第365話 VS 闇落ち戦士
「うおおぉっ!!」
ネルソン選手は雄叫びを上げながらこちらに一直線に迫ってくる。
その勢いは予選の時とは比較にならない。
本戦に出場してた他の参加者と比較しても、
間違いなく上位に入る身体能力で一息でこちらに迫ってくる。
「……」
ボクは聖剣を両手に構えて彼を迎え撃つ。
――ガキンッ!!
激しく彼の黒の剣とボクの聖剣がぶつかり合い、攻防が繰り広げられる。技術というよりは彼の剣は力押しの印象はあるものの、現状はボクと彼の剣技とほぼ互角に渡り合っている。
剣での押し合いを避け、ボクは身を躱して彼の懐に入る。
「たあっ!!」
「ちっ!」
ボクが距離を詰めたと同時に、彼は一歩引いてこちらと距離を取る。
「
そのまま彼は自身を巻き込む形で雷魔法を放つ。
「っ!」
この魔法は威力はそこまでないけど、動きを止められてしまう。
即座に、彼から離れて何とか攻撃範囲から逃れる。
「ちっ、逃げられたか……!」
「(まさか自爆覚悟で魔法を使うなんて……)」
以前の彼と比較して、攻撃力も魔力も格段に上がっている。
しかも、自分を巻き込んで魔法を使った割にダメージをほとんど受けていないようだ。
「おらぁっ!!」
ネルソン選手は叫びながら連続で斬りつけてきた。
「くぅっ!」
ボクはそれを捌きつつ反撃の機会を窺う。
同時に、彼の顔を伺いながら心情を探ってみる。
「どうした、手も足も出ないか!?
散々挑発してくれた割には大したことないな!!
「!!」
彼は剣を大きく振りかぶり、巨人もかくやと思うほどの激しい剣圧でボクを吹き飛ばす。その一撃をガードしながら、両脚に力を込めて地面を踏みしめる。そして、吹き飛ばされながらも空中で身体を回転させ、体勢を整えてから着地する。
「食らえっ!!
彼の手の平から電撃が集まり、こちらに解き放たれる。
予選の時と比較して、その威力は段違いに高い。
「
その攻撃を、聖剣の力の一端を解放して剣で受け止める。
強烈な電撃を受けた聖剣だが、開放された聖剣の力により効果を打ち消される。
「くそっ、また簡単に防ぎやがったか……」
「言うほど簡単でもないんだけど……」
威力が格段に上がっていたので以前の防ぎ方では難しい。
聖剣に魔力を注いで一時力を解放した余波で魔法を防いだのだ。
「でも……」
彼と真正面からぶつかり合って、疑念を感じていた。
「(本戦の時と違う……)」
本戦の時はあり得ない能力で選手を圧倒していたのだけど、
今対峙している彼はそこまでの強さを感じない。
確かに、予選の時とは段違いの能力ではあるのだけど、
以前の彼と比べて動きに磨きがかかって洗練されているような印象だ。
純粋に魔法戦士としての技量が上がっている。
そこには邪悪さが殆ど見られない。
昨日までの彼とはまた別物に思える。
「(変な感じ……今の彼は
あの時の禍々しい雰囲気が無い分、今の彼は真っ当な戦士に思える。
もしかして、正気に戻った?
「(今なら言葉も通じるんじゃないかな?)」
そう思い、ボクは彼に話しかけてみる。
「ネルソンさん、驚きました」
「なに?」
ボクの言葉にネルソン選手は眉間にシワを寄せた。
「さっきまでのネルソンさん、まるで幽鬼みたいでしたよ。
何が理由かは分かりませんが正気に戻れたみたいで良かったです」
「正気、だと? 一体何を言っている。おれは自分の意思で―――」
と、彼は途中で言葉を途切れさせる。
すると、何があったのか突然頭を抱え始めだした。
「……っ!! な……何だ、この声は………!!」
彼はブツブツ言いながらも、耳を塞ぐように両手で頭を掴んでいる。
「……?」
様子がおかしい彼にボクは疑問に思う。
「……? どうかしましたか?」
「う、うるさい………!! 黙れ、俺は別に殺したいわけじゃ―――!!」
「(……誰に言っている?)」
ボクに話しているわけでは無さそうだ。
彼はボクの後ろを鬼気迫る表情で見ながら呟いている。
ボクの後ろの観客席だ。
当然、観客席の誰かが彼に何かを言っている様子はない。
「やめろ、やめろ!!! 俺はそんなことを望んでいないっっ!!」
彼は身体を酷く震わせながら、大声で叫ぶ。
その様子に、観客の人達が困惑し始める。
「おい、あいつ大丈夫なのか……?」
「急に叫び出したぞ」
「何かあったのかな」
「(これはマズいかも)」
彼は明らかに幻覚か、それか目に見えない何かに脅されている。
原因は彼の持つ<黒の剣>だろう。
あの剣は人に力を与えるだけでなく魔物に変える力がある。
何とかして彼からあの剣を引き剥がさないと。
だけど、それを彼に大声で伝えてしまうと観客に混じった魔物達に気付かれてしまう。なんとか実力で彼から剣を引き剥がすしかない。
「仕方ない。行きますよ、ネルソンさん!!」
こうなれば強引に彼から剣を引き剥がす。
そう思い、ボクは彼に向かっていく。
すると、彼はびくりと動きを止める。
「―――?」
不穏な感じはするが、彼が動きを止めるなら好都合だ。抵抗しないのであれば、彼を傷付けることなく彼から剣を引き剥がすことが出来る。
「はぁぁぁ!!」
彼に一気に距離を詰め、聖剣を振り上げる。
狙いは彼の右手に持つ<黒の剣>だ。
聖剣の力でそのまま彼の剣を叩き下ろそうとするが―――!
その瞬間、彼の身体が暗闇に包まれる。
「や、やばっ!!」
ボクは咄嗟に横に跳んで回避するが、その暗闇は彼の身体から離れボクに向かって襲い掛かってくる。暗闇は人の姿を成して、動こうとしないネルソン選手と対極的に、ボクに攻撃を仕掛けてくる。
「(間違いない、魔王の影だ!!)」
こうやって戦っていると、以前に戦った威圧感と同じ物を感じる。
影は腕の部分を爪のように伸ばして襲い掛かってくるが、それを剣で受け止めて反撃を試みる。しかし、影はこちらの攻撃をひらりと躱して、足元の石の床に入り込む。
そして、床下を通ってボクの背後に回り込んで、両腕をカギ爪のような形に変える。
「
ボクは即座に後ろに振り向き、影に向かって風の魔法を放つ。すると、影は霧散し、その影はネルソンさんの身体に戻っていく。そして、本戦の時のように彼の周囲に黒いオーラを纏う。
「(これは、まさか……)」
嫌な予感がした。
その予想を裏付けるように、彼は目を見開く。
「お、お前を…………」
そして、彼は手に持った剣をゆっくりと構えた。
「お前を殺せば………!!」
彼は憎しみを込めた瞳でボクを睨む。
その眼付きはさっきまで戦っていた彼とは別物だった。
そして、彼の黒の剣から漆黒のオーラが濁流のように勢いよく放たれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます