第359話 キャラ崩壊しつつある女神様
試合が終わり、
ボク達は怪我をしていたので救護室に案内された。
そこには――
「はーい、二人ともお疲れ様ー」
「……」
「……」
そこにはナース姿のコスプレをした、元女神様。
………もとい、ボクの姉のベルフラウが待っていた。
「……お姉ちゃん、その年でその恰好は痛いよ」
「なっ!?」
ボクが呆れ気味に言うと、彼女は驚愕していた。
驚愕したいのはこっちの方だ。
「うぐぅ……。レイくん、酷いよぉ。
私がせっかくコスプレまでしたっていうのに!!」
「……そもそも、なんでこのタイミングで登場したの?」
「え? だって、私はもう試合に出ないから。それに、前言ったでしょ? お姉ちゃん、選手さん達が怪我した時の為に怪我の治療をするって。ちゃんと運営さんにも許可は貰ってるわ」
「あー、そんなこと言ってたような……」
もっと、正確に言えば、選手の中に怪しい人物が混ざっていないか探るためだけど、今はその話をすることはないだろう。
「さ、二人とも、怪我してるんでしょ? 見せて」
姉さんに、そう急かされて、ボクとレベッカは顔を見合わせ苦笑する。
――そして、10分程して怪我の治療をしてもらった。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ベルフラウ様、ありがとうございました」
ボクとレベッカは、畳んでいた服を着直し、装備を身に纏う。
「それにしてもお姉ちゃん、平気?
もし、その……選手が暴れたりしたら、危ないんじゃない?」
いくら姉さんでも、魔王軍のスパイに不意打ちされた危険だ。
「それなら大丈夫、アルフォンスさんが人を送ってくれたの」
「人?」
と、ボクが訝しんでいると―――
「ベルフラウお嬢さん、こっちの資材はどこに運べば?」
と、鎧を着た男性が奥の部屋から、
50センチくらいの中箱を手に持って歩いてきた。
「あー、ありがとね。そっちのは、解毒剤だから、そっちの薬棚の横の机に置いといて」
「了解了解ー」
そう言いながら鎧の男性は、姉さんの言葉通りに机に箱を置いた。
そこで彼はこちらを振り返り、目が合った。
「……ん? おお、レイじゃないか。そっちは噂の『戦場の巫女』か」
「……もしかして、自由騎士団の、ジュンさん?」
彼は、兜を外して顔を見せた。
「あ、やっぱりだ」
彼は、ジュンさん。自由騎士団の団員の一人だ。
ボクが訓練に参加させてもらった時に、手合わせした一人でもある。
「闘技大会を順調に勝ち抜いているみたいだな」
「あはは、まぁ」
ボクは笑って話す。
「あ、あの……」
レベッカが、ちょっと遠慮気味に手を挙げる。
「ん? どうした」とジュンさんは、レベッカに視線を合わせる。
「あの、今のレイ様がよく『レイ様』だとお気づきになられましたね……」
ん?
「レベッカ、それどういう意味?」
「レイ様は自由騎士団で活動していた時は、『男性』の姿でした。
ですが、今のレイ様は『女性』の姿で闘技大会に参加しております。
ジュン様は何故知っていたのです?」
と、レベッカは言った。
「え、あ……!」
確かに、ボクは今の姿で、彼ら自由騎士団と話したことは無かった。
しかし彼はあっけらかんと言った。
「団長が言ってたぞ。
『あの野郎、女装して闘技大会に出る変態野郎だー!!』って。
ちなみに、自由騎士団は全員お前がレイだって知ってるからな」
「……」
ボクは、絶句した。
――あとで、あの団長を一発殴ろう。ボクはそう心に誓った。
「ところで、どうしてジュンさんがここに居るんですか?」
「ああ、俺はベルフラウお嬢さんの手伝い、兼、護衛だ。
ここに送られた参加者って、負けて荒れてる輩ばっかだからな」
腕っぷしだけは立派な奴が多いからなぁ、とジュンさんは付け加えた。
「あー、なるほど」
と、ボクは納得する。
確かに、この会場には、実力に自信のある人間ばかりだろう。
そんな人間が負けたとなれば荒れることも予想できる。
その後、ボク達は軽く談笑していたのだが、
ジュンさんは、急に思い出したのか真面目な顔をして言った。
「話は変わるが……、あの、ネルソンって選手を団長から監視しろって言われてたんだが、ちょっと様子がおかしいぞ。
廊下の隅っこで動かなくなったと思ったら、ブツブツと独り言言い始めるし、幻覚でも見えてんのかと思ったぜ」
「……」
ボク達は黙り込む。
恐らく、彼は精神汚染を受けているのだろう。
あるいは、もう完全に精神を乗っ取られている可能性もある。
「一応、団長に報告はしておいたけど、大丈夫なのか?」
と、ジュンさんが心配そうに言う。
「うん、ありがとうございます……。それとすみません。少しの間、その人の様子を見ていてください。くれぐれも見つからないように、周りの人を彼に近寄らせないようにしてください。
詳しい理由は言えませんが、今の彼は、とにかく危険なんです」
「それはいいが……あんな奴が参加してて大丈夫なのか?」
「(大丈夫、では無いんだけど……)」
少なくとも、明日の準決勝までは彼に手は出せない。
「騎士団数人が交代で奴を見張ってるから、大丈夫だと思うが……」
―――と、ボク達が話していると、急に部屋の外が騒がしくなった。
何人かの足音が部屋の外から響いてくる。
すると、救護室に何人かの男性が入ってくる。
うち一人は女性で、本戦の出場者だった。彼女は、どうやら意識を失っているようで、ぐったりしており、他の男性が彼女の身体を支えていた。
「おい! 一体何があったんだ!?」
ジュンさんが慌てて彼らに駆け寄る。
「それが……対戦相手の選手に……」
「対戦相手って……」
確か、第三回戦第二試合の彼女の相手は……。
「ネルソン選手……で、ございますね」
レベッカが呟く。
「最低ですよ、あの選手! 彼女が降参をしなかったばっかりに、必要以上に攻撃を加えて彼女が気絶するまで痛めつけたんですよ!」
「なんだって!?」
そして試合後に、救護室に彼女を運び込んだということだった。
ネルソン選手に対して怒りの感情が沸くが、その前に彼女が心配だ。
「とりあえず、お嬢さんをベッドに寝かせてくれ」
ジュンさんの指示に、男二人は彼女をゆっくりと横たえる。
「お姉ちゃん、お願いしていい?」
「任せて……酷い怪我ね……。
特に顔に対して何度も殴ったような跡があるわ……」
姉さんは、彼女に回復魔法をかける。
「レベッカちゃん。彼女の服を脱がせるから手伝ってくれる? 悪いんだけど、男の人は部屋が出てくれると助かるわ……えっと、レイくんはどうする?」
「もちろん出るよ。レベッカ、頼んだ」
「お任せください。それでは後程」
ボク達は、彼女の治療を二人に任せて、救護室を出た。
◆
それから、ボク達は詳しい話を聞いた。
まず、彼女の名前は、フレデリカという女性だそうだ。
勝気な性格で、観客達にも人気があったらしい。
彼女は三回戦で、ネルソン選手と当たり、最初は互角の勝負だったらしいのだが、途中でネルソン選手が豹変し、影のような魔法で彼女を襲った後、そこから一方的な試合展開になったそうだ。
それでも、彼女は降参せずに立ち向かったのだけど、
ネルソン選手はイライラした様子を見せながら、降参しない彼女を徹底的に痛めつけたそうだ。途中で、自由騎士団の団員さんや実況審判のサクラちゃんが止めに入ったことで、事態は何とか収まった。
「闘技大会のルール上、彼の行為は違反行為だと思うんですが……」
ボクは彼女を運んできた男性に質問した。
「それが……、彼女が意地になって降参しなかったため、失格の条件を満たさず、命を奪うような攻撃ではなく、ただ痛めつけるだけの行為だったので、ルールには抵触しなかったようです」
「そんな……」
ボクは、あまりのことに絶句してしまう。
「……団長は、どうした?
あの人なら、そんなことがあったら放っておかないだろ?」
「はい、アルフォンス団長さんは、コロシアムから去っていくネルソン選手を追って行きました。かなり怒っていたみたいで、暴力沙汰にならなければいいですが……」
「そうか……。団長が追っているんなら大丈夫だろう」
ジュンさんは、少し安心した表情になる。
逆に、ボクは彼が心配だ。
もしアルフォンス団長が彼にコロシアムの外で暴力を振るうような事があれば、彼の名声に傷がつく。下手をすれば彼自身もこの大会から失格の処置を受ける可能性がある。
「ちょっと、ボク、団長を探してきます」
そう言って、ボクはアルフォンス団長を探しに行った。
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