第362話 幕間2

 その日の深夜―――


 一部の闘技場参加者は秘密裏に通達があった。

 彼らは理由を聞かされておらず、闘技大会運営を名乗る人物から書状を渡された。


 その書状にはこう書かれていた。


『闘技大会に参加し、惜しくも敗れた強者よ。

 キミ達の力を借りたい。もし可能なら今宵、王都の〇〇〇〇〇に来られたし。

 この書状は、王都イディアルシークの王、グラン・ウェルナード・ファストゲートの直筆である』と。


 陛下直々の呼び出しの手紙であった。

 この国の王が、自分達のような者達に何を頼もうというのだろうか?


 当然疑う者も多かった。

 しかし、この手紙には国の最高権力者たる王の署名と印が押されていた。仮に偽造であるとするなら、これほどまでに手の込んだ偽造をする必要があるのだろうか?

 そんな疑問も浮かんだが結局は断ることも出来ず、指定された場所に向かうことにした。


 その場所とは――


 大会参加者の一人の男性は、王都にある森林公園を歩いていた。

 彼は、今から30分程前に、この国の王の名前が書かれた封筒を渡され、指定の場所に来るように言われたのだ。


「……ここで良いんだよな?」

 不安げに呟きながらも、男性は歩く。しかし、夜も更けたこんな場所に、自分のような予選敗退した参加者に何の用があるのだろうか?


 だが、どれだけ歩いても誰もおらず、彼は周囲を見回しながら歩き続けた。


「もしかして、誰かの悪戯か?」

 と男性が思った瞬間、突然、彼の足元が光り輝いた。


「な、何だっ!?」

 突然の出来事に、驚く彼だったが、

 数秒後、彼はその森林公園から姿を消していた。



 ―――また、別の場所では。


「こんな時間に陛下が直々に私を呼びだすとか、どうなってるのかしら」

 彼女もまた、闘技大会に参加し、惜しくも二回戦で敗退してしまった女性であった。ある理由からこの大会に参加したのだが、その結果は残念なものとなってしまった。


「はぁ、賞金貰えるから最終日までいるけど……早く帰りたいわぁ……」


 ボヤきながら、書状に指定された場所へ向かう。

 彼女の書状には『王都の中層部・繁華街』と書かれていた。


「ここよね?」

 そこは、様々な店が建ち並ぶ繁華街の一角だった。

 人通りは少なく、街灯も少なく薄暗い。


「あー……嫌な予感してきたわ……」

 彼女はそう言いながら、周囲を見回す。そして、しばらく歩いていると、どうやら自分と同じ参加者らしい人物がうろついており、彼女の見るなり走ってきた。


「おい、あんたももしかして呼ばれたのか?」

「それを知っているって事は、……もしかして、貴方も、この書状を?」


 そう質問聞くと、男は首肯する。


「ああ、そうだ! ここに来るように言われてきたんだが……」

 彼は周囲を見渡す。

 時間が遅いからか、周囲の明かりは殆ど無く、この場にいるのは二人だけだった。

 そして彼女らは二人で、自分達以外に呼ばれた参加者たちを探す。


 しかし―――


「足元が……!!」

「え、なにこれ? 魔法陣!?」


 二人は突如として現れた光の輪によって、その場から姿を消す。

 このように、王都内のあらゆる場所で、同じような光景が繰り広げれられていた。


 ◆


「―――陛下」

「ん……なんだ?」


 グラン陛下は、自室で住民一人一人の情報を纏めた書類を読んでいた。

 そこに、何処かで見たような緑の魔道士の女性が部屋に入ってくる。


「失礼します。……住民の受け入れ先の交渉と準備が終わりました」


「そうか……御苦労……大変だっただろう」


「えぇ……流石に王都民全てというわけにはいきませんでした。それでも、いくつかの村や町に分散して、王都民の過半数は受け入れられてもらえるかと思います。ですが1日が限界かと」


「当然だな。それだけの人数を匿うだけの施設と食料など用意できるものじゃない。

 いくら日頃から支援金を出しているとはいえ、相当な無茶な要望なのは自覚している。……しかし、よくぞこれだけの人員を受け入れてくれたものだ」


「この国は広いですからね。

 それと、魔法都市の協力を得られたのが大きかったです」


 その報告を聞いて、陛下は手を止めて彼女の方を向く。


「……魔法都市エアリアルか……まさか、あの国の協力を得られたと?」


「条件付きですがね。……彼らに会わせろという話でした。

 あの国は宗教国家でもありますから、女神に選定された勇者に思うところがあったのでしょう」


「……そうか、彼らに無許可で交渉材料にしてしまったことになるな」


「今は仕方ないでしょう。王都民の命と引き換えには出来ませんから」

「………」


「陛下?」

「あぁ……すまない。少し考え事をしていた。それで、その条件とは?」


 女性は資料を見ながら答える。


「今期の勇者であるサクライ・レイ、及び、サクラ・リゼットの二名。

 この二名を魔法都市の祭典に参加させること、これがまず一つ目の条件です」


「……二つ目は?」


「はい。……陛下の聖剣の返却を求めております。

 あの剣は我ら魔法都市の所有物だと、彼らは主張しています。もっとも、こちらはすぐに答えは出せないと回答を引き伸ばしにしていますが」


「……勝手なものだな」

 陛下は、無表情になって呟く。


「……やはり、あの都市に協力を求めるのはお気に召しませんでした?」


「気に入らん……が、あの国くらいしかこれだけの人数を受け入れられる場所はないだろう。……分かった、その件については、こちらで検討しよう」


「お願いします。それと、もう一つ。彼らの招集が完了しています」


「そうか。では、向かわねばならんな」

 陛下は席を立ち、王家の象徴であるマントを羽織る。


「……ふふ、やはりそのお姿ではあまり似合いませんね」


「笑うのは止めろ。自覚している」

 陛下は、明らかに無礼である彼女の言葉にも気にした様子がなく、苦笑しながら返事を返す。


「……ところで、彼らの中に魔物共は混じっていなかったか?」


「選別は既に完了しています。

 彼らを転移した直後に、私の弟子二人が処理しました」


「なら、良い」

 そして、二人は部屋から出ていった。


 ◆


 場面が変わって、王都内の宿にて。


「カエデ、聴こえる?」

 僕、レイは自身の所持する<契約の指輪>に呼び掛ける。

 そして少ししてから彼女の声が聞こえる。


『……桜井くん!? どうしたの?』

「良かった……初めてだったけど、ちゃんと繋がったね」


 通信先の声の主は、カエデ。

 元の世界では、椿楓という名前の少女だったが、こちらの世界に転生した際に竜の姿となってしまった、色んな意味で凄い子だ。


「カエデ、身体の調子はどう?」

『うん、魔力が戻ったおかげか以前と同じくらいの大きさに戻ったよ。今なら全力全開であの必殺技も使えると思う』


「それは頼もしい。

 カエデの協力が必要なんだ。実は、明日なんだけど―――」


 僕は、彼女に自分の知りえる情報を彼女に伝える。


『えぇ!? ま、魔王軍が王都に攻めてくるの!?』


「うん。そして、奴らは王都内に潜んでいる。

 奴らは外からも応援を呼んで王都に攻め込んでくる。ボク達は王都内に潜んでいる敵を相手にするだけで手一杯になると思うから、カエデは外から攻めてくる敵を相手にしてほしい」


『え!? 私一人で!?』


「ううん、そうじゃないよ。

 ボク達とは別に、王宮の騎士達や他の闘技場の参加者の皆が王都の外にいるからね。カエデは彼らに協力してあげてほしい」


『それは構わないけど、私が急に出てきたら驚かない?

 今の私、雷龍だよ? 他の人から見たら魔物と同じように見えると思うんだけど』


「その点も大丈夫、陛下に君の事は伝えてあるから」


『陛下? 桜井君、王様と知り合いなの?』


「色々あったんだよ。今の僕は一応、自由騎士団の所属の騎士って形になってるんだ」


『き、騎士様……かっこいい……!』


 カエデが乙女モードになってる。

 まぁ、元は女子中学生だから仕方ないけど。


「とにかくそういうわけで協力お願い。

 陛下にはウィンドさんを通して伝えてあるから、騎士の人たちに攻撃されることは無いはずだよ」


『わかった、任せて』

 元気の良い返事を最後にして、彼女との連絡を終えた。


「話は終わった?」

 カエデとの話が終わったところで姉さんが話しかけてきた。


「うん、協力してもらえた」

「良かった。これで準備万端かしら?」

「そうだね。あとはもう明日、上手くいくことを祈るしか」


 ここまでくると僕達は明日に備えて休むだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る