第347話 お姉ちゃん、悩む
観客席に戻ってきたレベッカをボク達は迎え入れる。
「お疲れ様、レベッカ」
「凄かったわよ、レベッカちゃん」
「ありがとうございます。レイ様、ベルフラウ様。
あのような場で注目されながら戦うのは些か緊張いたしますね……」
レベッカは、照れながら頬を掻く。
「あの選手も弱くは無かったですが、レベッカには敵わなかったみたいですね」
エミリアは正直な感想を述べた。
「そんなことはございませんよ、エミリア様。
ああやって回避しながら隙を伺うくらいの方法しか手段がありませんでした」
レベッカの言葉も事実だとは思う。
小柄な彼女では彼の一撃には耐えられないし、素の力の弱いレベッカは全身甲冑の鎧を着た彼の防御を突破するのは骨が折れる。あれほどの猛攻ともなれば近づいて攻撃するのも難しかっただろう。
となれば、ああやって距離を離しての一撃必殺を狙うのは自然な流れだった。それでも、一度距離を離してしまえばレベッカが彼に負ける要素は無かった。
<初速>の技能を使えば、即座に勝負が終わっただろうに、
それを使わなかったのはレベッカなりの配慮だろう。
「レイ様、勝ったことを褒めてくださいますか?」
レベッカがこちらを伺うような眼で言った。
「うん、凄かったよ」
「では頭を撫でてもらえますか?」
と、レベッカはボクにくっついて上目遣いで甘えるように言った。
「(こういう所があるから放っておけなくなるんだよねぇ……)」
ボクは頭を押し付けてくるレベッカの頭を手で撫でてあげた。
「♪」
レベッカは嬉しそうにそのまま抱き付いてくる。
今は女の子だから変な気持ちにはならないけど彼女を愛おしく感じる。
そんな様子をエミリアは羨ましそうに見ていた。
「あ、あの、レベッカ?」
エミリアは少し顔を赤らめながら言った。
「どうしました、エミリア様?」
レベッカはボクに撫でられながらエミリアの方を見る。
「(もしかして、エミリアも撫でてほしいとか?)」
プライドの高そうな彼女にしては珍しい。
が、違った。
「わ、私もレベッカを撫でて良いですか?」
「(いや、そっち!?)」
意外過ぎる言葉にボクは心の中で突っ込んだ。
レベッカは一瞬キョトンとした顔になったがすぐに笑顔になり、
「えぇ、お願いします」と、答えた。
その後、レベッカはエミリアの所にトコトコ歩いていき、
エミリアは嬉しそうにレベッカの頭を撫でていた。
撫でられる側より撫でる側が嬉しそうという珍しい光景だった。
「ね、ねえ、レイくん」
姉さんがボクの肩をツンツンと叩く。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
―――今、気付いたけど、
ベルフラウ姉さんの事をごく自然に『お姉ちゃん』と呼んでいた。
女の子の
それはまぁいいとして……。
「お姉ちゃんの頭も撫でてほしいんだけど」
「なんでやねん」
今度は思ったことを口に出して言ってしまった。
◆
それから、ボク達は四人で試合の観戦をしていた。
姉さんとエミリアはボクらとは別ブロックのようで試合は後半の方だ。
「順当に私が勝ち上がったら、
レイより先に私がアルフォンスさんと当たることになりますね」
エミリアはトーナメント表を確認しながら言った。
団長の名前はボクの真上、つまり別ブロックで最も左端だ。
エミリアは、アルフォンスさんと同ブロックで一番右に名前が記載されており、二人とも順調に勝ち進めば、準決勝でエミリアとアルフォンスさんがぶつかることになる。
「そういえば、ベルフラウ様とエミリア様も同ブロックですね」
「うっ……」
ボクの隣に座ってたレベッカの言葉に、
姉さんが嫌な事を思い出したかのように小さく声を上げる。
「? どうかされましたか、ベルフラウ様?」
「いえ、何でもないのよ。気にしないで」
レベッカの質問を、姉さんは誤魔化した。
アルフォンスさんは第九試合、エミリアは第一六試合目。
姉さんの名前はエミリアよりも二つ左に記載されており、第一五試合目に姉さんが戦うことになる。エミリアと姉さん二人が一回戦で勝ち上がると、二回戦目で戦うことになってしまう。
「(姉さんの気持ちも分かる)」
身内と戦うのも辛いだろうけど、仲間と力の差が分かってしまうのも辛い。
特に、実力的にエミリアに劣る姉さんにとっては。
エミリアも姉さんも同じ後衛の魔法使いタイプだ。エミリアは攻撃魔法を得意とし、姉さんが回復魔法を得意とする。
だけど、姉さんもいくつか攻撃魔法を習得しており、二人の魔力量も大差はない。これだけ聞くと姉さんの方が有利に見えるけど……。
二人の実力差の要因は技量の差だ。単純な魔力とMPなら殆ど互角なのだけど、詠唱速度、魔法の威力、展開力、戦闘判断力、動体視力、この全てにおいてエミリアが勝る。
対して、姉さんが勝る点は、回復魔法が使用出来ることと、一応杖での物理攻撃が可能なことくらいだ。正直、エミリアとまともに戦って姉さんが勝つイメージが湧かない。
「(まぁ、仲間同士で戦うってのが嬉しい話じゃないけど……)」
ルール上、命の保証があるのだけは幸いだ。
ボクも順当に勝ち進めば、三回戦目でレベッカと戦うことになる。
そういう意味でボクも姉さんの心配をしている場合じゃ無かったりする。
ちなみに、そのレベッカはボクの左隣でボクの腕を抱きかかえながら寄り添って座っている。
「(なんか、さっきまでより密着度が増してる気がするんだけど)」
今はボクの左手を自分の両手で包むように握っており、レベッカの体温が直に伝わる。
「あの、レベッカ?」
「はい、どうしました、レイ様?」
レベッカはボクの手を離すことなく、逆にぎゅっと握りしめてきた。
「……ううん、何でもない」
「?」
こうやって引っ付いてるのは心地よい。
今は女の子だから変な気持ちに惑わされずに済む分、
純粋にこの幸福感を感じられる。
「(……そうだね。この子にとってボクは『兄』や『姉』のような存在なんだから)」
ボクはこの子をずっと守ってあげたい。
だからこそ、ボクはこの子より強くないといけないんだ。
そうでないと彼女を守り通せない。
「レベッカ、……頑張ろうね」
「はい!」
レベッカは元気良く返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます