第397話 魔神
【視点:レベッカ】
その本体は一言で表すなら異形だった。黒一色に染まった人型の体躯をしており、顔には目も鼻も口も無く、真っ赤な三日月のような笑みを浮かべている。
だが、最も目を引く特徴は、その大きさだった。
成体の竜よりも巨大で全長は30メートル以上ある魔物だった。
「……この魔物を使うことになるなんて」
アカメは、倒れ込んだまま小さな声で呟く。しかし、こちらは彼女に構っている余裕が無く、誰もその声を聞き届けるものは居なかった。
「な………は、離しなさい!!!」
カレン様は、捕まれた状態で、黒い腕に自分の持つ聖剣を叩きつける。しかし、そんな攻撃ではビクともせず、逆にカレン様の腕が痺れてダメージを負ってしまう。
「ぐ……!!」
巨大な魔物は、彼女を握りつぶそうとカレン様を掴む腕に力を込め始める。
「あああああああああ………!!!」
身体を締め付けられるカレン様の絶叫が響き渡る。
「カレンさん!!」
「このっ!! 先輩を離せっ!!」
サクラ様が高く跳躍し、のっぺらぼうの魔物の顔面辺りを目掛けて、短剣を全力で振るう。しかし、その魔物には攻撃が全く通じず、あろうことか、武器が破損してしまう。
「なっ……!!」
サクラ様は驚愕しながらも攻撃を諦めず、
今度は武器を捨てて素手で魔物を何度も殴り続ける。
「私達も攻撃しますよ!!」
エミリア様の一言で、魔物の威圧感に呑まれていた私達は正気に戻り、一斉に攻撃を仕掛ける。エミリア様とベルフラウ様は、魔法による攻撃を繰り出し、わたくしは強化した矢を放ち続ける。
そこで、ようやく魔物は少し怯み始めるが、カレン様を捕まえている手の平はまだ閉じたままだ。
「(このままではカレン様が……!!)」
私は焦りながら、どうにかしてカレン様を助けようと思考する。
「くっ……」
私達の攻撃は殆ど効いていない。
この中で最も攻撃力の高いカレン様が囚われており、おそらく次点で強いサクラ様は武器を破損してしまっている。こうなると、私達三人で何とか気を逸らして、カレン様を救い出すしかない。
サクラ様は、魔物の顔面部分を必死に素手で殴りつけているが、それでも全く効いていない。むしろ彼女の腕が血だらけになってしまっており、サクラ様は涙を流しながらそれでも攻撃を続けている。
周囲には、こちらの異変に気付いた騎士達が集まってきているが―――
「な……なんだ、あの魔物……?」
「なんという巨大な……」
「お、おい、誰か早く応援を呼んでこい!!」
「お、おう!!」
彼らは、巨大魔物を見て唖然として、混乱している。無理もない。
基地に向かい応援を呼ぼうとしてくれているだけでも有り難いだろう。
だけど、誰が救援に来たとしても、この相手では……。
「こうなれば、奴の腕に集中して攻撃を行いましょう!」
「分かったわ!!」
「はい!!」
私は、二人に指示を出して、同時に攻撃を繰り出す。カレン様に当たってしまわないように、それぞれが一点集中する攻撃を選択して数度繰り返す。
そして、何度か繰り返して攻撃している間に、魔物の腕のダメージが蓄積し、少しずつ握りつぶそうとする腕の力が弱まってきた。
「あと、少し……!!」
だけど、あと一歩が足りない。
「カレン!!! 生きてますか!!」
エミリア様は攻撃を繰り返しながら、握られているカレン様に大声で呼びかける。しかし、返事が無い。彼女は魔物の腕に捕まれた状態でぐったりしており、意識を失っているようだった。
「く……!! お願いです、目を覚まして下さい!!」
私はそう叫んで、更に攻撃を続ける。
「お願いだから……死なないで……!!」
ベルフラウ様も涙目になりながらも、必死に戦っている。
そして、魔物を殴り続けていたサクラ様は、飛行魔法で奴の腕に掴まり……。
「……せ、先輩を……、離せぇぇぇぇぇ!!!」
叫びながら、彼女はありったけの強化魔法を自身に付与しながら、魔物の腕を掴み強引に引っ張る。魔物の腕はミシミシと音を立てながら、一部の筋肉が千切れて血が噴き出し始める。
「まさか、腕を引きちぎるつもりでは……!!」
「む、無茶な……!!」
私とエミリア様は、サクラ様の行動に驚きの声を上げる。
しかし、その行動は結果的に功を奏した。
『―――サクラ君、そのまま離すなよ』
「―――え?」
突然、何処かから響いてきた声が、私達に響き渡る。
そして次の瞬間に、巨大な魔物の腕の傍まで何者かが近づき――――
「はあっ!!!」
その小さな人影に似合わない大きな剣を持った少年が、魔物の巨大な腕を斬り裂いた。
「ギィヤァアアアアアア!?」
魔物の腕は切断され、魔物は鼓膜が破れるような大きな悲鳴を上げる。同時に、開放されたカレン様は地上に落ちていき、その直前でサクラ様が慌てて駆け寄りお姫様抱っこで彼女を受け止める。
「先輩!!」
「……ん…………サクラ………?」
「良かった、無事で……!!」
サクラ様は泣きそうな顔をしながら、カレン様を抱きしめる。
魔物の腕を斬り飛ばしたのは、基地で待機していた国王陛下だった。
彼は、騎士達が前線基地で救援を求めた際に、真っ先に飛び出して、私達の窮地を救ったのだった。
私達も心配でカレン様の元へ向かっていく。
「なんとか、間に合ったか……」
陛下は疲れた様子で手に持った剣の形状を元に戻して、鞘に納めた。
「陛下……ありがとうございます! おかげで、先輩が助かりました……」
「気にするな……カレン君も、私にとって大事な友人でもある。それより、一旦魔物から離れよう。……キミ達もだ」
陛下は、魔物を睨みながら一瞬だけこちらに視線を移す。
「分かりました」
「はい……!」
私達は、急いで魔物から離れることにしました。
カレン様、お怪我は大丈夫でしょうか……。心配でございます……。
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