第385話 仲間ごと無双するエミリア

【視点:エミリア】 

 レイと一旦別れた後、

 私とレベッカはカエデの背中に乗って王都に戻り騎士達の援軍に向かう。


 そして王都付近まで飛んできた所で、

 地上の様子を確認し、そのあまりの魔物の数に私達は戦慄した。


「これは……」

「数が尋常ではありませんね……」


 ロドクが発動させた召喚魔法によって大量のアンデッド達が出現しており、最初の方に現れたアンデッドは騎士達が防衛する王都目前まで迫っていた。


 最初の方から戦っている魔物達の残党の数は残り300程度まで減っていたのだが、召喚魔法で呼び出されたアンデッドの数はその比では無い。両方を合算した敵の数は1000に迫るほどだった。


 王都からやや離れた場所に前線基地を構えている騎士達は、襲い掛かる魔物やアンデッドの集団相手に果敢に戦っている。


 その中には、近衛騎士団のガダール団長と彼の直属の部下である騎士達の姿もあった。近衛騎士団なだけあってその実力は伊達ではなく、連携を取りながら上手く捌いている。


 だが、多勢に無勢だ。

 彼らは何度も武器を振るい敵の侵攻を食い止めているが、次から次へと迫ってくるアンデッド達は通常の魔物よりもしぶとく、一度斬った程度では動きが止まらない。


 倒したと思ったアンデッドにいきなり横から食らいつかれ、

 負傷した騎士は後方に下がって魔法で治療を行い戦線を繋いでいる。

 今はまだ戦えているが、このまま長期戦が続けば危うい状況だ。


「善戦しておられるようですが……」

「ええ、このままでは数で押し切られてしまいますね」


 戦っている騎士達の数は、200人弱といったところだろうか?

 だが、敵はその5倍の数がいる上に、アンデッドの中には上位種も混ざっており、戦況は芳しくないように見える。


「エミリア様。このまま前線基地の彼らと合流して共闘しますか?」

「勿論、ですがその前に……」


 エミリアは、騎士達が奮闘しているやや前方、

 召喚されて間もない大量のアンデッド達も王都に迫ってきている。アンデッド達は、一か所に集中して集まるわけでもなく散り散りになって王都へ向かっているようだ。


 中には、騎士達との戦闘を避けるかのように、遠回りしながら進んでいくアンデッド達の姿もあった。うっかり見逃して王都に入られても迷惑だ。早い段階で摘んでおいた方が良いだろう。


「その前に、あの散らばった魔物達を一掃しましょうか」

「どうなさるおつもりですか?」

「丁度、見晴らしの良い場所に立ってますし魔法で一気に薙ぎ払います」

「なるほど、いつも通りですね」

「ええ、いつも通りです」

 レベッカの発言にクスクスと笑いながら返事をして、エミリアは魔法を詠唱し始める。


「……さぁ、私の魔法で焼き尽くしてやりましょう!」

 と、ご機嫌な表情で、エミリアは杖から無数の火球を射出していく。

 まるで降り注ぐ隕石の欠片のように、炎が地上へと雨のように射出される。

 その威力は凄まじく、魔物達を次々と爆散させていく。


「な、なんだっ!」

「援軍か……? 上空に黒い影……ありゃあ、ドラゴンか?」

「ドラゴンのブレスか!?」

「すげえ、魔物達がゴミクズみたいに吹き飛んでいきやがる!!」


 騎士達は思わぬ援軍に興奮し始める。

 しかし、冷静に周囲を眺めていた一人の騎士が声を荒げた。


「いや、ちょっと、まて……! 火球の飛礫がこっちにも飛んでくるぞ!!」

「マジかよ! 総員、一旦退避だー!!」


 エミリアの魔法に巻き込まれそうになった騎士達は、

 声を掛け合いながら慌てて逃げていく。


 エミリアの放った大魔法は、よくも悪くも戦場を掻き乱していた。

 魔物達の多数を消滅、または吹き飛ばし、敵の数を確実に減らしてはいるのだが、一部の騎士達も巻き込まれ魔物と同じように吹き飛ばされ、戦場はある意味地獄のような状況だった。


「く……、雷龍の仕業か……!!

 確かに、魔物達は面白いように吹き飛んでいるが、

 こちらにも被害が出ているぞ……全く、所詮は魔物か……!!」


「ガダール団長、このままでは我らも危険です」


「仕方あるまい……我らも一度撤退するぞ」

「はっ!!」

 ガダール団長は、こちらを睨みつけながら兵を引かせ、基地へと戻っていった。


「エ、エミリア様、前線で戦ってる方々を巻き込まないようにお願いいたします! 騎士の方々が突然の炎の爆撃で、逃げ惑っていらっしゃいますよ!」


 レベッカの言葉に、慌ててエミリアは魔法を一旦止める。


「こ、これでも一応、魔物だけを狙ったつもりなのですが……」

 と、言い訳しながら、今度は範囲を絞るように小刻みに攻撃を繰り返す。

 しかし、それでも余波で巻き込んでしまう騎士達は後を絶たなかった。


「ああっ!! また何人か爆発に巻き込まれました!」

「わ、わざとじゃないですよ?」


『あの、エミリアちゃん。私が攻撃したと勘違いされてるんだけど……』

「ご、ごめんなさい!」

 雷龍のカエデにすらダメ出しをされてしまった。


 ◆


 それから数分後――


 後続の魔物をある程度減らしたのを見計らって地上に降りることにした。


「――そろそろ頃合いですね。

 カエデさん、私達は前線に下りて騎士達と合流します。アナタは、前線から離れた位置にいる魔物達の相手をお願いします。万一、騎士達が危なそうなら手助けしてあげてください」


『了解、なら一旦地上に降りるね』


「はい、頼みます」

 カエデは翼を広げて一旦離れて距離を稼いでから、

 上空から一気に降下して、前線基地からやや離れた位置に着地する。


 騎士達は、突然現れたドラゴンに恐れおののいていたが、

 一部の騎士達には、カエデの情報が伝わっていたため、すぐに受け入れられた。


 私とレベッカは、前線基地まで走り、騎士達と合流する。


「エミリア・カトレットです。王都の危機と判断しました。戦いに参加させてください」

「レベッカと申します。エミリア様と同じく、王都の守護のために戦わせていただきます」


「おおっ、あなた方が噂に聞く……! 心強い助太刀感謝します。

 既に前線基地の防衛ラインは崩壊寸前です、どうか力を貸していただけませんか」


「分かりました」

「受け入れていただき感謝いたします。騎士様」

 私達は、一時的に彼らと共闘することになった。


「……しかし、先ほどのドラゴンは凄まじかったですね。魔物達をあれほど容易く消滅させてしまうとは……一部、我らの仲間も吹っ飛んでしましたが……いえ、死んではおりませんからご安心を。

 ですが、ドラゴン使いのお二方。出来れば……ドラゴンは少し離れた場所で戦わせてもらってよろしいか」


「え、えぇ……彼女もそれは理解しているので安心してください……」

 エミリアは、『実はさっきの攻撃は、ドラゴンの攻撃じゃなくて、私が放った攻撃魔法です』とは言い出しにくくなってしまった。


 まぁ、結果的に魔物の討伐数は増えたのだから問題はないはず……多分……。それにしても、私はいつの間にかドラゴン使いみたいな扱いを受けているのでしょうか?


 レベッカは、周囲を見回してから騎士さんに言った。


「騎士様、他に増援はいらっしゃらないのでしょうか?

 王都には、自由騎士団団長アルフォンス様や副団長のカレン様。

 それに闘技大会で活躍した猛者の方々も来られるはずなのですが……」


「それが、自由騎士団の方々も、一度はこちらに来ていたのですが、空を飛ぶ魔物達が前線基地を掻い潜り、王都に侵入してしまったようなのです」

「え!?」

 私とレベッカは、王都の方を振り返る。

 見たところあまり変わった様子が無いように見えたが、

 数か所に火の手が上がっていた。


「自由騎士団の方々はそれに気付いて王都に引き返していきました。

 我々は、前線基地の防衛のため、これ以上動けない状態です。闘技大会の方々は我らには今のところ所在が分かっておりません」


「そんな……」

「……住民の避難が完了しているのは幸いでしたね」


「とにかく今は、我々だけで何とか防衛線を保っておりますが、それも時間の問題でしょう。今はなんとか我らだけで耐え凌ぎ、彼らが戻るのを待たなくては……」


「分かりました。気になりますが、私達も今はここを守りましょう」


「お願いいたします。お二人とも」


 私達二人と雷龍のカエデは、

 命懸けで時間を稼いでいるレイの事が頭に過ぎりながら、

 今は出来ることに務めるのだった。


「(待っててください、レイ……こっちもカタが付いたらすぐに助けに向かいますから……!!)」

「(レイ様、ご武運を……!)」

『(桜井君……)』

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