第398話 時代遅れの魔王

【視点:レベッカ】

 ‟アカメ”が最終手段として召喚した正体不明の巨大な魔物。 

 魔物は巨大な腕でカレン様を捕らえ、私達は必死に救出しようと必死に魔物に攻撃し、最後は陛下の一撃で魔物の腕を切断し、どうにか救うことが出来ました。


 陛下の指示で集結した騎士達は、魔物を取り囲み魔法や弓矢などで攻撃を仕掛けている。魔物が近づこうとすると、騎士団長のアルフォンス様とガダール様が前に出て連携を取りながら攻撃を仕掛けて侵攻を防いでいる。


 その間、ベルフラウ様の魔法で傷付いたカレン様の治療を行っていた。


「ふう……」

 全力で回復魔法を掛け続けていたベルフラウ様は、

 回復魔法を一旦中断させ、息を整える。


「ベルフラウさん、カレン先輩は助かりそうですか……?」

 サクラ様は、カレン様の事が酷く心配のようで手を握り続けていた。彼女自身の腕もボロボロの状態で、わたくしでも見ていられないほどです。


「うん……意識は失ってたみたいだけど、無意識に魔力で身体に防御結界を掛けてたみたいね。体の骨はいくつか折れてたけど、致命傷じゃないわ。

 ……ただ、魔力を使いすぎてて、今すぐ戦線復帰は無理そうね」


「そ、そうですか……」

 サクラ様は、ほっとしたような表情を浮かべるが、

 まだ不安が残っているのか彼女の手を握っている力が強くなる。

 意識がまだ戻らないのが心配なのだろう。


 ベルフラウ様は、その様子を優し気な眼で見つめながら言った。

「さて、次はサクラちゃんよ」

「え……私?」

「そうよ。貴女も腕が血だらけじゃない。助けるために必死だったのね。

 多分、サクラちゃんの腕の骨もヒビがいってると思うから、治療するわ。腕を出してちょうだい」


 ベルフラウ様は、サクラ様の腕を優しく掴み回復魔法の光を灯しながら話す。

 だけど、サクラ様は首を横に振って懇願する様に言った。


「あ、あの……私よりも先に、先輩をお願いします!!

 先輩の方が重傷なんです!! 私はこのくらいの怪我、平気ですから!」


 サクラ様は普段の弾けるような笑顔と違い、無理をして笑顔を作る。


「……大丈夫、カレンさんも絶対完治させるから。

 気付いていないようだけど、サクラちゃん、貴女も酷い怪我なの。

 今は私の言う事を聞いて……お願い」

「………分かりました」


 サクラ様は、大人しくベルフラウ様に身を委ねたのでした。


「(ひとまずお二人はベルフラウ様にお任せしましょう……)」

 わたくしは胸の奥の不安をため息と共に吐き出しつつ、隣で一緒に様子を見ていたエミリア様に声を掛ける。


「エミリア様、あの魔物、一体何処から?

 魔法陣から現れたとしか思えなかったのですが……」


 わたくしがエミリア様にそう質問すると、

 エミリア様は少し考えてから答えてくれました。


「あの少女……ええと、レベッカは‟アカメ”と呼んでいましたね。

 彼女が発動させた魔法陣、あれは魔軍将ロドクの使用する召喚魔法と同じモノだと思います」


「召喚魔法!? ということは、あの少女も使えると仰るのですか?」


「断言は出来ませんが……。

 だけど、あの魔法陣はロドクが何度か召喚魔法を使う際に使用していたモノに酷似しています。彼女自身が使えなかったとしても、ロドクが彼女に力を貸した可能性もあり得ます」


「成程……確かに、そう考えるのが妥当かもしれませんね……」

 だけど、それなら何故あれほどの魔物を追い詰められるまで使わなかったのだろうか。あの巨大な魔物を最初に呼び出して攻めさせれば、容易に王都を陥落出来たかもしれないのに。


 わたくしは自身の考えをエミリア様に伝える。

 すると、エミリア様はこのように答えてくださいました。


「……彼女も元々は使うつもりが無かったのかもしれません」

「どういうことですか?」

 

 エミリア様は、考えながら言葉にする。

「ロドクが召喚魔法を使った時も自身に負担が掛かって力を出し切れないようでした。

 あれほどの魔物となれば魔力消費も桁違いでしょう。呼び出しても制御しきれるかも不明ですし、あの巨体と力では仲間を巻き込んでしまう可能性を考慮すると……まぁ、推測ではありますが」


「つまり、彼女はあの状況で戦っても勝てないと考え、最後に賭けに出て召喚したと仰るのですか?」


「多分……。今の彼女も意識を失ってるようですし、何とか捕えたいところなのですが……」

 わたくしとエミリア様は、巨大な魔物の方を見る。巨大な魔物は今でも暴れ回っているが、彼女が倒れている場所に騎士達を近寄らせないようにしているようにも思えた。


 わたくしがその事を伝えると、エミリア様はこう言いました。


「召喚魔法は契約を結ぶ際に、

 呼び出す側にいくつか制約を課すことがあるのです」

「制約?」

 エミリア様の言葉に、わたくしは首を傾げる。 


「呼び出した魔物の知能で制約の内容を細かく出来ますが、

 大半の場合は『召喚者の身を守れ』『敵を近づけるな』『敵を殲滅しろ』などです。あの魔物も彼女からそういった制約を受けているのでしょうね」

「制約によって行動が制限され、彼女を守っているというわけですね」


「ええ。逆に言えば、召喚者の命を絶ってしまうとあの魔物は自由になるという事になります」

「そうなると、迂闊に手出しが出来なくなりましたね……」


 もし、あの魔物が自由に動けるようになり好き勝手暴れさせるのは危険極まりない。今だって、騎士団長クラスの騎士達が数人掛かりでようやく抑え込んでいる状態なのだ。


「下手に近付こうとすると魔物が襲い掛かってきますし、万一、魔物や騎士達がアカメを手に掛けてしまうと事態が悪化しかねません」


「と、すると……、私達はどのように動けばよいのでしょうか?」


「アカメの意識を取り戻させて、魔物を帰還させるよう命令を出させる必要がありますね。しかし、彼女に近付こうとするとあの魔物が物凄い勢いで襲い掛かって来そうです」


「……あるいは、あの魔物を撃破するか、でしょうか」

 わたくしの言葉に、エミリア様は苦笑しながら言った。


「それが出来れば一番です。……とはいえ、あれだけ攻撃して私達は一度も有効打を与えられませんでした。あれほどの魔物を倒しきれるかというと自信がありませんね」


「確かに……しかし、あの魔物は何者なのでしょうか?

 はっきり言ってしまうと、ロドクや‟アカメ”などの魔軍将よりもよほど危険な相手に感じます」


「理性も生命の鼓動を感じさせない、あの魔物……。おそらくまともな生き物ではないでしょう。以前の、龍王ドラグニルのように、ロドクがアンデッド化させた魔物だと思うのですが……」


 エミリア様は、顎に手を当てながら考え込む。


「……他の魔物とは明らかに次元が違う強さです。

 それこそ、封印された悪魔達と同等か、それ以上……。

 他に、思い当たる存在があるとするなら―――」


 エミリア様が言おうとしている言葉に、

 わたくしが思い当たる存在の名前を先に読みして言った。


「魔王……でしょうか?」 

 しかし、エミリア様は首を横に振る。


「魔王軍が積極的に動いていることを考えると可能性はありますが、

 ‟アカメ”に従っているのはおかしい。彼女は魔軍将を名乗ったのでしょう?

 それなら、むしろ従うのは彼女の方です」


「確かに……言われてみるとそうですね」


 私達が話し合っていると、後ろから声が掛かる。


「―――魔王だよ、あれは」

「!?」

 わたくしとエミリア様は、驚いて振り返る。

 そこには、国王陛下と、ウィンド様がいらっしゃいました。


「陛下……今のはどういう意味でしょうか」


 陛下は、暴れ回る魔物を睨みつけながら言う。

「言葉通りの意味だ。とはいえ、アレは今期の魔王では無い。今から100年ほど前に、既に一度滅んだはずの存在だ。……だが、何故今になって復活したのかまでは分からない」


「ま、魔王? それに滅んだって……何故、そんなことが分かるのですか?」

 エミリア様とわたくしが困惑していると、国王陛下は仰いました。


「実際に、私は勇者として奴と戦ったからだ」

 国王陛下の言葉を聞いて、私達は理解するのに数秒の時間を要しました。

 そして、数秒経ってからようやく理解をして――


「はぁっ!?」

「ゆ、勇者さま!?」


 陛下の一言に、わたくしもエミリア様も驚きの声を上げてしまいます。


「あー、うん。その反応は何度か見た覚えがある。

 今はこんな姿をしているが私はそれなりの年齢でね。驚かれているのは慣れているさ」

 陛下は、当時を思い出したのか、静かに笑みを浮かべた。


「し、しかし勇者というのも驚きですが……。

 100年前に戦ったと言ってましたね。つまり、グラン陛下って……」


「……ご年配のお方だったのでございますね」

 わたくしが思わず呟くと、エミリア様も同意見なのか深くうなずいていた。


「……失礼ですよ、二人とも」

 ウィンドさんは、私達にそう言って叱り、私達は謝罪する。


「す、すいません……陛下」

「失礼いたしました。国王陛下」


「ははは、まぁいいよ。

 要するに、私が勇者としてあの魔王と戦い滅ぼした。

 そのはずだったのだが……」


「……蘇ったという事ですか?」

「多分な、……だが、あくまで肉体だけのようだな。魔王に備わっていた恐ろしい魔力の大半が消えてしまっている。当時の魔王に比べたら著しく弱体化しているはずだ。……それでも、あの肉体一つで、この国を滅ぼせるくらいの力はあるだろうがね」


「それは……厄介ですね」


「そうだね。だから、何とかしてアレを何とかしないとまずい」


「……ですが、陛下はあの魔王を討伐したことがあるのでしょう?どうにかならないのですか?」


「……残念だが、今の私は勇者としての力は返却している。今でも使える技能はいくつかあるが、奴を倒しきれるだけの力は残っていないな」


「そうなのですか……」

 エミリア様は肩を落とす。


「だが、キミ達は『雷龍』を仲間にしているのだろう?

 あの龍の力を借りれば、<究極破壊光線>で奴を倒しきれるかもしれない」


「……『雷龍』が協力してくれるか分かりませんが」


「そこら辺の説得は任せたよ。私よりも、キミ達の方があのドラゴンと付き合いが長いのだろう?」


「……分かりました。やってみます」


「頼んだよ。……では、私は他の騎士達としばらくあの魔物を抑えている」

 そう言って、国王陛下はウィンド様を一緒に魔物の方へ向かっていきました。


「……では、私達も行動しましょうか。……ベルフラウ」


 エミリア様は、後ろでカレン様とサクラ様を癒していたベルフラウ様に声をお掛けになりました。しかし、ベルフラウ様は首を横に振り、こうおっしゃいました。


「カエデちゃんを探しに行くのよね。私も行きたいんだけど……」


 ベルフラウ様は、視線を下に降ろします。そこには、サクラ様の膝枕で眠ったままのカレン様のお姿がありました。彼女は、まだ目が醒めておらず、怪我がまだ完全に治っていないご様子でした。


 また、サクラ様は目に涙を溜めており、彼女自身も相当堪えてしまっているようで、とても戦いに向かえる状態ではありません。彼女達二人を置いていくわけにはいかなそうです。


 事情を察したエミリア様は言いました。


「分かりました。カレンの事を頼みます」

「ええ、ごめんね」

「ベルフラウ様、サクラ様、……カレン様、行って参ります」

 わたくし達は、三人に頭を下げ、その場を離れる。

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