第357話 挨拶する、帰ってもらう、滅ぼす=全部同じ意味
二回戦が終わったことで、
一旦選手たちは休憩となり数時間の時間の余裕が出来た。
ボク達は、昨日訪れたレストランで食事をすることにした。レストラン内では闘技大会の映像がスクリーンに流れており、今日もここで観戦できたようだ。
そして食事を摂っていると、スクリーンの映像が切り替わった。
『やぁ、視聴者のみんな!! また会ったのだ、ミミちゃんなのだー!!』
レストラン内に、陽気な少女の声が響き渡る。スクリーンに映ったのは、昨日の夜に、闘技大会の優勝予想をしてたケモノ耳をアクセサリを付けた女の子だった。
「って、またこの子なの?」
どうやら二回戦が終わったことで、また彼女の解説番組が始まるらしい。
『それでは今日もよろしくお願いします、ミミさん』
『分かったのだ! 二回戦も終了したので、今回は二回戦の名勝負を紹介させてもらうのだ!!!』
そのまま司会の女の人と、
謎の幼女ミミちゃんのやり取りが続いていく。
「この子、一体誰なんだろ……」
「謎ですね……」
レベッカと二人で首を傾げていると、エミリアが答えを教えてくれた。
「ああ、彼女は……確か、ミミ・ルシールだったかな。
冒険者ギルドに所属する有名な冒険者の一人娘だとか。本人は自称、天才美少女とか名乗ってるらしいです。歳は、多分まだ十歳くらいじゃないかな……」
「へぇー、そうなんだ……」
ミミちゃんは、自分から天才と言うだけのことはあるのか、
的確に試合の解説をしていた。
主に、彼女は注目のシーンを後ろに流しながら、
彼女なりの考察をしながら、分かりやすく解説していく。
見た目が幼いわりに、要点は抑えてる良い解説だった。
ただ、毎回語尾に「なのだー」と付ける。
外見といい、美少女というよりは、イロモノ少女感が強かった。
「(こういうタイプもある意味人気は出そうだけど……)」
ボクとしては、レベッカのような清楚で礼儀正しい子が好ましい。
この好みはボクが女だろうが男だろうが変わっていない。
レストランの客は、最初は選手のボク達に注目していたようだけど、ミミちゃんの解説動画が流れ始めて、そちらを注目し始めたようだ。
「……そろそろいいかしら」
姉さんは、ボク達の顔を眺めながら小さな声で言った。
ボク達はそれに無言で頷く。
「<隔離の世>」
姉さんは魔法を発動させる。
使用すれば、周囲にボク達の声が届かなくなる魔法ではあるが、弱点がある。
それは、ボク達に意識を向けている人物が周囲にいれば、その人物に気付かれてしまう可能性があること。
なので、周囲の人がボク達から意識が逸れる瞬間を待っていた。
「……これでようやく話せるね」
ボクはため息を吐く。流石にこんな場所まで魔王軍の手が届いてるとは思わないけど、念には念をだ。
「それで、私達二人が試合してる間、どうでした?」
「何か怪しい人物はいなかった?」
二人はレベッカとボクに質問する。
「彼が二人の戦いを食い入るように見てたよ」
彼、というのはネルソン選手の事だ。ネルソン選手は、完全に魔王軍の手に落ちている状態の為、おかしな行動を起こさないか監視する必要がある。
その役目は自由騎士団の人達がやってくれているけど、
ボク達も警戒することに越したことはない。
「他にも、選手の方々は注目されておりましたが、少し気になった方が一人……」
「どんな人?」
「次にエミリア様が三回戦で戦うことになるお相手です。
お二人が戦っていた時に、かなり熱心に戦いを観戦しておりました」
「なるほど……」
「うーん……」
姉さんは腕を組んで考え込む。
「姉さん、どうかした?」
「えっとね、レベッカちゃんを疑うわけじゃないんだけど……」
と、姉さんは前置きして言った。
「自分が次に戦う相手と分かってたら、相手のことをもっとよく調べると思うの。だから、その人が私達の試合を真剣に見ててもおかしくないかなって」
確かに、それもそうだ。
姉さんの言葉を聞いて、ボクも納得する。
「ですが、一応警戒はしておくべきかもですね。
三回戦まで勝ち抜いてきたということは強敵でしょうし。
ちなみに、レベッカ。嫌な感じはしましたか?」
エミリアのその質問に、レベッカは否定する。
「いえ、ヴィレイオス選手のような邪悪な気配は感じませんでした。
しかし、気配を隠すことに優れているのであれば、わたくしの眼を誤魔化すことも可能かもしれません」
「そうですか……」
エミリアは顎に手を当てて考える。
「……まぁ、戦ってみれば分かるでしょう。
もし魔物だったら、試合後に隙を見てぶっころ……いえ、滅ぼします」
その訂正に何か意味はあるの?
「その時は気を付けてね」
「大丈夫ですよ。レベッカやベルフラウも一人でケリを付けたようですし」
と、姉さんとレベッカを見てエミリアは言う。
「わ、わたくしは、挨拶をしただけなので……」
「お姉ちゃんは、ちょっと帰ってもらっただけだから……」
二人の言い訳感ある言葉を聞きながら、エミリアはボクの方に顔を向ける。
「次はレイとレベッカの番ですね。……二人とも大丈夫ですか?」
エミリアの言ってるのは、三回戦の事だ。
次の三回戦第一試合で、ボクとレベッカが対決することになっている。
こうやって一緒にご飯を食べているのに、
大会では一応敵同士というのは不思議な気分だった。
この後、斬った張ったするとは思えないくらい和んでいる。
「うん、平気だよ」
「わたくしも問題ありません。
それに、今更そんな事を気にしても仕方ないですから」
「ふっ、それもそうですね。
私も相手がベルフラウでも容赦はしませんでしたから」
「むしろ、ちょっとは加減してほしかったの……」
姉さんがボソッと呟いた。
「あ、あれは私も好きでやったわけじゃないですから……」
エミリアは慌てて弁解する。
「うそうそ、冗談よ」
姉さんは舌を出して、エミリアにウィンクする。
と、そこでレベッカが、ボクを見ながら言った。
「レイ様、一つお願いがあるのですが」
「お願い?」
「はい、この後の試合で―――」
ボクは、そのレベッカのお願いを叶えることにした。
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