第369話 突然エンカウントしてくる魔物
建物内に入っていくと中にも魔物が既に入り込んでおり、
参加者たちが必死に魔物を押し留めていた。
「助けに行こう!!」
僕達は彼らに加勢しながら、目的地の訓練所を目指す。
魔物を退けつつ途中で背負ったネルソンさんを救護室に預ける。
そして、彼を医師に任せて、僕達は訓練所を目指す。
しかし………。
「こ、これは……」
「中の人達は無事でしょうか?」
訓練所は戦いの余波を受けたのか壁が崩れ落ちており焼け焦げていた。
僕達は、壊れた瓦礫を退かして、強引に中に突入する。しかし、そこには、避難してきたはずの民間人は残っておらず、陛下とカレンさん、それにサクラちゃんの三人だけだった。
「レイ君!!」
「良かった、皆さんも無事だったんですね」
最初、魔物が入ってきたのだと思ったのだろう。カレンさんとサクラちゃんは、陛下を庇うように前に出て剣を構えていたのだが、僕達の姿を確認すると安心したような表情を浮かべる。
「良かった……カレンさん達も無事だったんだね」
安堵した表情を浮かべる僕らだったが、まだ状況が分からない。
何故、彼女達だけがここにいるのだろうか。
「ここに観客の人たちが避難してるって聞いたんだけど……」
「大丈夫。ここに避難してきた民間人たちは、転移魔法で避難させたわ。
四人はここまで来たから知っているだろうけど、残りの戦える者達はコロシアムに集結している。残っているのは私とサクラと……陛下だけよ」
カレンさんは、一瞬、目線を陛下に移したがすぐにこちらに向き直る。
僕達は、その言葉で状況をようやく把握出来た。
「なら、後はここの魔物達を片付けるだけだね」
「んー、そうですね。でも王都の外も魔物の侵攻に遭っているかもしれません」
「それなら急がないと!」
僕達は急いで外に出ようとするのだが、カレンさんに止められる。
「落ち着いて、陛下の情報によると近衛騎士団がじきに帰還するという話よ。そうすれば、王都内の住民の避難が完了するまでの時間稼ぎくらいは十分出来るはず。今は、私達のやるべき役割を果たしましょう」
「先輩の言う通りです。
相手の狙いは王都もあるでしょうが、元々はグラン陛下を狙ってきたはずです。
なら、ここに陛下がいる以上、必ず敵はこちらに―――」
カレンさんの言葉に付け加える様に、
サクラちゃんは何か言うとしたのだが―――
最後まで言い切る前に、周囲に轟音が鳴り響いた。
「な、何!?」
「建物の中で、爆発でもしたのか?」
と、僕が言った直後、今度は地面が大きく揺れ動く。
「なっ、なんだこれ……地震か……!?」
立っていられないほどの激しい振動だ。僕は咄嵯に姉さんを抱き締めながらその場に伏せる。
そして、地響きが酷くなり、それが頂点に達した時――――
―――ドッゴオオオオオオオオオオ!!!!
なんと、訓練場の地面が大きく割れ、そこから得体の知れない魔物が飛び出してきた。
「ちょっ、何こいつ、魔物!?」
「は、初めて見る魔物ですね……」
その魔物の外見は、見た目はミミズのような化け物だった。
だけど、その大きさは尋常ではない。体長は十メートル程あり、体表は赤黒い鱗で覆われていて、頭部には二対の大きな角が生えている。そして、一番特徴的なのはその胴体部分。
まるで、大蛇のように長く太い胴回りをしており、そこに大量の触手のようなものが生えていた。
「……き、キモ……」
サクラちゃんが、気持ち悪そうな顔で呟く。
確かに、見た目は最悪な魔物である。
「こいつはおそらく『ジャイアントワーム』よ」
カレンさんは魔物の正体に気付いたのか、そう言った。
「ワーム? 聞いたことのない名前ですけど……」
「この魔物は地中に住む魔物で、滅多に地上に出てこないわ。だけど、見た目通り物凄く大きくて、村一つを壊滅に追い込むくらいに危険な存在よ」
僕達は彼女の説明に頷いて、
武器を構えて背後にいるはずの陛下に向けて言った。
「陛下、一旦下がってください!! ここは僕達に任せてください」
「……」
陛下は無言で後ろに下がり、僕達が前に出る。
「それで、こいつは何が弱点なの、カレンさん?」
「弱点? ……やっぱり、光とか炎かしら? 本来、地中にいるはずの魔物だから」
そういうことなら僕よりも皆に任せた方が良さそうだ。
僕は、エミリアと姉さんの方を振り向いて話す。
「二人とも、僕達がこいつを抑えるから、二人は攻撃魔法でお願い」
炎魔法も光魔法も、僕はあまり得意じゃない。
彼女達二人に攻撃を任せた方が確実だろう。
「了解」
「分かった。お姉ちゃんたちに任せて」
二人は、僕の言葉に頷いて魔物から少し距離を取って詠唱を始める。
「それじゃ、カレンさんとサクラちゃん。一緒にこいつを抑えよう。レベッカは弓でサポートお願い」
「畏まりました」
僕は、魔物の正面に立って剣を構え、レベッカは<限定転移>で弓を取り出す。
「お喋りはそこまで、来るわよ」
カレンさんは、剣を中段に構えて、サクラちゃんも両手に短剣を構える。
そして、遂に、ワームの魔物が動き出した。ワームは、穴の中からズルズルと身を乗り出し、その長細い身体を伸ばしてこちらに一気に突っ込んできた。
魔物は口と思われる部分を開け、僕達を飲み込もうとする。
「てやあああっ!!」
その侵攻を妨げるために、僕は敵の正面に出て剣でガードを行う。
「くっ……」
巨体に恥じないその力に押されながら、
僕はレベッカの強化魔法で何とか持ち直す。
魔物の口の中は、沢山の牙のようなものが生えており、ドロドロの粘液が垂れていた。
粘液は粘着性があるようで、僕の剣は奴の粘液に引っ付いて中々離れない。
しかも、嫌なことにワーム本体も僕に圧し掛かってくる。
「ぐっ、離れろ!」
僕は力を込めて、無理やり押し返そうとする。
そこに、魔物の真横から複数の矢が飛んできて、その長細い身体に突き刺さる。
魔物は、その痛みで仰け反り、僕はようやく解放された。
「レイ様、援護します!」
「ありがと、レベッカ」
彼女にお礼を言って、再び魔物の様子を伺う。
「サクラ、私達も行くわよ」
「はい、先輩っ」
カレンさんは大きく跳躍し、魔物に飛び乗って頭の部分に剣を食い込ませる。
そして、サクラちゃんは、魔法で援護を行う。
「―――さぁ、炎の精霊さん。私に力を貸してね。
彼女は、両手に持った短剣を交差させると、
そこから炎の渦がが出現し、魔物目掛けて拡散して四方から魔物を中心に炎が飛び出す。
「グオオオオオッ!!!」
魔物は、先程の倍くらいの音量の鳴き声を上げて暴れ出す。
しかし、カレンさんが頭にしがみついているため思うように動けない。
「ちょっ、あんまり暴れないで!!」
カレンさんも必死に魔物にしがみつこうとするが、結局魔物に振り落とされてしまう。
上手く着地に成功したカレンさんと入れ替わるように、今度は僕が魔物の胴体に横から斬り込む。
「――てぇい!!」
ズバッ! という音と共に、斬撃が通り抜けていく。
しかし細長い見た目の割に、外殻は固くて大してダメージを与えられない。
魔物は攻撃を行った、僕目掛けて顔を突っ込ませて攻撃してきたが、それを背後にステップを踏んで何とか回避する。同時にレベッカが弓によるけん制を行い、魔物の追撃を防ぐ。
「姉さん、エミリア、まだ!?」
僕は背後の彼女達に振り返って、声を上げる。
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえますよ、っと!」
エミリアは、空中に大きな紅い魔法陣を出現させる。
「少し時間が掛かってしまいましたが行きますよ!
彼女が魔法名を告げると魔物目掛けて灼熱の炎が押し寄せる。
その威力はさっきのサクラちゃんの炎魔法の数倍を軽く超える。
魔物に直撃すると凄まじい爆炎と魔物の悲鳴が上がり、魔物の顔の半分を焼き尽くしていた。
「さて、後は任せましたよ、ベルフラウ」
「オッケー、こっちも準備完了だよ♪」
姉さんはエミリアに返事をして、魔法を発動させる。
「
姉さんの杖から閃光が解き放たれ、一直線に魔物に向かっていく。
そして、魔物の中心を貫くと、光の柱となって天高く昇っていく。
「これで、終わりっ」
姉さんがそう言葉を紡ぐと、
光の柱がどんどん細くなっていき天に昇っていった。
魔物は完全に浄化されたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます