第381話 敵陣を越えて

 僕達三人が、カエデと一緒に飛び立った後―――


【視点:サクラ】


「アルフォンス団長、あの少年は何者だ。

 それに、あれは……雷龍という伝説の竜では無いのか?」


「あいつ……レイは、形式上は俺の部下なんですがそっちの事までは……。

 おい、カレン副団長。アンタは知ってたのか?」


 そう二人に問われて、カレン先輩は答える。


「……ええ、知ってます。しかし、多少込み入った事情がありますが、少なくともあの子雷龍は味方です」


「……にわかには信じがたいな」

 ガダールは顎に手を当てながら呟く。


「あの竜の噂は知っている。以前に暴走して、他でもないカレン殿が倒したという話も聞いた。そんな魔物が味方だというのか? あの少年の事も何者かは知らんが信用できないな」


 と、ガダール団長さんは冷たく言い放つ。

 それにムッとしたのか、ベルフラウさんは言った。


「……言いたいことは分かりますが、あの子は私の弟です。

 確かにまだ若いし弱腰なところがあるし、女の子みたいに可愛いし、頼りなく見えるのも分かるけど、あの子はとても良い子で強いですから少しくらいは信頼してあげてくれませんか?」


「ふむ……弟……か」

 ガダール団長さんは腕を組んで考え込む。


「……まぁ、よかろう。

 あの竜を本当に使役しているというのであれば役には立つだろう」


「……ありがとうございます」


「礼を言うのは早い。実際にあの竜の力を見てからだ」

 そう言って、ガダール団長は兵を率いて歩いていく。


「我らは先に戦場へ向かうとしよう。

 王都に残してきた王宮騎士団も既に外で臨戦状態のようだ。

 団長である私が指揮を取らねば話になるまいよ。

 アルフォンス団長、それにカレン殿、貴殿らも用が済んだらすぐに来るのだぞ」

 そう告げて、他の近衛騎士達と共にガダール団長は去って行った。


 それを見送った後に、カレン先輩はため息をつく。


「……初めて、あの方とお話させてもらったけど、少々気難しそうな方ね」


「アンタでもそう思うのか。その点は俺も同意だ。

 だが、昔から騎士団の団長を務めているだけあって腕は確かだぜ。

 ……まぁ、話してて疲れる相手ではあるが」


「……でしょうね。

 まぁ、私達はあの方と比べれば新米みたいなものだし、

 多少高圧的に見えるのは仕方ないわ」


 はぁ……と、団長と副団長はため息をハモらせる。


「それより、陛下に報告に行きましょう。

 きっとそれを聞けば、陛下の事だから前線に出たがるでしょうけど」


「まぁ、陛下の経歴を考えるとなぁ……」

 二人は苦笑しながら話をしながら、王宮の門へと向かう。

 それに続いて、私、サクラとベルフラウさんが続く。

 ベルフラウさんはさっきまで走ってたせいで体力切れを起こしてるみたい。


「ねぇ、サクラちゃん?」

 不意に、後ろからベルフラウさんに話しかけられる。


「なんですか?」

『グラン陛下さんって見た目子供に見えたけど、二人の話を聞いてると実は凄い人だったりする?」

 ベルフラウさんは、?マークを頭に浮かべながら聞いてくる。


「あはは、私も最初そう思いました。でも、実は見た目は子供に見えますけど――」

 と、そこまで話してて、前を歩く二人に声を掛けられる。


「サクラー、急ぐわよー」

「あっ、はーい。ベルフラウさん、行きましょ」

「ま、また走るの……?」


 ヘトヘトのベルフラウさんの手を取って、私達は走り出した。


 ◆


【視点:レイ】


 僕達はカエデの背中に乗って王都の街の上空を通り抜けていく。

 王都の外では、既に戦いが始まっており、あちこちで爆発や衝撃音が響いている。


 そして街から離れた平原には――


「うおぉぉおお! 魔物共めぇえ!!」

 騎士達が、魔物の大群に向かって一騎当千とばかりに、少数で多数の魔物を相手取っている。

 敵の数はおよそ目に見えている範囲では500程と言ったところだろう。


 今は、騎士達の勢いもあり、数の上で負けているもののまだ拮抗状態にある。魔物達も一斉に襲い掛かるわけではなく、数十の数だけ前衛に出ながら騎士達と交戦している形だ。

 

 この状況ならしばらくは保てるだろう。

 

 直にガダール団長率いる王宮の近衛騎士達と、闘技大会の猛者たちが合流するはずだ。

 彼らが援軍に入れば、魔物達の突破も難しくないだろう。

 

 ……魔王軍の戦力がこれだけならの話だけど。


「……レベッカ、どう?」

 レベッカは鷹の目の技能を使用してカエデの背中の上から周囲を眺める。


「………はい、目標を見つけました」

 レベッカは、地上の一か所を指差す。

 王都から十数キロは離れた場所をレベッカは指差している。


「何かの廃墟の近くに黒衣のローブを着た人物が立っています。周囲に魔法陣が形成されているところを見ると、おそらく今回の戦いの関係者かと推測します」


 レベッカの指し示す場所を凝視する。

 この距離だと僕とエミリアには見えてないが、

 特別視力の優れるレベッカの言葉なら間違いは無さそうだ。


「黒衣の衣装……やはり魔軍将ロドクのようですね。前線に出てこないのは何か狙いがあるのでしょうか」


「以前の戦いも最初は前線に出てこなかったし、アイツらしいよ」


「あいつなら死んだ魔物をアンデッドにして蘇生させることや、

 召喚魔法を使用して援軍を呼び出すことも造作では無いでしょうね……」


「……確かに」

 現在は優勢でも、奴の能力で戦況をひっくり返される可能性がある。


「どうします? こちらから奇襲を掛ける手もありますが」

 エミリアの提案に僕は、一瞬だけ思考しすぐに頷いた。

「……騎士さん達のお陰で、今のところ王都に被害はないみたいだね。なら、僕達が直接行って奴を仕留めに行こう」


 僕達は、気付かれないうちに接近し、

 奴に直接勝負を仕掛けることを選択する。

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