして羽ばたき飛び上がる。


 ―――数分後


 私達は、再び前線に戻ってきた。


『な、何アレ……!?』

 カエデは、地上で暴れている巨大な魔王の抜け殻を目撃して、顔を歪める。

 魔王の抜け殻は、私達が離れた時よりも王都に近付いていた。騎士達は魔物を必死に押し留めようとしていた。

 また、倒れていた赤眼の魔軍将はいつの間にか居なくなっている。騎士団が捕らえたのだろうか?


「カエデの究極破壊光線でどうにかなりませんか?」


『う、うーん……行けないわけじゃないけど……』

 と、カエデはそこで言葉を切る。


「けど?」

『あんなに人がいっぱいだと、周囲を巻き込んじゃうかも。下手すると街に被害が出ちゃうから安易に撃ったらとんでもないことになっちゃう!!』


「なるほど……そういうことなら」

 私は飛翔の魔法を再び発動して、カエデの背中から飛び上がる。


「エミリア様、どうされるのですか?」

「私が下に降りて、魔物から離れるように呼びかけてきます」


 そう言って、私は地上に向かって急降下していく。

 地上に近づくにつれて、視界には大量の魔物の姿が見える。


「ち……まだ、こんなに魔物が残っていたのですね!」

 あの抜け殻を倒すのが先決だけどとりあえずこいつらを吹っ飛ばそう。


「邪魔です!!」

 私は杖を振りかざし、魔物の中心に向けて魔法を放つ。私の放った魔法は、地面に着弾すると、轟音と共に眩しい光を放ちながら爆発する。


「「「ギャアァッ!!!」」」

 突然の強烈な閃光と衝撃に、魔物達の悲鳴が上がる。


「なんだ、援軍か!?」


 地上で戦っていた戦士がこちらの方を向きながら叫んだ。

 私は彼らに向かって大きな声で言った。


「今からあの巨体の魔物を仕留めます!!あなた達は被害を受けないように、巨体の魔物から離れるよう呼びかけてください!!」


「おう、分かったぜ!! お前ら、聞いてたか!!」

 戦士は大声で叫ぶと、周囲の仲間達と協力して声を掛けていく。 

 私はそのまま空を飛行し、今度は魔王の抜け殻を押し留めている騎士達と陛下に呼び掛ける。


「陛下、連れてきました!!

 今からデカい一撃を放ちますから騎士達を離れさせてください!!!」

「!!」


 私の声に気付いたのか、

 陛下は振り返って私の姿を目に映すと、

 ニヤリと笑みを浮かべて指示を出す。


「よし、わかった!

 ――よくやった、我が国の騎士達よ! 全員後退せよっ!!」


 その声を聞いた騎士達は一斉に後退を始める。

 これで準備は整った。


「では、いきましょうか」

 私は、再びカエデの元に戻ろうと、高度を上げていく。

 

 その途中で―――

 カエデの背中に乗っているレベッカが私に向かって大声を上げる。


「エミリア様、危ないっ!!!」

「!!!」

 私は彼女の声を聞いて、すぐに反応する。

 その次の瞬間、私の上空から落雷が降り注いでくる。


<魔力相殺>ネガディブマジック!!」

 即座に手をかざして、降り注ぐ落雷を魔力によって相殺する。魔法を無効化した私は、飛んできた落雷の方角を睨む。すると、そこには手を突き出したままこちらを睨む赤眼の魔軍将の姿があった。


「アカメ!!」

「―――失敗、不意打ちだったのだけど」

 彼女は私を見据えると、呟く。


「どうして貴女がここに。気絶してた筈では?」


「無理な召喚をしたせいで、一時的な魔力不足に陥っただけ。

 ……それよりも、あなた達にこれ以上動かれたら計画の邪魔になる。

 あなた自身に恨みはないけど、ここで消えてもらう」


「――良い度胸ですね。返り討ちにして差し上げましょう」

 私は杖を構えて戦闘態勢に入る。

 しかし、アカメは不敵な笑みを浮かべて言う。


「――私に勝つ気でいる?

 あなたのお友達、レベッカも私に勝てなかったのに?」


「……なるほど、私だけじゃなくてレベッカも傷付けたのですね。なら、余計に許せませんね」

 私は彼女に杖を向け、魔法を使う準備を行う。

 このアカメは見た目は人間に近いけど、明確に私達の敵だ。


 大親友であるレベッカを傷付けたというのであれば、捕虜などと生易しいことは言わない。殺すつもりで攻撃して、それでもまだ息があれば、引き摺って騎士団に引き渡せばいい。


<火球>ファイアボール!!」

 アカメに向けて火の玉を放つ。


「――無駄」

 アカメは魔法を軽く睨むと、私の魔法を消失させる。


「……厄介ですね、それ」

 このアカメの能力を突破しないと、私の勝ち目が薄そうだ。


 私がどうにか攻略法を見つけようと探っていると、上空からレベッカの声が掛かる。


「エミリア様、ご無事ですか!!」

「ええ!」

 私はすぐに返事をして、彼女にお願いをする。


「私はこいつの相手をするので、カエデに技を放ちやすい場所まで移動させてください。あのデカブツさえ倒せれば、こいつとレイが戦ってる魔軍将ロドクさえ撃破すれば、私達の勝ちですよ!!」


「……了解です。カエデ様、行きましょう」

『オッケー!!』

 返事をした雷龍はグルりと反転して、地上に向かっていく。


「―――私が逃がすと思う?」

 アカメが指先から闇の光線を放って、カエデを翼を狙い撃つ。

 だが、その光線は私が発動させた魔法によって相殺する。


「―――っ」

「余所見とは余裕ですねぇ……。

 悪いですけど、あなたはこのまま私と戦い続けてもらいますよ」


「――面倒臭い」

 アカメは舌打ちすると、何も無い所から剣を取り出す。


「(……今の、レベッカと同じ限定転移ですね)」

 あの魔法をこいつが使用できるとは驚きだ。

 さっきの無効化の魔法といい謎が多すぎる相手ですね。


「あなたに構ってる暇はない。今すぐ退けば命は取らない」

「言いますね。貴女こそ、今謝れば許してあげますよ?」


 私と彼女は互いに挑発し合い、そして戦いが始まった。

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