第388話 年齢インフレ
【視点:レイ】
仲間がそれぞれの場所で奮闘している頃、
勇者レイと魔軍将ロドクの戦いは更に激化していた。
「たああああっ!!」
僕はロドクが召喚したアンティークゴーレム目掛けて剣を振り下ろす。しかし、攻撃はゴーレムの腕で受け止められてしまい、ガキンと音を立てて弾かれる。
「まだまだっ!」
攻撃は終わらずゴーレムがこちらに殴りかかってきた所で背後に潜り込んで、今度は頭と胴体の付け根の部分を狙う。しかし、先ほどと同様に、あまりの硬さで攻撃が通らない。
「!」
そこに、もう一体のゴーレムの攻撃が繰り出される。ゴーレムの胸部が開き、内部には直径30センチほどのレンズが内臓されており、そこから僕に向けて熱線が放射される。
「っと、危ない」
熱線の速度は時速100キロ程度。
見て躱せる速度ではあるが、熱線を受けた瓦礫は熱で溶解していた。
まともに食らえば鎧を着込んでても危なそうだ。
二体同時は危険と考えてゴーレムたちと距離を取る。しかし、この二体よりも厄介な存在がいる。その厄介な存在の声が不意に僕に降りかかる。
『そやつらばかり気にしていてよいのか?』
ゴーレムたちの背後に居たロドクが飛翔の魔法で空に飛びあがり、こちらに向けて黒い魔力弾を数発飛ばしてくる。その攻撃を走りながら回避し、回避が間に合わない攻撃は聖剣で弾く。
『ほう、躱しおったか。三体同時相手というのになかなかのものだ』
「……それはどうも」
僕はロドクの言葉に軽く返事をするが、内心焦っていた。
「(このままじゃジリ貧だね……)」
僕はゴーレム二体と、空に飛翔するロドクの姿を視界に捉えながら考える。
「(アンティークゴーレムは魔物と判定されてないみたいだ。聖剣の対魔物特効能力が機能していない)」
何者かに作られたと言っていた。それが魔物かどうかは不明だけど、さっきの熱線の攻撃を見るに、以前に古代の遺跡で戦ったことのあるゴーレムの亜種のようなものだろう。
動きはそこまで早くないけど、純粋に固くて攻撃力はかなり高い。
「(さて、どうしようか……)」
僕の使用する聖剣『蒼い星』は、魔物に対しての特効能力以外に、
能力の一時的な強化や聖剣の機能を開放することで攻撃や防御に転化して使うことも可能だ。
それらを活用すれば、ゴーレムの方は破壊するのは不可能じゃないだろう。
しかし、問題は魔軍将ロドクの方。こちらは聖剣の特効能力は機能するが、飛翔の魔法を使用しているのが厄介だ。そのままでは攻撃は届かない。
だからといって、魔法攻撃を使うとなるとさっきのように魔法同士の撃ち合いになり、ゴーレム達を相手にする余裕が無くなる。
「(多分、
この状況下ではロドクに攻撃を加えるのも難しい。先にゴーレム二体を優先的に倒すしか突破口は無さそうだ。
「蒼い星、少し力を貸して」
『ん……分かった』
僕が剣に語り掛けると、蒼い星は応える。
聖剣の能力を一部開放し、剣自身の火力に乗せるという形で使用する。
更に、僕自身もマナを魔力に転換し、魔法を発動する。
「炎よ、剣に―――」
『……準備が終わったか、ならばこちらも行くぞ』
「(準備が出来るまで待っててくれたのか……)」
魔物なのにやたら律儀な奴だと思いつつ、剣を構える。
『行け、アンティークゴーレム』
ロドクの指示で二体のゴーレムの胸部が開き、そこから熱線が連続で放射される。僕は構わず突っ込み聖剣で攻撃を受ける。熱線を受けた聖剣は、溶解するようなこともなく一切ダメージを受けない。
『む……?』
こちらがノーダメージなのを見てロドクが僅かに驚く。今の攻撃が効かなかったのは、さっきの炎魔法を付与させていたことで熱耐性を得ていたからだ。
『熱線が効かないとは……ならば、次の攻撃だ』
今度は、ゴーレム二体の腕の部分が折り曲がり、そこから直径五センチほどの口径が複数搭載されてるシリンダーが露出する。
そして、それが回転し始めると銃弾のようなものが飛んできて、一秒で五発程度連発される。
「(ギミックの多いゴーレムだなっ!!)」
最初の数発は聖剣で防御し、
その後は初速の技能を使用し速度を上げて回避に徹する。
そして、そのままゴーレム二体の真横に移動し―――
「いっけええええ!!!」
剣に込められた炎の魔力を一気に解放する。
解放された魔力は物理攻撃と炎の魔法攻撃両方の性質を併せ持つ斬撃に変化し、ゴーレムの固い身体を用意に切り裂き、一体のゴーレムの胴体は両断された。
『ぬうぅ!?』
ロドクは一撃で倒したその威力に驚いた声を上げるが、すぐに空中に退避してこちらに向かって攻撃魔法を放つ。
『ならば、爆発の魔法を受けるがいい!』
ロドクは杖から、スパークを纏う魔法弾を発射した。それは僕の方へと真っ直ぐ飛来し、僕はその攻撃に当たらないように上手く回避を行う。
しかし、周囲の瓦礫に着弾したその魔法は、その場で爆発を引き起こし飛んできた瓦礫の破片が僕の顔や体に切り傷を負わせた。
「つっ!!」
今、装備している防具は、銃の一撃を防ぎきるほどの物理防御耐性を持っているのだが、直撃しなくても、防御耐性を貫通するほどの威力があるようだ。
『今だ、ゴーレム!』
ロドクは威圧する様に、もう一体のゴーレムに命令する。すると、突然、今までの遅い動きが嘘のように、こちらに走ってきて、その太くて重いアームをこちらに振り上げる。
「くそっ!」
僕は咄嵯にその場から離れようとするが、
ゴーレムの速さは予想以上で、間に合わない。
「ぐあっ!!」
僕は強烈な打撃を背中に受け、地面に叩きつけられる。
そのまま地面に転がりながら、距離を取り、風魔法を自身に付与させて身体を自動で立ち上がらせる。同時に、背中に
二つの魔法を同時に展開したため、
回復速度はやや遅いが背中の痛みは徐々に引いていく。
再び剣を構えて、相手の動きを伺う。
『器用なものよ……随分と魔法の扱いが上手くなったものだ……』
止めを刺しきれなかったのが気に入らなかったのか奴は不機嫌そうに言った。
「………はぁ……はぁ……」
対して、こちらは返事をする余裕もない。
ゴーレムの一体は倒せたものの残り一体はノーダメージ。
こちらはダメージを負ってしまった。しかも、同時に聖剣と魔法剣を使用し、回復魔法まで使用したこちらのMPの消耗は今後を考えると辛いものがある。
エミリアにこれ以上負担を掛けるのも心苦しい。
彼女も今必死で戦ってるはずだ。
「はぁ……やっぱ単独じゃ厳しかったか……」
今更だが、単独で奴の相手をするのは無謀でしかなかった。だからといって、レベッカにこの役割をさせるわけにもいかなかったのだが、せめて作戦を練る時間が欲しかった。
『今更遅いわ。……しかし、短期間でここまで力を伸ばすとは、いつの時代でも勇者は恐ろしいものよ。敵に回してからその事実に気付くとは、我も老いたものだ』
ロドクは感慨深げに言うが、
アンデッドである奴に戦闘の疲れなどあるようには見えない。
こちらが一方的に消耗してるように感じられる。
「……そんな事言ってるけど、アンタに疲れなんてないんだろ?」
『アンデッドたる我には、人間のような疲労感などない……が、それでも無尽蔵とは言えぬ。貴様に比べれば膨大といっても魔力は有限だ。外で動かしているアンデッドにも魔力を割く必要がある』
どうやら、あちらも見た目ほど優位な状況ではないらしい。
「……なら僕がアンタに挑んだ意味もあったんだね」
『……そちらの立場であれば、結果的に最善に近い行動だったやもしれぬ。
こちら側の立場からすると、貴様を殺したとしても、もう一人勇者がいる。それに王都を落とさなければ、我らの敗北と同義だ。故に、貴様が想像するほど楽観できる立場ではないわ』
ロドクは声のトーンを落として言った。
あちらはやらないといけないことが山積みらしい。それを考えるなら、こいつを撃破すれば全て丸く収まるこちら側はある意味、楽と言えるかもしれない。
「(……でも、こっちの体力の消耗が大きい)」
このまま動き回るといずれこっちが先に根を上げてしまうだろう。すぐに動くのは辛い、今は会話を繋げて少しでも時間稼ぎをした方が良さそうだ。
何を言うべきか考える。
そして、ふと疑問に思ったことがあった。
「(そういえば、こいつ……さっき……)」
――いつの時代でも勇者は恐ろしいものよ。
――敵に回してからその事実に気付くとは、我も老いたものだ。
百年以上生きたと言っていたけど、勇者と戦ったのは今回が初めてということだろうか? その割に、『いつの時代でも』という言葉を発している。
つまり、昔は勇者の知り合いがいたが敵対はしてなかったということ?
以前から考えてたけど、こいつの経歴は謎過ぎる。
大昔は人間だったのに何故アンデッドになったのだろうか。
何故、召喚魔法を学んでいたのか。ゼロタウンに保管されていた書物に人間と混じって召喚魔法の研究を行っていた情報も残されている。
しかし僕達は、似たような魔法を使用する魔物と戦ったことがある。
僕が駆け出しの冒険者だった頃。今から一年以上前の話だ。
その魔物は、今は<ゴブリン召喚士>という名で冒険者ギルドに新種の魔物として登録されているが、この魔物が使用したのは、
この魔法は
そして、当時この魔物はこのような事を言っていた。
『貴様らは我らゴブリン族を舐めすぎだ。15年ほど前に人間の召喚士からその知識と技術を奪ってやっただけのことだ』
奪ってやったというのが要領を得ない発言ではあるが、
今は、目の前の魔軍将ロドクから学んだと解釈するしかないだろう。
奴が、何故そのようなことをしたのか不可解ではあるが……。
「……アンタ、一体何者なんだ?」
『これはおかしなことを聞くものだ。我は、魔王軍、魔軍将の一人よ。それ以外に何がある?』
「色々考えると、アンタだけ異質なんだ。
最初に戦ったクラウンとかいう魔将軍は、魔王の血を引いた悪魔って話だけど、それは封印された悪魔と大差ない。
次に戦ったデウスは、魔王の影や黒の剣を人工的に作り出したとんでもない奴だけど、深い経歴は分からないし端的に言えば狂った人間で説明が付く」
『……そいつらと我の何が違うというのだ』
「召喚魔法の研究に躍起になってた人間というのは分かる。人間の寿命では足りないから、アンデッドの身に変えたというのも……合理的に考えるなら理解できない話でもない。
だけど、他の魔軍将と比べてアンタが魔王軍に入る必要があったようには思えない。召喚魔法を完成させて、それで終わりじゃないのか?」
『……』
「アンタは召喚魔法について、何か知っていることがあるんじゃないのか? 何故、そんな研究をしていたんだ?」
『……召喚魔法とは、時空を超え、次元を超え、異界の門を開く方法だ。
だが、召喚魔法は手段であって目的では無い。その目的に達するために、魔王様の力も必要だった。それだけよ』
「目的……?」
『……そうだ。だが、その理由を貴様に語る必要などない』
言い切られてしまった。
だが、他にも聞きたいことがある。
「じゃあ、もう一つ質問。
……アンタ、過去に僕以外の勇者と知り合いがいたのか?」
『……あれだけの会話でよくそこまで推測出来たものだ。
……正解だ。もっとも、今そいつと顔を合わせても、我だと気付くまい』
「……?」
奴の発言に、また疑問が生まれる。
僕以外の勇者と知り合いだったのは分かった。
だけど、今の回答はおかしかった。
まるで、その勇者は今も生きているような言い方だった。
「アンタ、前言ってなかったか?
僕より前の勇者は、魔王と相打ちになったって。
今の言い方だと生きているように聞こえたぞ」
『その勇者は死んでいる。我が言ってるのはそれよりも前の世代の勇者だ』
「……嘘だろ?」
それが本当なら龍王ドラグニルが生きていた時代の話まで巻き戻ってしまう。それこそ今から百年は昔の話だ。仮にその勇者が長寿だとしても間違いなく百歳を超えていることになる。
魔法があるとはいえ、医療技術がそこまで進んでるわけでは無いこの世界で、そこまで長く生きられるとは思えない。
「その勇者の名前は?」
『……貴様は、数日間、王都で過ごしていたのだろう? 彼に会わなかったわけではあるまい?』
「なに……?」
つまり、二世代前の勇者が、王都に居たということ?
『ふん……知らぬのか。まぁ、歳を誤魔化すために定期的に姿を変えていると聞いているからな』
「姿を変えている?」
まさか、ウィンドさんの事?
でも奴は以前に、ウィンドさんと顔を合わせた時に何も言ってなかった。
一方、ウィンドさんは知っているような素振りだったけど……。
『ここまで言っても分からぬか、彼の名前は――――』
「……え?」
僕は、その名前を聞いて愕然とした。
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