第344話 初戦から強敵

「決勝トーナメント、一回戦、第一試合は――――――」

 ゴクリと喉が鳴る。


「――アルベル・シドー選手VS――」

「――サクライ・レイ選手です!!!!」


 って、いきなりボクっ!?


「アルベル選手とレイ選手はコロシアムに上がってください」

 突然、自分の名前が呼ばれて戸惑っていると、皆に声を掛けられる。


「ほら、呼ばれてますよ。行かないんですか?」

「分かってるよ、エミリア……ちょっと心の準備が……」


 自分一人に注目が集まると思うと心が辛い。


「レイくん……いえ、レイちゃん、頑張ってね」

、そこの言い直しは要らない」


 ボクが二人と会話してるとレベッカに神妙な顔で声を掛けられる。


「レイ様、対戦相手の方、わたくしが前半で戦った相手でございます」

「あ……確かに、聞いたことのある名前だね」


 レベッカの言葉で、思い出しコロシアムの方を向くと、カウボーイハットと葉巻を咥えたダンディーな髭を生やしたおじさんがボクを待っていた。


「レベッカ、彼と戦った感想は?」


「手強い相手でございました。

 お互い全力勝負とまではいきませんでしたが、油断なさらぬよう」


「分かった、ありがとう」

 ボクは彼女に礼を言い、すぅーと深呼吸。

 そして、ようやく覚悟が決まったところでコロシアムに上がる。


 互いにコロシアムの中央付近に移動し、

 15メートルほどの距離を離した状態で対峙する。


 このコロシアムは非常に広い。よほどの広範囲攻撃でも行わない限り、まず場外負けなどを狙うことが出来ないだろう。


 15メートルという距離は大会のルールで定められた距離だ。戦士、魔法使い、弓使いなど、遠距離攻撃を行う者にとっては死活問題となるため、公平を期すために距離を離した状態からスタートする。


 ボクらは互いに挨拶し、アルベルさんが話しかけてきた。


「昨日少し顔見せしたが、嬢ちゃんと戦うのは初めてだな」

「はい。昨日はレベッカがお世話になりました」

 ボクは戦う前に、挨拶のつもりで礼をする。


「ははは、礼儀正しい嬢ちゃんだ。だが、命の取り合いとは言わないまでも、今から真剣勝負をするにしては緊張感が無いな」

 アルベルさんは苦笑する。


「昨日アルフォンスを下したようだな。若いのに大したものだ」

「い、一応……」


 団長の根負けのようなものなので、勝ったと言うべきかは微妙。


「あいつとはちょっとした因縁があってな。

 お嬢さんが女の身であっさり勝ったのに驚いちまったぜ」


「あっさりってほどでも。……ところで、因縁って?」

「ああ、それはだな……」


 彼が語ろうとしたところで、実況のサクラちゃんのアナウンスが入る。


「さぁ、両者準備は整ったようです!

 決勝トーナメント一回戦第一試合、試合開始です!!」


「おっと、いけねぇ。つい話し込んじまってた」

「それではお互い、正々堂々頑張りましょう」

「ああ、よろしくな」


 彼は渋い笑みをこちらに向けて、鞘からサーベルを抜く。

 右手でサーベルを突き出すように、右半身のみをこちらに向けて構える。

 それに対して、ボクは剣を鞘に収めたまま右手を柄の先端を掴む。


「それでは……始め!!」

 サクラちゃんの人の合図で、アルベルさんがこちらに向かってくる。

 こちらは動かずに彼が魔法の射程圏内に来たところで、左手を突き出す。


<初級雷魔法>ライトニング!」

 左の手の平を向けるようにして魔法を発動させる。強い魔法では無いけど、直撃すれば相手を痺れさせて相手を行動制限スタンさせるだけの威力はある。


 しかし、彼はその雷撃を軽くサーベルで振り払うだけで弾く。

 更にボクは魔法を発動させる。


<初級炎魔法>ファイア!!」

 今度は火属性初級魔法を繰り出す。


 ボクの放った火の玉は、まっすぐにアルベルさんの胸元に向かっていく。

 だけど、彼は慌てることもなく、最小限の動きで避けてしまう。


「甘い甘い、範囲の狭い魔法では私には当たらないぞ」

 アルベルさんは余裕の表情で、ボクを煽ってくる。


「まだまだこれからですよ!!」

 ボクは更に連続で魔法を行使するが、彼はボクを中心にぐるりと横に動きながら魔法を回避。そして、魔法の連射が止まったところでこちらに踏み込んでくる。


「(動きが早い、それに―――)」

 彼は右半身のみを向けて左半身を隠すように動いている。

 攻撃の被弾箇所を減らして回避しながら接近するためか。


 そこでマイクを通してサクラちゃんの声が会場に響く。


「レイ選手の魔法攻撃を悉く回避するアルベル選手!!

 まだ様子見といった感じですが、アルベル選手少しずつ距離を詰めていっていますね!! カレン先輩、アルベル選手をどう見ますか?」


 サクラちゃんの実況の合いの手として、カレンさんが答える。


「動き自体は物凄く早いって程じゃない。装備も軽装で直撃すれば大きなダメージは避けられないはずだけど、上手く躱している。戦い慣れているわね」


 ボク達の戦いの最中、サクラちゃんとカレンさんの実況が入る。

 そして、二人のやり取りにグラン陛下のコメントが入る。


「彼……アルベル選手は、昨年の闘技大会の準優勝者だ。昨年の優勝者であるアルフォンス君に負けはしたが、今年は更に磨きが掛かっているようだ」


「準優勝者!? なるほど、強いわけです!!」

 陛下の言葉に、サクラちゃんが驚きつつも納得の声を出す。


 そこで、アルベルさんが一服するように動きを止める。


「ま、因縁ってのはそういうことさ。大したことじゃないだろ?」

 アルベルさんは葉巻の煙を吐きながら笑う。


「(つまり負けたリベンジって事かな)」


「さて、勝負の続きだ。そら、行くぞ」


 アルベルさんはサーベルを構えつつ、再びこちらへ駆けてくる。


「(範囲の狭い攻撃は簡単に躱される。なら――)」


 簡単な話だ。

 今度は攻撃範囲の広い中級魔法を使用する。

 ボクは魔法を集中するために、左手を突き出す。


 それと同時にアルベルさんが、速度を一気に上げてこちらに駆け出す。


「!? <火球>ファイアボール!!」

 慌てて魔法を放ったけど、既に彼はボクの目の前まで来ており、素早く身体を横に逸らすことでボクの魔法を優雅に見事に回避する。


 そして、そのまま剣を振り上げる。


「っ!!」

 咄嗟に、ボクは右手の剣を引き抜いて彼の武器の軌道を予測して防御に出る。

 しかし、その予想は大きく外れた。


「うぐぅ!」

 腹部に衝撃を感じ、後ろへと吹き飛ばされる。ボクの防御が甘い部分を見切られ、彼の長い脚で蹴り飛ばされてしまったようだ。風魔法を利用して、後方に大きく跳びながら着地をする。


 レベッカ相手に互角に戦ってただけあって彼は手強い。

 いつもの癖で様子見してたけど、そろそろボクも攻勢に出ないと。


「アルベルさん、流石です。ですが、これ以上やられっぱなしな姿を仲間に見られると、後で色々怒られそうなので、今からこっちからも本気で行きますよ」


「ふっ、そうかい。なら今度は嬢ちゃんが攻めてくるといい」

「では、行きますよ―――」


 ボクは軽く息を吐いて、集中する。


「風よ、そして雷よ―――」

 身体に風の魔力を纏わせ、自身の両足に向けて微弱な雷魔法を流し込む。

 これでボクの足は一時的に加速し、速く動けるようになる。


「む………これは……」

 アルベルさんが目を細くして、ボクを警戒し始める。


 そして、再び左手を彼に向けて魔法を発動させる。


<風の刃>ウィンドカッター!!」

 ボクは正面に風の魔法を発動させる、そして0.3秒遅れて地面を蹴ってアルベルさんに急接近する。


「速い!? くっ―――!!」

 風魔法を前方に飛ばしてアルベルさんに回避することを強要。その直後にボクが追撃を仕掛ける二段攻撃だ。彼が回避しようが、その場で相殺を狙おうが、その直後の隙をボクは狙い撃つ。


 同時に動いたボクに気を取られてしまった彼は、反応が僅かに遅れてしまう。


 しかし、彼はギリギリのところで手に持つサーベルと風の刃をぶつけ合い何とか相殺する。が、その隙を突いて、ボクは彼の真横から剣による攻撃を仕掛ける。


「くっ、やるじゃないか!!」

 彼は即座に体勢を整え、ボクの攻撃に対応しようと動く。


「(これでも動けるなんて……!!)」

 完全に不意打ちを狙ったつもりなんだけど、アルベルさんはボクの剣の攻撃をステップを踏むことでギリギリ回避する。


 しかし、攻撃は一撃じゃない。雷魔法により両脚だけでなく、ボクの剣を握る両腕にも電気を流し込み、更にスピードを上げていく。


 彼はこちらの連撃の勢いに押されながらも、後退しながら受け流す。

 しかし、それも長くは続かない。


「うっ!!」

 攻撃を防ごうとした彼のサーベルは、

 ボクの剣によって弾き飛ばされてしまう。


「もらった!!!」

 ここが勝機と思い、ボクは一気に勝負を決めるべく彼の肩目掛けて剣を振り下ろす。しかしその瞬間、アルベルさんは今まで隠していた左手を腰にやり、予想外の物を取り出した。


「えっ?」

「悪いな、嬢ちゃん、至近距離なんで耳を抑えてろ」


 彼が取り出したのは―――

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