第390話 めがみさまのちからってすげー!
【視点:レイ】
『彼の名前は、<グラン・ウェルナード・ファストゲート>
姿を変えているが、彼は二世代前の勇者であり、現在の国王でもある』
「……え?」
僕は、その名前を聞いて愕然とした。
「へ、陛下が勇者……?」
『そうだ。どうやら知らなかったようだな』
「そんな、馬鹿な……。
先々代の勇者だとしたらとっく百歳を超えているはずだよ!」
僕の言葉に、目の前の魔軍将ロドクは、平坦な口調で言った。
『ふむ、まぁ何も知らなければそういう反応になるか。彼の年齢は既に百と三十を超えているはず。ただの人間であるなら間違いなく寿命を迎えていただろうな』
「(あ、あの人、100歳過ぎたおじいちゃんだったの!?)」
僕は心の中で驚愕の声を上げる。
「あ……いや、でも確かに……」
グラン陛下は、外見年齢の割に明らかに大人びた雰囲気があった。
それに、闘技大会で陛下は、解説役としても参加してて、様々な武器や魔法の知識を持っていた。
似たような事例で、ウィンドという緑の凄腕魔道士さんが年齢不詳だったため、陛下も「姿を変えてるんじゃないか?」と疑ったこともある。
それでも、まさか先々代の勇者だとは思わなかった……。
「でも、どうみてもあの人は普通の人間だった。
感じるマナ量は確かに多かった気がするけど、それでもカレンさん程じゃなかったし、大体、マナが多くてもそんな長生きするなんて……」
『ふむ……だが、目の前にその例があるぞ?』
「目の前……? あ―――」
僕の目の前の人物。それは魔軍将ロドクの事だ。彼の詳しい経歴はまだ分からないけど、元々人間で今はアンデッドとして百年以上の時を過ごしていると言っていた。
まさか、陛下も――――!?
しかし、ロドクは顎の骨をカタカタと鳴らして笑った。
『カカカ……、まぁ、彼が如何なる手段で生き永らえているかは、我には推測しか出来ぬがな。少なくとも、奴は人間のままのはずだ』
「え? どういう意味――」
『ヒントはこの辺りで終わりだ。
貴様も勇者である以上、ある程度の知識は持っているはず。
そこからは自身で考えてみるのだな』
「自分で……? 勇者……」
つまり、陛下が百年以上の生きているのは勇者だからという事か?
だけど別に勇者は不老不死になるなんて能力は無いし、勇者としての役割を終えたら、その力を女神に返却しないといけないって姉さんが以前に言ってたような……。
「……あ!!」
そこまで思考して、ようやく思い当たることがあった。
『ふふん、でも勇者になって一つだけ良いことがあるのよ?
神にとって不利益な内容で無ければ、願いを一つだけ叶えてくれるのよ。
<世界の危機>を乗り越えることが条件だけどね』
これは、姉さんが以前に言っていたことだ。
「(魔王を倒して勇者としての能力を返却した見返りに、陛下は『不老不死』を叶えてもらったって事!?)」
それなら、陛下が百年以上生きていることの説明が付く。
『貴様が何に思い当たったかは知らんが、おおよそ外れてはいまい。最も、真実は奴にしか分からんがな………』
そう言いながら、奴は手をこちらに向ける。
『貴様の質問は終わりか?
なら、そろそろ続きを始めよう。我はこの後も忙しいからな』
そして、奴の手から黒い
『貴様がこのゴーレムを一体でも撃破したのは称賛に値するが、
本番はここからだ。……ここからは我も加減はせん。さぁ行け、アンティークゴーレム!!』
奴の叫びと共に、アンティークゴーレム達が動き出す。先ほどまでと違い明らかに速度が上昇しており、僕に向かって突っ込んできた。
しかし、奴の動きは速度が上がっただけで他は同じ。
既に情報があれば、多少速度が上がったとしても対応は可能だ。
むしろ、この状況下ならチャンスだ。
「……ふぅ」
チャンスは一度きり。
ここを逃すと、また倒すのに一苦労することになる。
だからこそ落ち着いて気を静める。
目の前のゴーレムがこちらに迫ってくる。
ゴーレムとの距離は残り10メートル。
「
僕は、聖剣に呼び掛けて、聖剣の機能を起動させる。
聖剣は強い光のオーラを纏い、刀身のその強度を更に底上げする。
ゴーレムはこちらの至近距離に入り、その大きな腕を振り上げる。
僕を一撃で叩き潰すつもりだろう。
そして、上段から下段に、僕の頭を叩き潰そうと腕を振り下ろす。
「――っ!!」
即座に腕を上げて、僕の頭と奴の腕の間に聖剣を滑り込ませる。
奴の腕と僕の聖剣がぶつかり合い、激しい衝撃音が発生する。
「ぐ、うおおぉお!!」
何とか踏ん張ろうとするけど、勢いを殺しきれずに押し込まれる。
『愚かな……ゴーレム相手に力づくで対応するつもりか……? そんなことをすれば人間である貴様は……』
と、ロドクは呆れて言った。しかし―――
『な、なに……』
次の瞬間、奴の言葉とは裏腹に、
僕は信じられない程の力で徐々にゴーレムの腕を逆に抑え込む。
「うりゃあああっ!」
『馬鹿な……!』
アンティークゴーレムは僕に力負けしながら、聖剣によって腕がジワジワと切り裂かれ、最終的に切断される。切断された腕は上空数メートルまで吹き飛び、重い音を立ててロドクの目の前に落下した。
『ば、かな……! そんな馬鹿な!?
何故、人間がここまでの力を出せる!? 奴は人間ではないのか!?』
奴が動揺している間に、僕はゴーレムに追撃し連撃を加える。
ゴーレムは僕の剣の勢いと、片方の腕を失ってバランスが悪くなったことで地面に転倒する。そのままゴーレムの胸の辺りを剣で貫き、機能停止させた。
これでもう大丈夫だろう。
僕は酷使した腕を回復魔法で癒しながら奴の質問に答える。
「疲れた……。ボクは正真正銘、ただの人間だよ。だけど……」
『――?』
「その、腕の断面をちゃんと見れば分かるよ」
『腕……? ……これは……』
ロドクは切断された腕を覗きこむ。
すると、切断部の断面が熱で溶解していた。
『この断面は……まさか、さっきと同じか。貴様、また剣に炎を滾らせて、強引にこやつの腕を熱で溶かしたというのか!?』
「正解……さっきあっさり倒せたから、熱が弱点じゃないかと思ってさ」
そう言いながら、僕は奴に聖剣を見せる。
聖剣は炎の魔力によって、その刀身の深紅の色に染めていた。
あのゴーレムの防御を貫通出来たのはこれが理由だ。そして、聖剣の機能を利用して一時的に力だけを最大まで底上げしたことでどうにか押し返せた。
かわりに筋肉が断裂しかかってて今、回復魔法を使って癒してる。
見た目は平静を装ってるけど死ぬほど痛い。
『……なるほどな。貴様は先ほどの攻撃を見て動きを見切り、それを利用したというわけか』
奴は納得いったかのように頷き、飛行魔法を解除し地上に降りた。
僕はその奴の行動を
「……得意の召喚魔法や死霊術は使わないのか?」
自分から攻撃しやすい位置に降りてきたのだ。普段の奴なら距離を取って別の魔物を呼び出す所なのだが、自分から近づいてくるとなると逆に警戒してしまう。
『それも良いが、今の貴様相手だと、並の魔物では手も足も出まい。
何より、雑魚の相手をさせている間に、貴様の仲間が救援に駆けつけてくる可能性がある。貴様もそれが狙いだろう?』
「(………普通にバレてる)」
以前、アンデッドドラゴンを操作していた時、
こいつは自身に負担が掛かって能力が低下し全力を出し切れずにいた。
今回のゴーレムの召喚を止めなかったのは、本気のこいつと戦うより召喚した魔物に能力を割いてる状態の方がいくらか時間を稼げると判断したためだ。
『アンデッドドラゴンがまだ生きておれば良かったのだが……どうやら、既に貴様に屠られたようだからな。こうなれば、直接我が貴様を倒すしかあるまい』
奴は、僕の聖剣を見ながら言った。
「(この剣の正体、気付いていたのか……)」
この剣は、奴の言うアンデッドドラゴンの身体の中から出てきた物だ。
だからこそ、僕がドラゴンを倒したと確信しているのだろう。
しかし、何故こいつは聖剣の存在を知っていたのだろう?
『……さぁ、ここからは今までとは違う。以前の約束通り、我が全力で相手をしてやろう』
「……く」
こうなったら、こっちもやれるだけやるしかないか……。
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