第386話 王都市街戦
【視点:カレン】
レイが魔軍将と対峙し、エミリア達が前線基地で奮闘している頃、カレン、ベルフラウ、サクラ、それにアルフォンス団長は、王都内に進入した魔物達を討伐していた。
「ハァッ!!」
「ガアアッ!!?」
カレンは聖剣技を駆使して広範囲を巻き込みながら敵を葬り去っていく。調子は万全で朝は体調が悪かったものの、エミリアから貰った薬のお陰かいつもよりも魔力が溢れて絶好調なくらいだ。
「こっちは終わったわよ、そっちは!?」
目前の魔物達を駆逐したカレンは、背を任せていたサクラに声を掛ける。
「とおおぉぉっ!!」
サクラは強化魔法で自身の速度を上げて、敵を圧倒していく。
彼女は高速で魔物達の周囲を動き回り、両手の短剣で魔物達の手足を撫でるように掠めていく。そして、彼女が魔物達の背後を取った時、魔物達の手足が両断されバタバタと倒れていく。
「ひ、ひぃぃぃ!!」
怯えた魔物達は彼女から恐怖する様に逃げ惑い、苦し紛れに攻撃魔法を放つが、サクラはその攻撃を短剣で簡単に防ぎ、次の瞬間には魔物の首が飛んでいる。
その強さは圧倒的でもはや魔物が可哀想に思えるくらいだ。
「これでっ、とどめっ!!」
サクラは両手の短剣を構えて、残った魔物二体に一直線に突っ込む。強化魔法で底上げされた身体能力は、人間の限界など超えておりまともに捉えきれない。
「くそっ! なんだ、この女! 強すぎる!!」
「怯むな! 接近する前に倒しきれれば!」
そう言いながら魔物達は彼女が居た場所に攻撃魔法を放とうとするが、その瞬間には彼女の姿は既に消え失せていた。姿を見失った魔物は左右を見回るが、彼女の姿を捉えられない。
そして、次の瞬間には片方の魔物の真横に彼女の短剣が迫っていた。魔物がそれに気が付いた時には喉元にサクラの短剣が食い込んでおり、断末魔を上げる暇もなく首を両断する。
「な、なんなんだ、お前……!!」
もう片方の魔物は慌てて距離を離そうと試みるが、サクラは無造作にもう片方の短剣を魔物目掛けて投擲する。
「ぐあっ!?」
サクラの放った短剣は、魔物の胸の辺りに突き刺さる。
苦しむ魔物をよそにサクラは早足で魔物に近付き、胸元に刺さった短剣に手を合わせ横にスライドさせる。一文字に切り裂かれた魔物は、大量に出血させながら倒れ絶命した。
「(終わったみたいね。気持ちいいくらいの瞬殺っぷりだわ)」
以前のサクラと比べるとその強さは飛躍的に上がっている。彼女もレイと同じく、勇者としての力を覚醒させている。もう、今の私と比較しても殆ど差が無い強さだ。
「(もう私がサポートする必要もないかしら?)」
後輩が強くなってくれたのは嬉しい。
だけど、私の助けが不要になると思うと寂しいものがある。
そんなことを考えていると、
サクラが短剣を鞘にしまって、こちらに振り向いた。
「せんぱーい! 見てましたー? 私、やりましたよー」
そう言って、無邪気に私の方に走ってくるサクラを見てると、 私は自然と笑みを浮かべてしまう。
「はいはい、見ていたわよ。よくやったじゃない」
「えへへ、ありがとうございます」
この子は、幼少の頃から全然変わらない。
その人懐っこい笑顔を見ているとずっとこの子の傍に居てあげたくなる。
「この辺りの魔物は全部倒したみたいね。少し移動しましょう」
この周囲は敵の気配をあまり感じない。
場所を少し移して王宮の近くまで一旦戻ることにする。
私とサクラがペアで戦っているように、一緒にいたベルフラウさんとアルフォンス団長もペアで王都に入り込んだ魔物の討伐を行っている。前線基地で奮闘してる騎士達も心配だし、早急に魔物を討伐しないといけないため二手に分かれたのだ。
しかし、魔物の討伐自体はそこまで難しくは無かった。
魔物達の半数程度は、ベルフラウさんが仕掛けていた植物を用いた魔法のお陰で対処が簡単だった。どうも、彼女は昨日のうちに、街の色々な場所に植物の種を植えていたようで、魔物が近くを通るといきなり発芽して魔物を縛り付けて動きを止める効果があったらしい。
そのため、想像したよりは魔物の討伐が楽になっていた。代わりに、一部の街の床石を貫いて、数メートルの大きさの樹や植物が生まれてしまったため、街の一部の外観に支障が出てしまった。
「(修繕費、どれくらい掛かるかしら……)」
今はそんな場合じゃない事は分かってるのだけど、後々の事を考えると頭が痛くなる。戦いが楽になったのは助かるけど、私にとってはむしろそっちのが難題だ。
そんなことを考えていると、サクラが私に話しかけてきた。
「ベルフラウさんと団長は大丈夫かな、先輩?」
「まぁ、あの団長はともかく、傍でベルフラウさんがサポートしてるから死にはしないでしょ」
魔物も決して弱いわけじゃないけど、
少なくともこのメンバーなら負ける気はしない。
「先輩、団長につめたーい」
「何よ、私だって心配していないわけじゃないのよ?
あの男がこの程度の魔物に殺されるわけないし、一応信頼してるのよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、何度か模擬戦をしたことあるけど、タフネスは相当なものよ。ベルフラウさんの近くにいるし、彼女が傍に居れば簡単にやられることは無いと思うわ」
「へ~。意外と団長のことを買っているんですね」
「そりゃあ、騎士団長としての実績を積んできた男だから当然でしょ。
出会い頭にナンパしてきた事と、私の事を陰で『ゴリラ女』とか呼んでる事は気に入らないけどね」
思い出したら腹立ってきた。後で一発殴ろうかしら……。
サクラはニヤニヤしながらこんなことを言った。
「……先輩、実は団長の事好きだったりします?」
「それはないわ」
何言ってんのこの子、私はあんなの好きになるほど趣味悪くないわ。
「い、一瞬で否定しましたね……」
「あんなチャラくて軽い男は好みじゃ無いのよ。
もっとこう、誠実さと真面目さが滲み出ているようなタイプの方が好きっていうか……」
「それってレイさんみたいな?」
「そうそう、彼みたいに真面目で可愛くて……って、何言わせんのよ」
「先輩が殆ど勝手に言ったんじゃないですかー」
「う……」
その通りだったので、咳払いして話題の方向性を変えて誤魔化す。
「こほん……。私って男の人と関わることが殆ど無いのよね。他の人より多少強いから、依頼も単独で出来ちゃうし、こういうの『出会いがない』っていうのかしら?」
「んー、……サクラタウンだと先輩に憧れてる男の人の冒険者とか多いし、私が良く遊び相手になってあげてる子供達とか、みんな『カレンお姉ちゃんだいすきー』って言ってますけどね」
「あら、それは嬉しいわね」
子供たちがそんな風に言ってるのを想像すると、思わず頬が緩んじゃうわ。
「アプローチに気付いてないだけじゃないんですか?
自分の好みじゃない人の事は、あんまり目に入ってないとかカウントしてない的な?」
「………鋭いわね、サクラ」
あまり意識はしてなかったけど確かにそんな気がする。
よく考えたら最近、毎日のように男性に声を掛けられてたかもしれない。
「えっへん、これでも子供達に恋愛マスターって言われてますから」
「サクラ、恋愛したことあるの?」
「ないです!!」
「胸張らないでよ……」
サクラは時々変な知識を持っているけど、それが役に立った場面を見たことがない。
「私もそろそろ一人くらい、彼氏が出来ても良い気がするんだけど……。誰かいい人いないかしら?」
「あ、だったら今度レイさんに相談してみたらどうです? 長旅してるみたいだから、色んな知り合い多いんじゃないですか」
「そ、そうかもしれないけど……。
でもあの子にそんな事聞くの恥ずかしいっていうか……」
思わず指をモジモジさせる。レイ君に男の人の話を振るとか恥ずかしいし、何より嫌われちゃうかもしれないわ。それだけは絶対に嫌。
「……もう、レイさんと付き合っちゃえばいいのに」
「え、何か言った?」
「いえ、何も。でも、私思うんですよ。
私達が結婚して、子供が生まれたりしたら、その子がまた新しい子と結婚して、孫が出来て、その孫の子供が……とどんどん増えていけば、やがて人類最強の血族が誕生するんじゃないかなって」
「私達が最強の人類を目指してるみたいな言い方止めなさい。
私はね、こんな風に剣を振って悪い奴と戦うようなヒーロー的な立ち位置じゃなくて、もっとこう、優しい旦那様と一緒に家庭を守っていくような立場になりたいの。わかる?」
「はい、わかりました。ごめんなさ~い」
サクラが謝ったその時、前方で爆発音が聞こえた。
音の方向を見ると、遠くで煙が上がっているのが見える。
「あれは?」
「向こうは、ベルフラウさんとアルフォンス団長の方角ね……行ってみましょう」
私達は、魔物達の気配が無いことを確認してから、この場を後にした。
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