第379話 日記
地下通路にて、怪しげな部屋を発見した。
そこには処刑道具や得体の知れない標本や人骨などが転がっている。
団長は、「仕方ないな」と言いながら本棚の近くに移動する。
そして、彼は本棚の中から一冊を手に取り、本に付いた埃を払う。
団長は本を広げて、目を細めながら言った。
「日記か、……今から百年以上昔の話だ」
「そんな昔の……?」
僕達は、団長の傍に集まる。
「……やめとけ、見ない方が良いぞ」
「団長、そんな事言われたらかえって気になりますよ」
サクラちゃんは、団長の言葉に抗議する様に言った。
「……後で後悔しても知らねえぞ。
仕方ねえ、じゃあ読むぞ。……ええと、これは走り書きだな」
団長は、日記に書いてる内容を、声に出して読み始めた。
これは日記の一文だ。
どうやら、昔ここで仕事をしていた男の日記らしい。
殆どのページが破り捨てられており、残った部分も掠れて読めない。
だが、後半に進むたびに、書かれていた字が乱れていく様は読み取れた。
殆どの部分は破られて読めなかったが、
最後の数ページのみ乱れた字で、長い文章が書かれていた。
◆◆◆
私はもう疲れた。この終わりの無い地獄に。
国王に命令され、私は魔物を捕らえては実験台にしてきた。
最初、命令された時は、国の為と言われ、私も名誉なことだと思ってやった。
薬を投与したり、得体の知れない奇妙な魔物を作り出したり、五体を切り裂いて別の魔物と縫合したりと、はっきり言って正気の沙汰ではなかった。
しかし、何故このような事をするのか私は何度も質問したのだが、誰も答えてくれなかった。
そうして、数年が過ぎ、今度は人間の死体がここに運ばれてきた。
病気になって死んでしまった平民の死体だった。今度はこれを使って実験してくれと言われた。
流石に、同じ人間の死体にそんなことをするのは気が引けたが、これも国のためだと自分に言い聞かせて作業を続けた。
それからまた数年。
私は何故、このような事をやらされていたのか理由を知ってしまった。
『魔物を我が国の戦争の兵器として改造し、隣国との戦争に使う。
この計画が上手くいけば、我が国は圧倒的な兵力を有する大国として世界に名が轟くことだろう。
そして、この兵器を以ってすれば、世界中を我がものとすることも可能となる』
国王は、そう言ったらしい。
『汚らわしい平民は何の役にも立たぬ。
せいぜい魔物開発の実験にでも使え、そうすれば無駄な食料も不要、物資の節約になる。
逆らうなら殺しても構わん。どうせ生きていようが死体だろうが関係ない』
私の元に運ばれてくる死体は、
国の兵士が国王の命令で口減らしの為に殺した人間だった。
病気などでは無い。この国の兵士、いや国王によって殺された被害者だったのだ。
私は怒りに震えた。
こんなことが許されていいはずがない。
だが、どうすることも出来なかった。
私は抗議しようとしたが、いつの間にか私の家族を人質に取られていた。
国王の命令に逆らえば、私だけではなく家族まで処刑される。
私は、自分の無力さを呪い、涙を流した。
来る日も来る日も、魔物と人間の死体を解体し実験し、そんな日々を十年ほど続けた。
ここ数年、私はここに監禁されている。家族にも会わせてもらえなくなった。
そして、ある日、私の息子が死んだことを聞いた。
どうやら息子は王宮まで行って、私に会わせろと騒いだらしい。
私がここにいると知り、危険を冒してここまで来たそうだ。
そして、その後急に苦しみだして急死したと言っていた。
妻は、それを聞いて涙を流し、そのまま行方知れずとなったそうだ。
だが、それは嘘だった。
何故なら、数日前、私の元に、肉塊が届いていたからだ。
その肉塊は、無数の槍に貫かれており、苦痛の表情で絶命していた。
その顔は、私の息子が成長したような顔をしていた。
私は悲鳴を上げ、嘔吐した。
どうしてこんなことに……。
何故、息子の身体を弄り回さねばならぬ。
何故、こんな酷いことが出来る。
何故、こんな恐ろしいことが平気で出来る。
何故、何故……。
何故何故何故何故何故何故何故何故何故――
一月後、私は長年続けた研究の成果をようやく完成させた。
人間と魔物を一体化させ魔力を薬で何倍にも増幅させた生物兵器だ。
獅子のような脚と、竜のような翼を持ち、鱗に覆われた皮膚に鋭い牙を持った化け物。
それに私の元に届いた、最期の人間の頭と心臓を化け物の身体に埋め込んだ。
名前は決めていない。
だが、強いていうなら、私の息子の名前を付けようと思う。
この魔物の頭部は、私の息子なのだから。
そして、私は今日。
この息子とこの地下から脱走するつもりだ。
もし兵士に見つかっても恐れることはない。
今の私には、息子が近くにいる。守ってくれる。
どれだけ犠牲が出ても、もう関係ない。
邪魔する奴は全員皆殺しだ。
この国は滅ぶべきだ。
お前達が生きている限り、この国に安息の地はない。
お前達は必ず報いを受けることになる。
私は、お前達を許さない。
……だが、残してきた民たちが不憫でならない。
最後に、もしこの日記を読んだ者が居たなら、私の願いを叶えてほしい。
もしそれが無理なら、この日記を燃やしてくれ。
私達家族を滅茶苦茶にした元凶である、国王を討ってくれ。
こんな腐った国王がいるかぎり、この国に未来など無い。
◆◆◆
「…………以上が、日記の内容だ」
団長は本をパタンと閉じると、元の場所に戻した。
「こ、これって……」
「……今から百年以上昔の話だ。当時の国王は既に生きていない。無論、この日記に書いてあったような凄惨な事件など無かったことになっているはずだ」
「この話、今の国王……グラン陛下は知っているんですか?」
「ああ、何せ、俺は今の陛下からこの話を直接聞いたからな。初めて聞いた時、面を喰らったぜ」
団長は苦笑いしながら言う。
「そっか、だからここはこんなに怨念が渦巻いていたのね……」
姉さんは、今の話を聞いて何かを悟ったようだ。
「どういうこと?」
「ホラーチックな話になるけど、良い?」
「う、うん……」
姉さんの言葉に、僕達は身構える。
「……私がここに来て、レイくん話をしてほしいって言ったの覚えてる?」
「うん」
「あれね、みんなには聞こえてなかったけど、私だけには聞こえてたのよ」
「えっと、何が?」
「……死霊の声が。許さない、許さない、殺してやる、どうして私がこんな目に、苦しい、痛い、助けて、って……。
そんな声を、ここに来てからずっと聞こえてたから、滅入っちゃって、レイくんの声を聴いて気晴らしさせてもらってたんだ」
その話を聞いて、姉さん以外の僕達の背中に寒気が走った。
「あ、あの、ベルフラウさん、その声って……」
「もしかして、今も聞こえてたりするのかしら?」
サクラちゃんとカレンさんが、冷や汗を掻きながら恐る恐る質問した。
「うん、聴こえる……というか」
姉さんは二人の背後を指差しながら言った。
「皆には見えてないけど、亡霊が沢山憑いてきているわ。
それに、この部屋の窓に、実験台にされたと思われる痛ましい姿の霊達も……」
「「「「「「………………」」」」」」
僕達は、何とか悲鳴を上げるのを堪えた。
そして、僕達はその後、なりふり構わず出口を目指した。
爆速で地下道を駆け抜けて、ようやく地上に戻ることが出来た。
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