第376話 謎の場所

【視点:レイ】

 デウスを撃破した僕達は急いで、

 闘技場から出て王都へ通じる魔法陣へと向かう。


「ところで、カレンさんっ!」

「なにっ!?」

 僕達は急いでるため走りながら会話をしている。


「本物の陛下は今何処にっ?」

 今日、出会ったグラン陛下は魔法人形と呼ばれる魔道具で作り出した偽物だ。魔王軍が真っ先に陛下を狙うことは事前に分かっていたため、予めウィンドさんが手を打っておいたのだ。


 高度な技術で作られた人形な為、本物と同様そっくりの外見と魔力を有してはいるが、意思が希薄で喋ることは出来ず、普通に歩くくらいの事は出来るもののそれ以上の事は不可能だ。


 数日前、ウィンドさんが僕の姿を模した魔導人形でテストしたのは、今回の作戦で、陛下の身代わりとして行動するためである。安全を確保するためにも必要だった。


「王都にある隠し部屋よ!そこに、本物の陛下がいるわ!」

「了解!!」


 僕は、カレンさんの返事を聞き、走る速度を上げる。

 そして、王都に向かう魔法陣へと到着したのだが―――


「はぁはぁ……やっと着いた……って、みんなどうしたの?」


 一人だけ息を切らして、遅れて走ってきた姉さんは、

 魔法陣の前で棒立ちしていた僕達に声を掛ける。


「いえ、ベルフラウ様、実は―――」

 と、レベッカは姉さんに何故僕達が先に進まないかを説明した。


「……なるほど、本来起動しているはずの魔法陣が使用不可能な状態になってたのね」

 説明を聞いた後、姉さんは少し考え込むように顎に手を当てる。


「やっぱり、あの男デウスの仕業かしら」

「恐らくそうでしょうね」

 姉さんの言葉に、エミリアは頷く。


「今となっては随分昔の話に思えますが、以前にミリクのダンジョンで私達が魔王軍に襲われた時と同様です。あの時のように、転移魔法陣の機能が全く使えなくなっています」


「やはりあの時、奴が近くに居たということですね、エミリア様」

「えぇ……」

 あの時というのは、僕がまだ勇者になる前のことだ。 エミリアが持ち帰った情報で、面白いダンジョンがあると聞き、僕達はお宝探しのためにそのダンジョンへ向かった。


 そして、五階まで進んだ時、何やかんやで僕は死に掛けた。


 死に掛けた理由は、一応魔王軍が関係していたのだが今は割愛する。

 その時に、エミリアは一旦、ダンジョンから離脱するために、迷宮脱出魔法と呼ばれる帰還魔法を使用したのだが何故か効果が起動せず、ダンジョンそのものも通常の状態では無かった。結果、その理由は魔王軍が関与していたことが後で判明した。


 そして今、ここにある魔法陣も同様の状態というわけだ。


 この闘技場、実は王宮内にあるわけでは無い。


 大規模な魔法によって、異空間の中で作られた特殊な空間となっている。僕が最初に来た時も、実は転移魔法を介しており、実際は王宮とは少し離れた場所に設置された建物の中になっている。


 ちなみに、表向きは外に出る入り口が存在しない。

 転移を使用する前提の作りだ。どうも、元々は今のように祝祭として使われる建物じゃなかったらしく、後ろ暗い目的で作られた建物だったらしい。


「それで、この魔法陣以外でここから出る手段はあるのですか、カレン」

「あるにはあるのだけど……」


 カレンさんは、言い辛そうに僕達に言った。


「……隠し通路を通って緊急用の階段を降りて、そこから走ることになるわ」

「先輩、それってどれくらい走ることになるんです?」


 サクラちゃんは嫌な予感がしたのか、カレンさんに質問する。


「……一時間弱といったところね」

「……」

 カレンさんの言葉に、僕達は黙り込む。

 今の僕達は既に相当な疲労が溜まっている。出来るかぎり体力の消耗は避けたい。


「いやいや、そんな時間無いって。こうしている間に、王都に魔王軍の別動隊が攻めてくる可能性があるんだから!」


「そ、そうですよ、カレン! 民間人の避難は済んでいると聞きましたけど、全員が全員というわけじゃないんでしょう!?」


「それは、そうなんだけど……」

 カレンさんは、歯切れの悪い言葉で答える。

 僕達が立ち往生していると、後ろからガシャンガシャンと重そうな音を立てながら近づいてくる複数の足音が聞こえてきた。どうやら、重い鎧を身に着けた人達のようだ。


 彼らは僕達が立ち往生しているのを見ると足を止めた。


「―――ん? そこにいるのはレイ達……それに……げ、副団長」


 現れたのは自由騎士団の団長、アルフォンスさんと、他の騎士団員の皆さんだった。

 アルフォンスさんは、僕達を見てから、視線をカレンさんに向けると苦虫を噛み潰したような表情を向けた。


「あら、団長? 女性に向ける表情じゃないわよ?」

 カレンさんは団長に笑顔を向けながら言った。

 美人なのに、なぜか笑顔がちょっと怖い。


 そんなカレンさんに怖気づいたのか、

 団長はカレンさんから視線を逸らし、僕達の方を向いた。


「団長、無事だったんですね」


「おう、まぁな。お前らこそ無事だったんだな。

 コロシアムに出現した魔物共はあらかた討伐してきた。

 他の戦える奴も、外の敵に備えてじきにこっちに向かってくるはずだ」


「そっか、よかった……」


「で、お前らはこんなところで何やってんだ?」


「あー、それが――」

 僕達は団長たちに事情を話した。


「マジかよ……」

 団長は頭を抱えながらダルそうに言った。


「よりにもよって、王都へ移動するために魔法陣が使用不能だと……?」


「えぇ、そうよ。だから、隠し通路から行こうと……」


「いや、それは止めた方が良い」


 カレンさんの言葉を遮るように、団長は言った。


「なんでよ?」

「あの隠し通路、作られたのは今から100年以上昔の話だぞ。今の陛下に代替わりしてから、一度たりとも使われたことのない場所でまともな整備もされてねぇ。何より、あの場所は……」


 団長はそこで口を濁すように言う。

 何か言いたくない理由があるようだ。


「いいわよ、続けて」

「……とにかく、その通路を使うのは危険すぎる。万が一崩落でもしたら、それこそ洒落にならねえ。魔法陣が使えなくなる事態は想定外だったが、今から腕利きの魔法使いを含めた参加者もここに向かってくるはずだ。

 そこで一旦作戦を練ろう。なに、あれだけの人数がいれば魔法陣の修復なんて……」


「……いや、すぐには無理かもしれません」

 エミリアは、団長の言葉を否定した。


「……なんでだ?」

 エミリアは、しゃがんで魔法陣を観察しながら言った。


「魔法陣に魔力を送っているのですが、回復する気配がありません。魔法陣に刻まれた古代文字もどうやら潰されてしまっていて、魔法陣の設計を完璧に把握している人でないとどうしようもないかも」


「……つまり、この魔法陣を治せる奴を連れて来ないとダメってことか」


「はい。少なくとも、私ではお手上げです」

 エミリアは立ち上がると、僕達に言った。


「仕方ありません。ベルフラウ、空間転移を使用しましょう。あれなら、この場所からでも外に出れるかもしれません」

「あ、そっか、姉さんのアレなら……」

 と、僕はエミリアの言葉に同意して姉さんの方を向く。

 しかし姉さんはあまり乗り気じゃなさそうだった。


「……うーん、正直かなり危険よ?この建物がどれほどの規模なのか、壁がどれだけの厚みがあるのか分からないから下手をすると……」

「下手すると?」


「壁の中に閉じ込められるかもしれないわ」

「……それは嫌だなぁ」

 

「空間転移は座標を指定して使うものだから、完全にイメージ出来ない場所で使用するのは危うい。時間が掛かっても、多少危険でも隠し通路から行った方が、お姉ちゃんとしては良いと思うな」


「確かにそうですね……。

 分かりました。カレン、そういうわけなので……」


「そうね、ここは覚悟を決めて隠し通路に向かいましょう」

「……仕方ねえ。おい」

 団長は頭を掻きながら後ろを向いて、団員達に言った。


「俺たちは先に隠し通路に向かう。

 お前達は後から来る奴らの為にここに残っててくれ。

 全員集まったら、隠し通路に案内してやれ」


「了解、それでは団長、お気を付けて」

「おう、任せろ」


 そして、団長と僕達は隠し通路へと向かうことになった。

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