第372話 人格破綻者
王宮に乗り込んできた魔軍将。
それは、以前の廃坑で遭遇した死の商人デウスだった。
レベッカの矢に貫かれ、
ゼウスの身体は穴だらけになり、地上に叩き落とされた。
もはや死に体と言っていい状況だ。
「……なぜだ」
それでもまだ息があるようで、
デウスは地面の上で這いつくばりながら呟いた。
「何故……私の力が通用しない?
この世界の理から外れた存在であるはずの私は……何故……!!」
奴はブツブツと呟き、自身が追い詰められていることに納得がいっていない様子だ。よほど自身があったのだろう。
「……そこまでダメージを負って、
まだ生きてる時点で十分に理から外れてるわよ」
カレンさんは、デウスの言葉に呆れたような顔で言った。
「く……まだだ、まだ逆転の手立てはある……!!」
デウスはそれでもなんとか立ち上がり、僕達と対峙する。
しかし奴の身体は大量に血が流れており、身体もフラフラの状態だ。
はっきり言って戦えるような状態には見えない。
「もう、諦めなさい。デウス、アナタの負けよ」
「黙れぇぇ!!」
姉さんの言葉に、デウスは過剰なまでに反応し、激怒する。
そのデウスの反応に、姉さんはため息を吐きながら言った。
「私が言えたことじゃないけど、アナタ、実は戦いの素人でしょ?」
「――――っ!!」
デウスは、姉さんの指摘に怒りの表情を浮かべる。
「どういうこと? 姉さん」
僕は疑問を口にすると、カレンさんが答えてくれた。
「さっきから、こいつの動きを見てるとね。直線的なスピードや魔法力には目を見張るものがあるんだけど、どうにも動きが単調よ。
剣を持ってる癖にロクに防御姿勢も取らないし、相手の射程の把握すら出来ていない。判断も遅いし、戦士としての技量を見るならお粗末ね」
「じゃあ、レベッカが弓矢で狙撃できたのも?」
「レベッカちゃんが強化魔法で射程を強化したのもあるけど、当たらないと高を括って防御も回避もせずに棒立ちしたのが原因。
おまけに、地上に叩き落とされた時に受け身を取らなかったせいで、頭をぶつけて今もフラフラになってるわ」
カレンさんの解説を聞いて、
デウスの動きの違和感にようやく気付いた。
「確かに……よくよく考えると、動きが隙だらけだったね」
「でしょ? ……多分、こいつ戦い慣れてないのよ。
元は生粋の引きこもりの魔法使いか、研究者とか、そんなところじゃない?」
「く……!!」
図星を突かれたように、デウスは肩を震わせる。
「く………くくく………確かに、私は、貴様らのように戦いに身を置くような立場では無かった。そこの女の言う通り、私は元々研究畑にいた人間だ。だからこそ、私は真理に気付けたのだ、この世界の無意味さに!!」
デウスは、叫ぶと同時に、両手を広げて僕達に言い放つ。
「世界は今、滅亡の危機に晒されている!
この世界に生きる人間は皆、自らの欲望のために争いを繰り返し、奪い合い、殺し合う!!
世界に満ちるマナを殺しの道具に使っているのだ! マナは有限とも知らずに! いずれ、人間の傲慢さで、この星は破滅するだろう!……だが」
デウスはそこで言葉を切り、僕達に向かって叫んだ。
「だが、私は違う! 私だけは、その過ちに気付かせてくれた。
だからこそ、この世界から人間を全て駆逐し、魔王様が支配することで、この世界は真の平和が訪れるのだ!!」
デウスのあまりの荒唐無稽な結論に、僕達は唖然としてしまう。
「……呆れた。完全に狂ってるわね、こいつ」
「ここまで理論破綻してると、何も言い返す気にもなりません」
カレンさんとエミリアは、デウスの話にドン引きしていた。
「そもそも、世界を滅亡の危機に晒してるのは人間じゃなくて魔物よ。
人間はあくまで魔物に抵抗するために、マナの力を借りて対抗しているだけ。魔物さえいなければ争いなんて起こらないわ」
「黙れぇぇ!!」
姉さんの言葉に、デウスは叫びながら反論する。
「何故貴様らは魔物を悪だと決めつける!?
貴様らが魔物を殺さなければ、共存出来たとは思わないのか!
いいや、思うまいよ! 何故なら人間は、自分達の種族こそこの世界の支配者だと自惚れているからだ!!」
デウスはそう言って、再び姉さん達を睨みつけた。
「……はぁ」
デウスの発言の難解さに、思わずため息が出てしまう。
「……なんだ、そこの勇者。言いたいことがあるなら言ってみろ」
……やば、聴かれてしまってた。
「えーと、じゃあ……」
僕は咳払いをして気を取り直すと、デウスに向けて言った。
「僕達は、ここまでの旅で沢山の魔物と戦ってきた。
当然、沢山の魔物を倒して命を奪ってきたしそこは否定しない。だけど、一方的に魔物を狩ってるわけじゃない。例えば、ゴブリン討伐だって、何の理由もなくするわけじゃない。
村や街の食料や家畜を荒らされ、場合によってはゴブリン達に人命を奪われた事例があるからだよ。既に事が起こってから依頼されるケースだってある。
だからこそ、それ以上に被害が拡大しないように、冒険者が討伐に向かう。魔物にも理由があるのかもしれないけど、侵略されてるのは人間側だよ」
「何を言うかと思えば、今更被害者面か!!」
「被害者面……それは侵略する側が言う言葉じゃないね」
自分なりの考えを言ったつもりなんだけど、曲解されてしまったようだ。
「レイ、こいつに正論をぶつけても無駄ですよ」
エミリアはバッサリと言った。
「そんな子供でも分かる当然の理屈をこいつは理解しようとしない。
コイツの思考は簡単ですよ。『自分がそう思うからそうに違いない』としか思ってないのでしょう。だからこそ、私達が何を言おうと聞く耳を持たない」
「(確かに、コイツとまともに会話が出来る気がしない)」
彼女の意見に、言葉には出さないが同意する。
「……エミリアの言うとおりね。これ以上は時間の無駄よ」
カレンさんは、そう言って、デウスに剣を向ける。
「お喋りはここで終わり。
悪いけど、私達は暇じゃないからアンタといつまでも妄想ごっこを続ける気はないの。やる気が無いなら今すぐ逃げ帰りなさい。これ以上、下らない妄言を続けるなら今度こそ殺すわ」
「……クッ、戯れ事を!」
デウスは怒りの形相を浮かべて、黒の剣を構え直した。
「魔王様に授かりしこの力! 貴様らに防げるものか!
見せてやろう、魔王様の力と、私の研究の成果! この身を以って、その目に焼き付けるが良い!!」
デウスは叫ぶと同時に、両手の黒の剣を自身の胸に突き刺した。
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