第373話 第三形態

 魔軍将として襲い掛かってきたデウス。

 その猛攻を凌ぎきり、僕達は奴を追い詰めていた。


 しかし、奴は諦めない。

 自身が作り出したという<黒の剣>を自分の胸に突き立てる。


「何をする気?」

 その様子に、カレンさんは気味悪げにデウスを見つめる。


「見せてやろう、魔王様の力と、私の研究の成果! この身を以って、その目に焼き付けるが良い!!」


 デウスは叫ぶと同時に、両手の黒の剣を自身の胸に突き刺した。


「ぐふっ………!!……くくく、知っているだろう?

 この剣は、人間を魔物へと変化させ、より強靭な生物へと生まれ変わらせる……!

 貧弱な身体を持つ人間であれば、その変化に耐えられず精神を崩壊させてしまうだろうが、私は違う!魔王様により与えられた力を宿すこの肉体ならば、耐えきれる!!」


 デウスは苦しそうな表情でそう言い放つと、

 そのまま自らの胸から心臓を引き抜いた。


「……うぅ、ぐうぅ!! グフゥ!! ……これだ、これが私の求めていた力!!」

 デウスは血まみれになった心臓を握りしめながら、歓喜の声を上げる。

 そして、その心臓が弾け飛び、奴の身体が徐々に肥大化し始める。


「……なんてことを」

 僕は、目の前で起こった出来事に、ただ唖然としていた。


「これぞ、人間と魔物を超えた究極の姿!!

 どうだ? 素晴らしいだろう? 人間を超越し、魔物の力を取り込んだこの姿は、聖書における神のそれと同じ!」


 デウスの全身は既に人の形ではなくなっており、

 腕は6本に増え、背中からは天使のような黒い8本の翼が生えている。

 その外見は、ある意味では神々しくもあった。


「これこそが支配者に相応しい姿!!

 私は、魔王様の片腕となって、この世界を私の望む理想卿に変えてみせる!」

 デウスはそう叫びながら、巨大な手を広げて天に向かって叫んだ。


「ふふふふふ……有り難く思うがいい。

 貴様らは、理想卿への第一歩としてこの私が直々に滅ぼしてやろう」


「………ふざけるんじゃないわよ」

 デウスの言葉に、姉さんは静かに憤る。


「デウス、あなたが今まで人間を不幸にしたのはこれがしたかったから? 魔王の力で人間を超越して、自分が神にでも成り代わるつもり?」


「その通りだとも。黒の剣も魔王の影も、魔王様の復活の為でもあるが、全てはこの日の為に生み出したものだ。この力さえあれば、世界など簡単に変えてしまえる」 


 デウスはそう言って高笑いすると、僕達を見下ろした。


「さて、そろそろ始めようか。

 神の作りし奴隷である勇者とその仲間達よ。新たなる神である私の力を目に焼き付けると良いだろう。お前たちを始末した、次は王都の人間だ。そして、世界全土の人間を魔物に変えて、私が望む理想卿を作り上げる!!」


「……もういい」

 自分でも、ゾッとするほど冷たい声だった。


「デウス、お前は神なんかじゃない。

 自分の狂信とエゴで他者を貶めて貪る、……ただの化け物だ」


 僕は剣を構え、デウスと対峙する。

 背後では同じように武器を構えるカレンさん、サクラちゃん。その更に後ろには、杖を構えて魔法を放てる準備を整えたエミリアと姉さんとレベッカの姿があった。


「ほう、神に逆らうか。良いだろう。

 その傲慢さが命取りになる事を知れ!!」


 デウスはそう叫ぶと、僕達目掛けて急降下してきた。


「黒の剣よ、我が手に宿れ!!」

 デウスはこちらに急接近しながら、黒の剣を6本出現させ、

 一つ一つを6本の手で操って攻撃してくる。


 奴が剣術の素人はいえ、六つの剣の同時攻撃を凌ぐことは不可能。

 それを察したカレンさんとサクラちゃんは、即座に僕の隣に並び立ち、僕と同時に攻勢に出る。


 まずは僕が正面から奴の二本の剣を聖剣で防ぐ。

 次に奴は残った四本の腕の剣で僕の両手を両断しに掛かるが、

 それをサクラちゃんとカレンさんが連携して防ぐ。


「小癪な!! だが、勇者などその程度の存在よ。今の私の敵ではないわ!! 喰らうがいい!!!」


 奴は六本の剣を僕達に防がれたというのに、傲慢な物言いを続ける。

 そして、奴の8本の翼から闇のオーラが放出される。


「くっ……!」

「きゃああああ!!」

「これは、きついわね!」


 闇のオーラは僕達の身体を焼き焦がし、

 強烈な上昇気流を呼び起こし僕達三人を吹き飛ばす。


「ハハハハハハっ!! 弱い弱い!!

 非力な勇者二人と仲間の三人がかりでこの程度か!!

 一人では何も成し得ぬ虚弱な存在よ!!」


 言わせておけば……!!


「……ああ、そうだよ! だから、僕達は一緒に戦っているんだ!!

 エミリア、レベッカ、姉さん!!! 準備は良い!?」


 僕は奴に大声で言い返しながら、後ろの三人に声を掛ける。


「当然です!」

「わたくしも準備を終えておりますよ」

「任せて、レイくん」


 三人はそれぞれの言葉で、問題無い事を告げる。

 それを聞いた僕は心の中で笑みを浮かべると、三人に向かって叫んだ。


「なら、お願い。

 あの馬鹿にキツイのお見舞いしてやって!!」

 僕がそう叫ぶと、三人がそれぞれ魔法で連携を行い始める。


<重圧>グラビティ

 最初に魔法を発動させたのはレベッカ。デウスの周囲に重力の空間を発生させ、翼に飛び上がってる奴の身体を強引に地上に引きずり落とす。


「ぐおっ……なんだ、この魔法は……? 重力を操っているだと?」

 デウスは魔法で十倍以上の重さとなった身体を必死に動かそうと試みる。

 しかし、その身体はひしゃげてまともに動かない。


 続いて、エミリアの強力な攻撃魔法が発動する。


「―――凍えよ、我が世界!!

 あらゆるものを停止させるこの魔法に耐えられますか!!

 さぁ、我が魔力で凍えるがいい! <極大吹雪魔法>フィンブル!!」


 デウスの足下から巨大な魔法陣が展開され、そこから猛烈な吹雪が吹き荒れる。彼女の普段使う極大魔法と比較すると、規模は小さいがその威力は通常の極大魔法と何ら遜色ない。


 化け物となった奴の身体を凍りつかせ、動きを完全に封じ込める。


 そして、更に姉さんの魔法が発動する。


「……今のアナタは自分の状態が分かってるか怪しいけど、

 少なくとももう人間じゃない。なら、この魔法が通じるはずよ!!

 ―――女神の名の元に、邪悪を滅する光と為せ! <大浄化>!!」


 姉さんの言葉と共に、デウスの周囲に発生した光の柱。

 それは、デウスの身体を包み込み、その全身を白く染め上げる。

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