第391話 年齢の話はNG

【視点:カレン】

「へ、陛下が元勇者ぁ!?」

 陛下の説明を受けたベルフラウさんが普段の綺麗な表情を崩して驚いていた。


「ははは、まぁ驚かれるのも無理はないな」

 陛下は、彼女の驚きに爽やかに笑ってこたえる。


「で、でも、陛下……その姿は……」

 彼女は陛下の姿をまじまじと見る。

 失礼な態度だと思うのだけど、陛下は特に気にした様子はない。


 陛下は、今は少年の姿、大体10歳程度の少年とほぼ差がない身長と顔立ちをしている。私だって、初めて陛下とお会いした時、可愛らしい男の子と思ったくらいだ。


「この姿に関しては、一応今の私の姿で間違いはない。あくまで『元勇者』であって、今期の勇者では無いからな。実際の外見よりは歳が上というだけの話さ」


「そ、そうでしたか……失礼いたしました」

 ベルフラウさんは、陛下の言葉に笑顔で頷き、そのまま会釈して後ろに下がるとサクラの近くまで寄り掛かり、コソコソと話し始める。


「(さ、サクラちゃん、陛下の実年齢っていくつなの?)」

「(え? えっと……言っていいのかな?)」

 コソコソ話してるけど、私の方まで声が届いているのだけど……。

 多分、陛下にも聴こえちゃってるわよね?


 陛下にもやっぱり聴こえていたようで、気にした様子もない。

 そして、陛下は穏やかに笑いながら語る。


「私の年齢か? まぁ、ウィンド君の軽く倍以上は生きているな」


「陛下、私を引き合いに出すのは止めてください。

 それではまるで、暗に私が年取ってると仰っているようではありませんか」


 ウィンドは、眉間にシワを寄せて不機嫌になる。

 こいつの年齢は、私も知らないのよね。一体いくつなのかしら。


「いや、そういう意味じゃないよ。君は私に比べれば十分若い」

 と、陛下は仰った。


 そこまでなら良かったのだが、この後の発言がいけなかった。


「まだ四十も超えてないのだろう?」

 陛下の言葉に、その場が凍り付いた。


 よ、四十……!?

 流石に、その年齢は予想外過ぎた。


「……師匠、四十手前だったんですか……その見た目で……」

「……ご、ゴメン。ウィンド、散々年齢で弄っちゃって……その年齢だと、逆に言い辛いわよね……ごめん」


 思わず謝ってしまった。

 だって彼女、見た目だけなら私と大差無い10代後半くらいの外見なんだもの。年齢不詳だからとっく20超えててもおかしくないと思ってたのに、まさかの倍だったなんて。


「……二人とも、その反応は止めてください。

 というか、陛下……今のは、流石に私でも………」


 ウィンドは、怒りを通り越して落ち込んでいた。

 流石にちょっと可哀想。


「あー、その、すまない」

 流石に陛下も申し訳なさそうにしていた。


「……まぁ、ウィンドの年齢の事は、あとでレイ君達に伝えるとして」

「伝えなくていいです、この場で忘れなさい!」


 ウィンドが杖を構えて脅してきた。

 陛下の時は落ち込んでて、少しだけ同情してあげたのに……。


「冗談よ。……まぁ、そういうこと。陛下は先々代の勇者で、昔、魔王を討伐した経験があったから、魔王の事に詳しかったという事です」


「な、なるほどぉ……ウィンドさんの年齢の方がある意味インパクトあったけど、納得……」

 ベルフラウさんが感心していると、陛下は言った。


「話を戻すが……彼女が魔王であろうがなかろうが、私の命を狙っていたのは事実だ。

 今回の騒動、私は皆に進言され比較的安全と思われる場所に籠っていたが、こうして襲撃に遭ってしまった以上安全とは言えんな」


 陛下は、何故か嬉しそうに言いながら、大穴の空いた壁に向かっていく。


「へ、陛下、どちらに?」

 ウィンドは、年齢で散々弄られた直後でまだ冷静さを取り戻せておらず、

 陛下の行動に慌てて止めに掛かる。


「何、今から私が直接出向いてやろうかと思ってな、はははは」

「ははは、じゃありません!! 陛下、立場を弁えてください!!」


「勇者の力は返納したが、それでも戦える力はある。

 ……それに、立場を弁えろというのであれば、むしろ今の君の方が問題あると思うがね?」


「……ぐ、……し、失礼しました」

 陛下に痛い所を突かれたらしく、ウィンドは黙って後ろに下がる。


「というわけだ。……諸君、戦場に向かうぞ」

「はい、陛下!」


 私達は全員立ち上がり、気合を入れ直す。


「(ねぇ、サクラちゃん)」

「(うん?)」

「(陛下、もしかして結構強いの? 正直、全然見えないんだけど……)」

「(闘技大会に出てたら、間違いなく決勝に残るくらいには)」

「(……)」


 後ろでサクラとベルフラウさんが小声で話している。

 ただ、私には聞こえちゃってるのよね。


「では、行くとするか。……ふふ、久しぶりだ」

 戦場に出れて嬉しそうな表情で張り切って王宮の外を歩く小さな陛下と、

 その様子に苦笑しながら陛下に付き従う私達だった。

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