第396話 呼び出されたモノ

【視点:レベッカ】

「……さて、じゃあ行きましょうか。

 あれだけの陛下の鼓舞を受けて、私達が戦わないわけにはいかないものね」


「ええ、ベルフラウ様」

 私達は互いに頷き合い前に出る。しかし、三歩程度前に出たところでベルフラウ様は、顔にクエスチョンマークを浮かべながら言った。


「……聞くの忘れてたけど、レイくんとエミリアちゃんは?」

 今、気が付かれたのですか……。

 ベルフラウ様はお優しい方ですが、時折抜けておりますね。


「エミリア様は、怪我を負ってしまいまして前線基地で治療を受けております」

「レイくんは?」

 少々言い辛い事ですが、伝えないわけにはいけないでしょうね。


「……レイ様は、ただいま敵の大将と一騎打ちを」

「えっ!?」


 ベルフラウ様は酷く驚いております。

 姉であるベルフラウ様が心配するのも当然でございますね。


「は、早く助けに行かないと……!」


「わたくしもそうしたいのですが……。現状、レイ様の場所が把握可能なエミリア様が負傷しておられます。それに、あの【赤眼の魔軍将】が健在な状況で、私達がこの場を離脱するわけにもいかず……」

「誰それ?」

「カレン様とサクラ様が二人掛かりで抑えている魔物少女でございます」

 私は、彼女の方に視線を移す。


 ‟アカメ”は二人を相手取りながら互角に近い戦いを繰り広げている。

 私の時とは違い、アカメは攻撃魔法を駆使して、彼女ら二人を同時に近づけないように戦い、時折、空を飛行して奇襲を掛けながら接近戦を仕掛けています。


「どうやら、あれが彼女の本来の戦い方のようですね……」

 わたくしとの戦いの時は、空も飛ばず魔法も使わず、あくまで地上での接近戦で戦っていた。おそらく、自身の方が実力が上な事を把握していてこちらに合わせてくれたのでしょう。


 故に、わたくしは彼女の本来の実力を見誤り、最後に不覚を取ってしまったわけですが……。


「あの二人が抑えてくれているなら、

 私達がレイくんの手助けに行っても良いんじゃ……?」

「………」

 ベルフラウ様の言葉は一利あります。


 さきほどの国王陛下の魔法により、戦況は明らかに優勢。

 エミリア様が戻り次第、わたくしとエミリア様とベルフラウ様の三人とカエデ様の力をお借りして、魔軍将ロドクと戦いを繰り広げているレイ様の元へ一刻も早く救援に向かうべきでしょう。


 ですが、わたくしは何か予感を感じるのです。

 今、この場を離れると取り返しの付かないことが起きるような……。


「二人とも!!」

 背後から声が掛かり、私達二人は振り返ります。そこには、腕や足に包帯が巻かれて若干衣装が黒焦げたエミリア様が、こちらに走って参りました。


「エミリア様」

「エミリアちゃん、平気なの?」

 わたくしとベルフラウ様が彼女を気遣うと、多少息切れを起こしながらも頷く。


「え、えぇ……治療はしてもらいましたし問題はありません。それよりも……」

 エミリア様は視線を動かし、カレン様とサクラ様が戦っているアカメに注目する。


「居た……。よくもやってくれましたね!!」

 エミリア様は彼女の方を見て憤り、アカメに向けて魔法を放つ。


「これはさっきのお返しです!<上級獄炎魔法>インフェルノ!」

 エミリア様の放った炎の魔法は、戦っている二人を飛び越えてその先にいるアカメに向かっていく。


「!?」

 しかし、アカメの方は彼女の魔法に遅れて反応する。

 だが、回避に間に合わず彼女は険しい顔をして炎の波に呑まれてしまう。


「やった!!」

 エミリア様は仕留めたと思い、ガッツポーズをする。


「エミリア様……不意打ちはどうかと思うのですが……」

「良いじゃないですか。私達は敵に遠慮出来るほど余裕は無いのですから」


 私と比べると、エミリア様は結構過激な事をされる。

 思い切りが良いというか、即断即決の精神なのでしょうね。


 …が、炎に呑まれたと思ったアカメの周囲の炎が、前触れも無しに唐突にかき消される。そして、アカメはまるで何事も無かったかのようにその場に立っていた。


「……無駄」

 アカメは、こちらを無表情で見つめている。


「また、無効化されてしまいました……」

 と、エミリア様は軽く顔を青くして仰いました。


「またってどういうこと?」

 エミリア様の言葉に、ベルフラウ様が質問をする。


「……最初に魔法を使った時も無効化されたんですよ。威力が低い魔法だったので効かなかったのかなと思ったんですが、……どうやら違うようですね」


 エミリア様が最初に使ったものと違い今回は上級魔法。

 だけど、それでも効かなかった。


「(これは、何かありますね……)」

 魔力相殺ネガティブマジックや物理的な攻撃で弾いたのなら、彼女自身も多少ダメージを負うはず。だけど、彼女はまるで睨んだだけで魔法を無効化したような……?


「……次は、こっちの番」

 そう言って、彼女は両手を広げる。

 周囲に黒い球体が現れ、前衛のカレン様達と後衛の私達に向けて放たれる。

 カレン様は後ろの私達に向けて大声で叫ぶ。


「爆発魔法よ!! 全員防御を!!」

 カレン様は、同時に自身に魔法の障壁を展開して爆発魔法を防御する。


「エミリア様!!」

「任せてくださいっ!!」

 エミリア様は杖を前に突き出して魔法を発動させる。


<魔障壁>フォースウォール!」

 エミリア様の前に魔力で形勢された紫透明色の壁を展開。

 直後、爆音と共に爆風が吹き荒れる。


「ぐぅ……!」

 エミリア様は更に魔力を流し、壁を生成し続けてその攻撃を防ぎきる。


「レベッカ、反撃を!!」

 エミリア様の指示で、わたくしは<限定転移>で弓と矢を取り出し、

 矢を引き絞ってアカメ目掛けて放つ。


 放たれた矢は、アカメ目掛けて超高速で迫っていき―――


「くっ!!」

 アカメは、手に持っていた短剣で矢を弾く。


「……?」

 さっきと違って、今度は普通に防御を……。


 一瞬、彼女の行動に疑問を感じたが、構わず更に連続で矢を撃ち続ける。そして、アカメが私の矢を飛行しながら躱したところで、ベルフラウ様が彼女に魔法を放つ。


「食らいなさい<女神の閃光>ベルフレア!!」

 ベルフラウ様は両手から光を放ってアカメに光の極太レーザーを放つ。

 すると、アカメはその魔法を睨み付け、

 エミリア様と同じく、その魔法をかき消してしまう。


「つっ……!!」

 魔法を無力化されたベルフラウ様は顔を顰める。しかし、彼女の魔法は完全にかき消されておらず、更に光のレーザーを放ち続ける。


「なっ!!」

 アカメは驚愕し、今度は防御が間に合わずレーザーを浴びてしまう。

 そして光に呑まれてダメージを受けながらも、彼女は身体を焼かれながらどうにか抵抗し、レーザーから抜け出す。


 更にその魔法を睨みつけると、またレーザーの一部が無効化される。一瞬レーザーが途切れた瞬間に、アカメは翼を広げてベルフラウ様の方へ向かってくる。


「ベルフラウ様、エミリア様、後ろへ!!」

 私は咄嗟に二人に指示を出し、<限定転移>で槍を召喚する。


「はぁあああっ!!」

 アカメがこちらに急接近し、攻撃に転じようとするタイミングに合わせて、わたくしは疾走し彼女に向かってジャンプをする。そのまま彼女に向けて槍を突き出す。


「く―――!!」

 アカメは、突然飛び出してきた私に驚くが、すぐに冷静になって短剣で私の槍を受け止める。


 ―――ガキンッ!!!


 およそ上空15メートル程度の高さで、お互いの槍と短剣が激しくぶつかり合う。しかし、ここまでの激戦、特に私の槍やカレン様の聖剣を何度も受け止めていたことで強度が落ちてしまい、アカメの武器である短剣が一方的に砕け散る。


「剣が――!」

 アカメは、空中で器用に体を捻らせて、私の槍の射程から逃げようとするが、


「隙あり!!」

「!?」

 私は彼女の装備の一部に槍の穂先を引っ掛けて、

 彼女の動きを封じ引き寄せ、そのまま槍を思いっきり振り下ろす。

 アカメは、その一連の動きに抵抗できずに、地面に叩きつけられる。


「うああっ!!!!」

 そして、地面に衝突した衝撃で彼女は吐血する。

 彼女は大きなダメージを受けて、即座に立つことが出来なさそうだ。


「カレン様、サクラ様、お願いします!!」

「オッケー、任せて!!」

「トドメ、いっきますよー!!」


 私の指示を受けて、二人は地上に落ちたアカメにトドメを刺そうと向かっていく。


「くっ……こうなれば……!!」

 アカメは最後の足掻きとばかりに、倒れた自分の真上に魔法陣を展開する。


「無駄よ、魔法なんて―――!!」

 カレン様は、それでも勢いを止めずに、倒れた彼女に向かって聖剣を振り上げ―――


 ―――その瞬間、私は嫌な予感がした。


 その予感を信じて、私は叫ぶ!!


「ダメです、下がって!!!!」

 私が叫んだ直後、魔法陣から巨大な黒い腕が現れて、カレン様を掴む。


「え?」

 カレン様は、一瞬何が起こったか理解できずに、自身を掴む黒い腕に視線を移す。すると、アカメが展開した魔法陣の中から、何者かが這い出てくる。


 その魔法陣の間に、空間が割れたような亀裂が入っており、腕もその亀裂から飛び出してきたようだ。そして、カレン様を掴んだまま、その本体が姿を現す。

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