第389話 謎の少女

【視点:カレン】

 カレンとサクラとベルフラウは王宮から聞こえた轟音を耳にして、慌てて王宮に飛行魔法を使用して飛んできた。

 向かったのは、王宮内の礼拝堂にあった隠し扉だ。

 そこに陛下に陛下は護衛と一緒に隠れている。ちなみに、玉座にも『陛下』と同じ姿の存在がいるが、こちらは自動人形。万が一の時の囮だ。


「陛下、無事ですかっ!」

「へいかー!」

「助けにきましたっ!!」


 するとそこには―――


 隠し部屋に辿り着くと、そこは壁に大穴が開いており、部屋の中は滅茶苦茶に荒らされていて、その中央には黒いローブの小柄な人物が立っていた。

 奥には剣を構えた陛下と、その横に緑の魔道士のウィンドが杖を構えて、二人で黒いローブの人物と対峙している。


「良かった、陛下は無事のようね……」

「でも、あの人は……?」


 陛下の無事に安堵した私とサクラ。

 次に、こちらに背中を向けて陛下達と対峙する人物に視線を向ける。


 ベルフラウさんは言った。

「どうやら、あの人が侵入者のようね」

「そのようね」

 侵入者は魔物だと思ったのだけど小柄な人間の姿をしていた。

 しかし、侵入者はフードを被っており顔を見ることが出来ない。


 フードを被った侵入者はこちらをチラリと見る。この位置からでは、それでも顔を見ることが出来なかったが、真っ赤な瞳と僅かにフードの上の部分が膨らんでいることに気付いた。


「ふっ!!」

 フードの人物がこちらに気を取られた瞬間、剣を構えたグラン陛下は侵入者に斬り掛かり、侵入者は自身の短剣でなんとか防ぐ。

 更に背後に控えていたウィンドは侵入者に対して氷の槍アイスランスを発動させる。対して、侵入者は陛下と剣で打ち合った状態で、同種の魔法を発動させウィンドの魔法を相殺する。


「陛下、今お助けしますっ!!」

 私は鞘から剣を抜いて、陛下と打ち合っている侵入者に背後から斬り掛かる。


「―――っ」

 侵入者は私の接近に気付いたのか、

 その場で横に跳んで私の攻撃をギリギリで回避する。


 しかし、侵入者は強引に攻撃を躱したため、

 態勢を崩し、その場に転がる。その拍子に侵入者のフードが外れた。

 そして侵入者の素顔が明らかになった。


「……!?」

「え?」


 その侵入者は、灰色の髪と真っ赤な瞳の色をした少女だった。

 しかし、普通の人間と一か所違う部分がある。


 それは―――


「……ツノ?」

 ベルフラウさんはポツリと声を漏らした。

 侵入者の少女は、頭から二本の小さな角が生えていた。


 こちらが彼女の容姿に気を取られていると―――


「―――ここが潮時、私単独では勝てない」

 と、彼女は小さく言った。

 そして、彼女の手からスパークを纏った黒い球体の魔法を生み出す。


「あ、あれは……!」

「爆発魔法!?」

 それを見たサクラが驚きの声を上げる。

 私とウィンドは即座に魔法のバリアを展開して周囲に張る。


 しかし、予想に反して彼女は爆発魔法を上に向けて放ち、天井に爆発魔法が着弾し、そこから大爆発を引き起こし、上から崩れた瓦礫が落ちてくる。


「きゃあっ!」

「うわぁああっ!!」

「くぅ……ッ」


 私達は、落下してくる瓦礫を必死に避けた。陛下の傍にいたウィンドは陛下を傍に引き寄せて、自身と陛下の周囲に盾を展開して瓦礫から身を守る。


 そして、大穴から外に逃げていく小さな影を確認した。


「待ちなさい……!」

 私が叫ぶと、彼女はこちらを振り返り―――


「―――今回は失敗、次は仕留める」

 と言い残して、彼女は大穴からその身を投げた。そして、彼女の着ていた黒いローブがビリビリと破れ彼女の背中から悪魔のような翼が姿を現し、そのまま空に飛び去ってしまった。


「追いますっ!!」

 サクラは、飛翔の魔法で宙に浮かび彼女の向かった方向に飛んでいく。


「サクラ、無茶です!!」

 ウィンドは止めようとするが、

 間に合わずサクラはそのまま空に飛び立ってしまった。


 だけど、魔法で空を飛んでいるサクラとは自前の翼で飛行する侵入者には飛行速度で及ばず、侵入者の姿を見失ってしまう。それから数分後、サクラは落ち込んだ表情で戻ってきた。


「す、すみません、陛下……姿を見失ってしまいました」

 サクラは申し訳なさそうに言った。全力で飛んだようだがそれでも追いつけなかったのか、サクラは息を切らしていた。


「あの速度では仕方ない、君が謝ることじゃないさ」

 陛下は彼女を責めるような事はせず声を掛け、自身の剣を鞘に納める。


「陛下、お怪我はありませんか?」

「問題無い……。しかし、彼女は何者だ。魔王軍の手の者だとは思うが……」


 陛下は、彼女が消えていった方向を見ながら呟いた。


「それにしても、あのツノは何だったのかしら?

 見た目は人間そっくりだったけど……作り物にも見えなかったし」


「ふむ……」

 陛下は、顎に手をやり思案を始める。


「私も長く生きているがあのような魔物は見たことないな。悪魔のような翼も生えていたようだし、人間ということはあるまい」


「……陛下が分からないのであれば、私も見当が付きませんね」

 陛下の言葉に、ウィンドはため息を吐きながら言った。


「……」

 私は、侵入者が消えた方角を見る。


「あのシルエット、何処かで見たような……?」

 少なくとも、私は初対面だ。

 だけどここ数日間の間に、彼女のような背丈の人物を遠目で見た記憶がある。


「先輩、もしかして闘技大会の参加者なんじゃ?」

「―――あ」


 サクラの言葉に、私も気付いた。

 そうだ。あの背丈と黒いフード付きのローブには覚えがある。


 闘技大会の予選では沢山の人が集まっていたから特に印象は残らなかったけど、私とサクラは実況席から彼女の姿を遠目で確認していたはずだ。


 その事を私は陛下に伝える。


「……ふむ、ということは、

 あの闘技大会にいつの間にか紛れ込んでいたということか」


「おそらくですが……」

 確証はまだない。だけど、今回の大会に彼女が紛れ込んでいたのなら説明が付く。同時にそれは彼女が魔王軍の手の者である確率が極めて高いことになる。


「あの異質な姿……まさか彼女が今期の魔王なのでは?」


 ウィンドは、侵入者の事を思い出して言った。

 確かに、彼女から感じた禍々しい魔力は普通ではなかった。


 その言葉を聞いたサクラが――


「えぇ!? そんな馬鹿な! だって、まだ若い女の子だったんですよっ!」

 と、驚いた声を上げた。


「……いや、おそらく違うだろう」

 しかし、陛下はウィンドの見解をを否定する。


「……陛下、それは何故ですか」


「確かに、彼女から感じる魔力は相当なものだったが……。先程の少女が放つ雰囲気は、魔王ほどの圧力プレッシャーを感じなかった。人間では無いのだろうが、彼女が魔王である可能性は低い」

 陛下は腕を組みながら答えた。


「なるほど……陛下が言うのであれば……」

 私達は陛下の言葉に納得する。

 しかし、ベルフラウさんだけは陛下の言葉に疑問を感じていたようだ。


「あの陛下……失礼ですけど……」

「……ん? どうした、ベルフラウ殿。

 気になることがあるなら言ってくれ。情報は少しでも欲しい」

 陛下は柔らかい口調に変えて、ベルフラウさんの言葉を促す。


「えっと……そういうわけじゃないんですが……。

 どうして、グラン陛下は、そんなに魔王の事に詳しいんですか?

 今期の魔王はともかくとして、ここ数十年魔王は出現したことが無いはずなんですけど」


 しまった。

 ベルフラウさんに陛下の事をしっかり伝えていなかった。

 というか、レイ君にも言ってなかった。これは失態だわ。


「あ、あのね、ベルフラウさん。陛下は――」

 私は慌てて伝えようとするが、陛下に手で制される。


「構わない。私もしっかり自己紹介してなかったからな。

 簡単だよ、ベルフラウ殿……私は――――」


 ◆


【視点:レイ】

『彼の名前は、<グラン・ウェルナード・ファストゲート>

 姿を変えているが、彼は二世代前の勇者であり、現在の国王でもある』


「……え?」

 僕は、その名前を聞いて愕然とした。

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