第349話 必死な女神様と遊んでる魔法使いさん

 それから、ボク達は一旦休憩を挟み食事を摂った。

 その際に男だとバレそうになったが女に戻ったことで事なきを得た。


 そして、ついに姉さんの出番がやってきた。


「さぁ、一回戦も佳境です!!

 次は第十五試合目、対戦相手はサクライ・ベルフラウ選手!!!

 そして、もう一人はザイコ・イヌキ選手!!」


 実況のサクラちゃんの声と共に、試合会場に入場してくる二人。

 一人は当然、ボクの姉、兼、元女神様のベルフラウ様だ。


「そして、あれが、もう一人の相手……」

「えぇ、見た目は剣使いのようですね」


 ザイコ選手は、見た感じ剣で戦う軽戦士のようだ。

 細身の平凡な男性だが、それ以外にこれといった特徴が無い。


「お姉ちゃん、大丈夫かな……」


「大丈夫じゃないですかね。私達がそれなりに指導しましたし……」


「そうですね。それに、この短期間でベルフラウ様はかなり成長されましたから」


「……うん」


 戦闘技能に不足があった姉さんだけど、

 ここ数日の訓練で確実に強くはなったはず。


「ベルフラウ選手は今年初参加の選手ですね!!

 カレン先輩は彼女のことをよく知ってるんですよね。

 彼女の実力は如何ほどですか?」


 サクラちゃんの質問にカレンさんが答える。


「そうね……彼女の役割は後方支援ではあるけど、実力はあるわよ」


「なるほど……。ではもう一人の選手、ザイコ選手に関してはどうでしょうか!?」


「そちらの選手に関しては私よりも、陛下の方がよく知っているのではないかしら? どうでしょうか、陛下」


 カレンさんの質問に陛下は答える。

「彼か……彼は観客の方々からは1回戦ボーイと親しまれているよ」

 グラン陛下は笑って言った。


「一回戦ボーイ?」

「ああ、毎年本戦まで出場するが、必ず初戦敗退するのさ。

 間違いなく実力はあるはずなのだがね」


「なるほど~。それで1回戦ボーイと呼ばれているわけですね」

 陛下は頷く。


「では、第十五試合目、開始です!!!」

 試合開始と同時に、先に動いたのは姉さんだった。


<魔法の矢>マジックアロー!」

 姉さんは一歩前に出て、ザイコ選手目掛けて魔法を放つ。

 使用する魔法は、魔法の矢。

 魔力を矢に変換して敵に放つという初歩的な攻撃魔法だ。


「つ!!」

 ザイコ選手は、姉さんの魔法に合わせて剣でガードを行う。

 初級の魔法なので、防ぐのは難しくないだろう。


 しかし、姉さんは彼の防御する死角に移動し、攻撃魔法を連発する。

 最下級の攻撃魔法と言えども、秒速十発に迫る魔法の矢は、多少連発で命中率と威力が落ちたとしても十分な威力がある。


 ザイコ選手も、ただやられっぱなしではなく、

 剣を盾にして、そのまま強引に姉さんに距離を詰めようとする。

 その際に数発被弾しようがお構いなしだ。

 姉さんの魔力であれば、それでもかなり痛いはずだが、彼はそんな様子は微塵も見せない。やはり、彼も実力者のようだ。


 姉さんは彼が近づくにつれて後ろに下がりながら撃ち続ける。

 しかし、彼は動きが止まらず、一気に距離を詰めてきた。


 ザイコ選手が姉さんを射程範囲に捉えたところで剣を振り上げ、

 その勢いのまま振り下ろす前に、姉さんの姿が搔き消える。


「なに、消えた!?」

 彼が周囲を見渡すと姉さんは何時の間にか彼の背後に回っていた。

 そして彼が方向転換して、再び姉さんに攻撃を加えようとした瞬間――


<二重束縛>デュアルバインド!!」

 姉さんはオリジナルで編み出した束縛の魔法を発動させる。

 ザイコ選手の周囲八方向から鎖と植物の蔦が飛び出してくる。

 彼はいくつかの鎖を剣で断ち切るが、八つ全部切り裂くのは至難で動きを拘束されてしまう。


「ぐっ……!!!!」 

「ごめんなさいね。私も余裕が無いから一気に勝負を決めるわ」

 姉さんは、再び瞬間移動のように彼から距離を取る。


 そして、彼女が最も得意とする攻撃魔法がさく裂する。


<極大大砲>ハイキャノン!!!」

 魔力の操作が苦手な彼女がオリジナルで作り出した攻撃魔法だ。

 彼女の膨大な魔力が大砲を形作り、敵目掛けて発射される。

 その魔力の弾は轟音を上げながら、ザイコ選手に向かい――!!


「参った、負けだ!!」

 ザイコ選手は、降参の宣言をする。

 と、同時に姉さんは自身の魔法を慌てて消失させた。


 そして、戦闘終了のゴングが鳴り響く。

「試合終了です!!勝者、サクライ・ベルフラウ選手!!!!」


 会場から歓声が上がる。

 ボク達もそれを見て拍手を送った。


 ◆


「お見事でした、ベルフラウ様」

「おめでとう、お姉ちゃん!」

「頑張って鍛えた甲斐がありましたねぇ、おめでとうです」


 ボク達は戻ってきた姉さんに称賛を送り三人で抱きしめた。


「ありがとう、皆のおかげよ」

 姉さんが嬉し涙を流しながら、皆を抱きしめ返した。


 ◆


 そして、それから数分後―――


「ただいまから一回戦、第十六試合を開始します。

 エミリア・カトレット選手、及び、ハジメ・マツバヤシ選手、コロシアムにお願いします」


 次の試合のアナウンスが流れる。


「呼ばれたみたいですね。じゃあ行ってきます」

「エミリア、頑張ってね」

「ご武運を、エミリア様」

「エミリアちゃんなら楽勝よ、頑張って!!」

「はい」


 ボク達はエミリアを見送る。


「次はエミリアの試合か……」

「相手はハジメって人ね」

「どんな人なんでしょうね」

「まぁ、エミリア様なら大丈夫ですよ」

「そうね」 


 ボク達は全員エミリアの勝利を疑っていなかった。


 しかし、数分後―――


「そこまで!! 開始三十秒でエミリア・カトレット選手の勝利ですっ!」

 想像以上に、エミリアが強くて相手を瞬殺してしまった。


「いや、あれだけ不穏な引き方してこれなのっ!?」


「うーん……。エミリアちゃん、強すぎね」


「流石はエミリア様……」

 試合内容は今までで、最速で終わってしまった。


 開始のゴングが鳴った瞬間、

 相手はエミリアに向かって猛ダッシュしてきたのだが―――


「ごめんなさい、あなたは私の敵じゃないんですよ」

 と、エミリアが言った瞬間、対戦相手の頭上に巨大な氷が降ってきた。


 突然の事で混乱していたハジメ選手だが、頭上に振ってきた氷魔法を何とか対処しようと炎魔法で対処しようとしたせいで、エミリアに背を向けてしまう。


「ほらほら、敵に背中向けちゃダメですよ。<初級雷魔法>ライトニング


 エミリアは相手の背後に向けて杖を突きつけ、そのまま電撃魔法を流す。対戦相手のハジメ選手はそのまま身体をピクンピクンさせ、その場に倒れ伏した。


「威力は加減しましたよ。

 ちょっと痺れてますが、あと一分もすれば立てるでしょう」

 エミリアが倒れた相手に近づきながら呟き、終了のゴングが鳴った。


「ベルフラウ選手もハイペースでしたが、エミリア選手は更に試合時間を更新しましたね。カレン先輩、陛下。お二人の感想を聞かせてください」


 あまりにも試合展開が早かったせいか、

 試合終了後に実況の三人が解説をしていた。


「二人の事は良く知ってるけど、ベルフラウさんは予想外ね。

 個人戦であれだけ動けたのは見事の一言だわ。エミリアに関しては……まぁ、彼女らしいわ」


「ふむ、二人とも同じ後衛の魔法タイプだったが、

 ベルフラウ選手は、模範的な動き方で無駄なく勝負を決めにいった。

 一方、エミリア選手は圧倒的な実力差を見せつけるように勝負を決めたな」


 三人は二人の戦い方を称賛していた。


「良かったね、姉さん。エミリア」


「あはは、カレンさんに褒められると嬉しいわね」


「もうちょっと陛下に強さを語ってもらった方が私としては宣伝になっていいんですけどね」


「エミリア、少し調子に乗ってない?」


「い、いえそんな事はないですよ……!!」


「ふふふ、自信も強さの一つですよ。レイ様」


 そして、会場に音声が鳴り響く。


「これにて、本戦一回戦を終了いたします。

 ご来場の皆様、及び参加者の皆様、お疲れ様でした。今日はここまでとなります。明日は二回戦と三回戦を行う予定です」


 こうして、今日の試合は終了した。

 今日の夜、特定の場所にて試合結果の情報と、各選手の戦績が表示される。

 どうやら今回の大会は優勝予想も行われているらしい。

 ボク達は食事をしながら、その放送を見る予定だ。

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