第395話 国王陛下のお言葉

【視点:レベッカ】

 赤目の魔軍将との一騎討ちに制した私は、彼女に降伏を求めた。

 だけど、彼女は余力を残していて、罠に掛かってしまう。


 そして、彼女にトドメを刺されると思った瞬間、救援が入った。


「―――そんなこと、させるわけないでしょ!!!」

「!?」

 突如、私の後方から声と共に誰かがアカメに向かって飛び掛かる。


 その人物は、美しい青髪と光り輝く聖剣を武器にする女騎士、カレン様でした。


「カレン様っ!!」

 彼女は私とアカメの間に割って入り、私を庇うように彼女の短剣を受け止める。


「良かった……無事みたいね。大丈夫だった、レベッカちゃん?」

 カレン様は、アカメとつばぜり合いになりながら横目でこちらを見て、こちらの安否を確認する。


「も、申し訳ありません……助かりました」

「ううん、良いの。それより今は下がって! こいつは私が抑えるから!!」


 カレン様は、聖剣に魔力を込めてその光を強める。

 込められた光は物理的破壊力を以って、アカメを大きく吹き飛ばす。


「先輩、私も手伝います!」

「おっけー! じゃあ、サクラと私であいつを戦線まで追い出すわよ!」

「了解です!!」

 カレン様とサクラ様は二人で吹き飛ばしたアカメに向かっていく。


「レベッカちゃん、平気?」

 私が後方に下がると優し気な声を掛けてくれる女性、

 ベルフラウ様がおりました。


「ベルフラウ様……」

「待ってて、今、回復するから……」

 彼女は、そう言いながら私の肩に手を当てて温かな光で包み込む。みるみるわたくしの傷が癒されていき、その疲労感も僅かずつ回復していった。


 わたくしがベルフラウ様に治療を受けていると、

 後ろから聞き覚えのある声が掛かる。


「ふむ、サクラ君が取り逃した魔物はキミと戦っていたのだな」

 後ろを振り返ると、マントを羽織り体格にはやや不釣り合いな剣を持った国王陛下の姿があった。


「こ、国王様……? どうしてこちらにっ!?」

 わたくしは、慌ててその場で膝をついて頭を垂れる。


 しかし、彼は言った。

「ああ、気にしなくていい。

 というより、私はあまり固い対応が好きでは無いんだ。元の生まれはそこまで良いものではないからね。国王様ではなく、『陛下』と呼んでくれ。そちらの方が慣れている」


「は、はい……。陛下、申し訳ありません……」

「ふむ? キミが謝るような事があったか?」

「今しがた、カレン様に命を救われたことでございます。

 あの赤眼の少女に、あと一歩のところで、罠に嵌められてしまいました」


 私が少し落ち込んだ声でそう謝罪すると、

 国王陛下は意外そうな顔をして言った。


「あの魔物の少女をキミ単独で、そこまで追い込んだのかい?」

「……はい。ですが、負けてしまいました」

「……ほう」

「?」


 陛下が感心した表情で私を見ていると、後ろから声が掛かる。

 その方は、髪も目の色も衣装も緑色に統一した緑魔道士のウィンド様でした。


「陛下、今はそれどころではありません」

「……と、そうだったな」

 陛下は咳払いをして、前に出て剣を抜いて空に掲げる。


「―――聖剣、開放、<疑似・勇壮なる英雄の詩>」

 陛下が魔法のワードを口にすると、手に持った剣を振り下ろす。

 剣の軌跡を追うように光が広がっていき、それが戦場全体に広がっていく。

 そして、光が収まると、魔物と戦っていた騎士や戦士たちに変化が起こる。


「……なんだか、力が湧いてきたぞ」

「すげぇ……さっきまで戦っていて全然勝てる気がしなかったのに……」

「何だか、いけそうだ!やってやる!!」

「け、怪我の痛みが消えた……なんだこれは……!?」

「おお、すごい!! これなら行ける!! 行くぞぉー!!!」


 先ほどまで苦戦が嘘のように、皆が活気づいていく。

 対峙している魔物達はその様子に唖然としている。


「こ、これは一体……」

 陛下が見たことないような魔法を発動させると、戦っている仲間達は見る見るうちに元気を取り戻していく。それはわたくしも同様で、さっきまで感じていた疲れが殆ど消えていました。


「国王様、……いえ、国王陛下。今のは一体……」


「ふむ、今の私が使える数少ない魔法だと言っておこう。効果は見てのとおり、戦場の仲間全てに活力を与えるというものだ。多少の疲労も怪我も無かったことにして、力を分け与えるという代物だよ」


「そ、そんな凄いものが……」


「凄いわ……カレンさんが見せてくれた結界よりも更に上位の結界魔法……。それに、陛下も聖剣を所持していたんですね」

 ベルフラウ様の言葉に、陛下は涼し気な表情で頷く。


「一度使うと暫く使えなくなるという欠点もあるが、この魔法を使用することでただの民間人であってもそこそこ戦える程度には身体能力と魔力が底上げされる。まぁ便利な能力ではあるよ」


「味方の強化まで……強化魔法よりも凄まじい効果でございますね」


「とはいえ、そんな状況は無いに越したことはない。

 消耗も大きいし今の私単独で使えないのだから奥の手のようなものさ」

 陛下は私の感想に、苦笑いしながら答えてくれた。


「しかし、この魔法の真価はここからだ」

 陛下は、そこで一度言葉を区切り、深呼吸を数度行う。


 そして、陛下は聖剣を通じて言葉を伝える。


『戦場を駆ける勇者達よ、我が声を聞き届けよ。

 我はグラン・ウェルナード・ファストゲート、この王都の守護者である!』


 陛下の声が、聖剣の魔力を通じて戦士たちの頭に直接響く。


『聞け! 勇敢なる者達よ!

 キミ達が今対峙している相手は、我らが倒すべき魔王軍の精鋭たちだ。

 だが、恐れることはない!キミ達が冒険者として、戦士として、魔法使いとして、兵士として、それぞれが別の場所で名を馳せて、この地に集った一騎当千の英雄たちだと私は知っている!!』


 突如聴こえてきた国王陛下の声によって、

 戦士たちは不思議な活力を得て更に力が沸き上がってくる。


『私は宣言する。諸君らを誰一人欠けることなく生還させることを!!

 だから、私にキミ達の力を貸してほしい。王と配下ではなく、共に戦場で肩を並べて戦う戦友として―――!』


 その陛下の言葉は、全ての戦士たちに届いていた。

 戦場を包み込む空気が変わった。


「そうだ、俺たちは強い!!」

「負けるはずがない!!」

「ここで負けたら、故郷の家族たちに顔向けできない!!」

「俺には守るべき人がいるんだ!」

「絶対に生きて帰るんだ!」

「やってやる!やってやるぞ!!」


 そして、戦士たちは雄たけびを上げる。


「うぉぉぉぉぉ!!!」

「かかってこいやぁ!!」

「俺はお前らになんか絶対屈しない!!」

「テメェらなんて怖くねぇ!! ぶっ殺してやる!!」

「みんな、あいつらの好き勝手にさせるんじゃねぇぞ!!」

「暑苦しい奴多いな……」

「皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 国王陛下の言葉で、彼らは高揚感を最大限に高め、

 中には狂戦士のような勢いで戦場の魔物達を無双し始める猛者も現れるが、

 恐怖の感情が失ったかのように嬉々として戦場を駆ける。

 

「おお、なんという益荒男ますらお達の戦いぶり……」

「陛下の言葉が文字通り、心に響いたみたいね……」


 今まで、団長二人の指示でどうにか連携を取っていた彼らだけど、陛下の演説以降、まるで心を一つにしたかのように何も言わずとも、お互いのフォローを行い魔物たちを圧倒し始める。


 中には、孤軍奮闘こぐんふんとうを見せる戦士の姿もあり、皆が英雄とも言えるような凄まじい強さだった。


 陛下は、演説を終えて一仕事終えたかのように汗を拭う。


「ふぅ……こんな感じでどうかな、ウィンド君」


「素晴らしいお言葉でした、陛下。

 これできっと魔王軍の猛攻にも難なく耐えられるでしょう。

 後は、彼らの仕事です」


「……もう少し、私も前衛で戦いたかったのだが」


「陛下、あまり無理なさらないでください」


「ああ、分かってる……後は、彼らに任せよう。

 私は基地に向かうとしよう。怪我人も居るだろうし手が足りないだろうからな。

 それでは、あの少女の相手はキミ達に任せるとする。健闘を祈る」


 陛下はそのまま前線基地へと向かっていった。


「それでは私も行かせていただきますね」


「えっ? ウィンドさんは手伝ってくれないんですか?」


「私は陛下の護衛が最重要任務ですからね。

 彼女らカレン達がいれば大丈夫だと思いますが、お気を付けて……」


 そう言って、ウィンド様も国王陛下の後を追って去っていきました。

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