第368話 凡ミス救世主
観客席に向かうと、そこには沢山の闘技大会の参加者と魔物達が戦っていた。
形勢はかなり不利だ。魔物達と戦ってる参加者の実力自体は参加者たちの方が上なのだけど、数の上で劣勢になっている。
観客達を守るために彼らは必死に戦っているのだけど、
魔王軍側の数が多すぎて押し込まれている。
「まずいな……」
かなりの数の魔物を既に仕留めたようだけど、それでも襲い掛かる魔物達に苦戦を強いられている。何より、観客の人達の存在が足を引っ張っている。
「ひぃぃぃぃぃ!! 誰か、助けてぇぇぇぇ!!」
「あれは!!」
すぐ近くで、観客と思われる人達の悲鳴が聞こえた。
急いでその場に向かうと、家族連れの観客数人が魔物に取り囲まれていた。
「
鞘から聖剣を抜いて、そのまま魔物達に向かって駆けていく。
聖剣の力を開放し観客達に襲い掛かっている魔物数体を一気に斬り飛ばす。
「グガァアッ!? な、何者!?」
突然現れた僕の姿を見た魔物達は、明らかに動揺する。
「ここは僕が引き受けます!!」
「きゅ、救世主様っ!!」
「えっ?」
タイミングよく助けに入った僕に対して、
家族連れの人達は、突然助けに入った僕に向かってそう言った。
「(救世主様って……)」
そんな大げさな、と思いながら彼らの前に立って魔物達と対峙する。
「こいつ、あのネルソンとかいう人間に殺されてたはずじゃ……!?」
「まさかあいつが負けたっていうのか!?」
この魔物達も計画を知っていたようだ。
ネルソン選手の凶行と連動して動いてたのは間違いなさそうだ。
「……なんだろ、こいつら、悪魔かな?」
その姿は、今まで目撃したアークデーモンやレッサーデーモンと少し違う。どちらかというとキマイラのような合成生物に近い姿だ。
もっと言えば、キマイラとデーモンを融合させたような姿にも見える。
「何でもいいか……ネルソン選手を操ってた影はもう倒したよ。
キミ達が計画してた作戦はもう破綻してる。逃げ帰るか、この場で僕に倒されるか、どっちを選ぶ?」
「……調子に乗るんじゃねぇぞクソガキッ」
僕の挑発に、目の前の魔物は怒りの形相を浮かべ同時に襲い掛かってくる。
「……魔物は怒りっぽくて助かるよ」
僕はため息を付きながら飛び込んできた魔物達を迎撃する。聖剣を振るう度に次々と魔物の身体を真っ二つに斬り裂いて、魔物達を昇天させていく。
「こ、こいつ強すぎだろ!!」
「引くぞ、お前ら!!」
こちらの強さを見るや否や、魔物達は逃げていった。
「呆気ないなぁ……」
『魔物にとって聖剣は天敵、知性のある魔物ほど聖剣に恐怖を抱く』
と、蒼い星は僕の呟きに反応して言った。
「へえ、そうなんだ」
僕は聖剣と話しながら後ろを振り返った。
そこには、先ほどの家族連れの人達が僕を見つめている。
「あ、ありがとうございます!! おかげで命拾いしました!!」
「い、いえ。……無事でよかった」
「本当に助かりました。貴方は我々の救世主です!!」
「……救世主なんて大げさですよ」
僕は苦笑いしながらそう言った。
「それにしても、闘技大会参加者の方……ですよね?
お名前、お聞かせください」
「レイです。サクライ・レイの名前で登録してます」
「えっ?」
僕が名前を告げると、彼らは顔を見合わせて困惑し始める。
「(……あれ? 様子がなんかおかしい)」
「あの、その名前の方って『鋼鉄姫』のレイ様ですよね。
確かに、少し似ていますが貴方様は男性の姿に見えますが……」
「………あ、しまった」
今、自分が男の姿に戻ってることを完全に忘れてた。
『――ケアレスミス、または、凡ミス』
聖剣から鋭い突っ込みが入った。はい、凡ミスです。
「あ! えっと、僕は用事を思い出したので失礼します!!
ここは魔物が多いので何処かに避難しててくださいね、それじゃ!!」
「あっ、ちょ、ちょっと待っ」
これ以上ボロが出る前に、僕は慌ててその場から走り去った。
その後、立ちはだかった魔物達をなぎ倒しつつ、仲間がいる場所まで向かう。仲間が無事な姿を確認したいのと、現状確認が目的だ。
そして、エミリアとレベッカが、
背中を合わせて多数の魔物と対峙してる姿を捉えた。
「エミリア、レベッカ!!」
「レイ!?」
「レイ様、ご無事で!!」
二人は僕の姿を見ると、少しほっとした表情を浮かべる。
「僕も手伝うよ、一気に叩こう!!」
聖剣を再び構えて僕は走り出し、
魔物の背後から一気に斬り裂いて一度に数匹の魔物を消滅させる。
「お、やりますね。私達もレイに負けてられませんよ、レベッカ」
「ふふ、そうでございますね。では、参りましょうか、エミリア様」
二人は顔を見合わせ、魔物に向かっていく。
そして、二人と協力しながら十数体のキマイラ型の魔物相手に交戦を開始した。
◆
それから数分後、無事に魔物達を倒したボク達は、ようやく落ち着いて話をすることが出来た。
「二人とも無事で良かったよ」
「レイこそ、随分苦戦してたみたいじゃないですか」
「わたくし達は何とか大丈夫でしたが、観客の方々がかなり危険な状況に陥っていましたので、そちらの対応に追われていました。特に、小さな子供を抱えた家族連れの方々が多かったので……」
「その人達はどうしたの?」
「一階の訓練所まで誘導して避難させています。今ここにいない参加者たちも、彼らの護衛をしながら魔物と交戦してると思いますよ」
「カレンさん達や陛下は?」
「一緒ですよ。陛下も訓練所の方に避難しているはずです」
「そっか、じゃあ僕達もそこに……って、思い出した! 姉さん見なかった? 怪我したネルソンさんと一緒にいるはずなんだけど」
「ああ、ベルフラウですか。確か……」
と、エミリアが言い掛けたところで、
誰かがコロシアムからこちらに向かって飛んできた。
「こっちにいるわよ、レイくん!」
飛んできたのは、ネルソンさんを抱えた姉さんだった。姉さんは僕達三人がいる場所のすぐ近くになったベンチまで飛んできて着地し、ベンチにネルソンさんを寝かせた。
僕達は姉さんに駆け寄っていく。
「姉さん、彼はどうだった?」
「傷はもう十分に塞がったわ。だけど……」
姉さんは、横たわっているネルソンさんを横目にしながら、申し訳なさそうに言った。
「魔物に精神を侵されてるせいか、すぐに意識を取り戻す様子が無いの。それに、右腕は……」
ネルソンさんの右腕は、聖剣で斬り落としてしまった。魔物の侵食を止めるためとはいえ、僕も彼に酷いことをしてしまったのを今更ながら自覚してしまう。
「でも、レイくんが彼の右腕を除去したお陰で、彼は完全に魔物化せずに済んだのよ。右腕は肘の辺りから無くなってしまったけど、命には代えられないものね」
「……うん」
「今からどうします? まだ、ここにも魔物と戦ってる人たちが沢山居ます。彼らと協力して掃討しますか?」
僕達はこの闘技場内全体を見回して、周囲の様子を確認する。
確かに、今も多くの参加者たちが戦っていた。観客達の避難は順調に進んでいたようで、さっきよりも人が減っている。
「そうしたいけど、訓練所の方も気になる。
でもここを放置するわけにもいかないよね……」
僕が悩んでいると、エミリアは奥の方を指を指しながら言った。
「どうやら少しずつ状況が良くなっているようですよ、レイ」
「え?」
僕はエミリアに促されて、そちらを見ると、自由騎士団の面々と合流した、アルフォンス団長が協力して魔物と掃討に乗り出していた。
「いくぞお前ら!!! こんな雑魚共に後れを取るなよぉぉぉ!!」
「「「「おおー!!」」」」
彼らは勢いよく駆け出して魔物達の集団へと向かっていく。
その様子を見て、僕は言った。
「団長がいれば安心かな……。
よし、それじゃあ僕達四人で訓練所に向かおう」
「レイ様、この方はどうします?」
レベッカは、話しながら横たわってるネルソンさんを見る。
「放っておくわけにもいかないし連れていこう。
近くには救護室もあるし、そこに人がいれば彼を任せられる」
「分かりました。では、行きましょう」
エミリアとレベッカが先導する様に前を歩いていく。
僕は、ネルソンさんを背負いながら二人の後を追う。姉さんは背後に、魔物が迫っていないか警戒しながら観客席を降りて、四人で訓練所に通ずる建物の中に入っていった。
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