第343話 外見年齢は十歳くらい

 そして、次の日―――

 ついに決勝トーナメントが始まる。そして——


「―――って、なんでお前、まだ女の姿なんだよっ!!!」

 選手控室に入るなり、いきなり大声で怒られた。


「団長、声出さないで! 静かにっ!!」


 しー、しー!っとボクは口に指を当てながら注意した。ここは控え室であり、他の選手たちも大勢いるのだ。そんな中、誤解の生むような発言をされても困る。


「ぐぬっ……しかし、何故お前はまだ男に戻らない?」

「それは、え~と……」


 なんて説明したものか。


「今回の大会、最初から女の子で出場する羽目になっちゃったんで戻るに戻れなくて……」


「な、どういうことだ?

 薬で女の姿になったと言っていたが、それだと戻れるみたいな言い方じゃあないか!」


 団長さんは疑いの目でボクを見つめる。


「あー……まぁ、薬の効果は切れたんで一度戻っているんですけど……」


 今は指輪の力で女性化してるから戻ろうと思えば戻れる。だけど、変に目立ってしまったせいで今更男に戻ってしまうと色々混乱が起こってしまいかねない。なので仕方なく女性として出場を決めた。


「というわけで、次に戦う時もこの姿でお願いしますね、団長」


「なにが、というわけで、だ!!

 この女装野郎!! 次に戦う時はマジで容赦しねえからなぁ、ちくしょう!!!」


 そう言いながら、団長は涙目で出て行った。


「……ふぅ」

 これで一安心である。


「お疲れ様です」

「うん、ちょっとだけ疲れたよ……」

 エミリアはクスリと笑いながら労ってくれる。


「でも、よかったんですか? レイが女の子のまま出場して……」


「もう仕方ないよ。今更男でしたーとか言って信じてもらえないだろうし、別に今の姿が嫌なわけじゃないから」


 むしろ男の時と比べて可愛いし、

 周りからの評判も良いから悪くないと感じ始めている。


「このまま男に戻らないとか言わないでくださいね……。

 一応、私達付き合ってるわけですから……」


 エミリアが最後にボソッと言った。

「ん? 何か言った?」

「いえっ! なんでもありませんよっ!!」

 何故かエミリアは少し慌てていた。


 その後、少し時間が経ち、ボク達はコロシアムに向かう。


 そして―――


「さあっ! ついにやって参りました!! 闘技大会決勝トーナメントっ!

 これより熱き戦いを繰り広げます選手の紹介の紹介をおこないますよぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」


 いつも通り、サクラちゃんが観客席に向かって叫んだ。ちなみに、今回は実況席からマイクで声を出している。隣にはカレンさんと、それに今まで姿を見せなかったグラン陛下の姿があった。


「陛下……」

 見た目は金髪の幼い少年に見えるが、その物腰や雰囲気は子供のソレではない。

 決勝トーナメントという事で主催者として顔を出したのだろうか。


「その前に!!! この大会の主催者であるグラン・ウェルナード・ファストゲート陛下のご挨拶です!! 陛下、どうぞー!!」


 サクラちゃんの言葉と共に、交代で陛下が前に出る。


「私が今大会の主催者、グランだ」

 その一言だけで、会場中の観客が沸く。


「キャー!! グラン様ーーー!!」

「陛下ー!!」


 陛下は、声が聞こえた民衆の方を向いて笑顔で応える。


「今回、この場に集まってくれた者たちに感謝する。

 皆も知っての通り、今回の大会は去年に比べて出場者が多い。おそらく、魔物との戦いが激化したことで冒険者の志願者が増えたことが原因だろう。戦いは過酷ではあるが、こうやって腕に覚えのある強者達が集まってくれたことに私は嬉しく思う」


 その言葉を聞きながら、ボク達は改めて気を引き締める。


「いずれ魔王が復活する。その決戦の時に備えるべく、私は今、強い戦士を求めている。この大会の目的の一つはそれだ。

 今回の大会で、好成績を収めた選手には優勝者以外にも高額の賞金が用意してあるが、もし私の目に留まった戦士がいたら、この王宮に迎え入れる準備と相応の待遇を用意させてもらおう」


 そして、グラン陛下は微笑みを浮かべて言う。


「だが、忘れるな。私の目的はあくまで、強くありたいと思う者を集め、国を強くすることにある。己の力に酔いしれて他者を傷つけるような者には決して手を差し伸べはしない。

 ここに集った戦士たちよ――お前たちの戦いに期待している」


「「「「「うおおおーっ!!!!」」」」

 グラン陛下の言葉に、皆が一斉に雄叫びを上げた。


「(凄いカリスマ性……)」

 ボクも思わず見入ってしまうほどだった。


「あの人、見た目は子供に見えますけど、一体何者なんでしょうね」

 エミリアは言った。


「わからないけど……でも……」

 外見は子供そのものだ。

 でも、本当はもっと年齢が上なんじゃないだろうか。ウィンドさんが年齢不詳なように、グラン陛下も魔法か何かで見た目を変えてるんじゃないかとボクは思った。


「さて、堅苦しい挨拶はこのくらいにしようじゃないか。

 今回の闘技大会には一人、私が注目している人物がいる」


 グラン陛下はそう言いながら、チラッとこちらを見る。

 しかし、意外なものを見たような反応をしてから、陛下は言った。


「少し失礼……」


 一旦マイクを切って後ろに控えていた二人を呼び寄せる。

 そして、何やら小さい声で話し始めた。


「(カレン君、あれはどういうことだ? 何故彼は女になっている!?)」


「(ちょっとしたアクシデントがあったようですわ)」


「(まさかとは思うが……また、彼女ウィンド君の仕業なのか?)」


「(はい。私の方からキツく言っておきます……)」


 陛下とカレンさんがコソコソと話し始めて、周囲がざわつき始める。


「……こほん、いや、何でもない。

 予想外の事ではあるが、これはこれで面白いサプライズだ。私は、彼……いや、彼女が今大会のダークホースになると見ている」


 そう言いながら、陛下は再び笑みを浮かべた。


「……え、ボク?」

 そんなことを言われても困るんだけど……。

 しかし、陛下の言葉に、観客や他の参加者の視線がボクに集中してしまう。


「……彼女が?」


「レイ選手は凄い人気があったが、陛下まで期待しているとは……」


「確かに陛下の言う通り、予選やチーム戦で目覚ましい活躍をしていたな」


「可愛いのに強いとか最強かよ」


 と、口々に呟いている。

 最後の人は、予選の時のチームメンバーだった人だ。


「ふふふ、注目されておりますね……レイ様」

「さすが私の弟だね!」


 レベッカと姉さんが、ボクを見ながら微笑んで言った。


「二人まで止めてよ。ボクが注目されるの苦手だって知ってるでしょ?」

 ボクは小声で抗議するが――


「まあ、いいではありませんか。せっかく陛下がお認めになったのですから」


「うん! 胸を張って頑張ろう、レイちゃん♪」


 二人は満面の笑顔で言うのであった。


 そして、陛下は宣言する。


「では、ここに闘技大会、決勝トーナメントの開始を宣言する」


「「うぉーー!!」」


 こうして、ついに始まった。


 ◆


 その後、サクラちゃんによる熱い選手紹介が行われ、

 決勝トーナメントのルール説明が入る。


「決勝トーナメントは今までとは違い個人戦です!!

 ここまで勝ち上がった三十二名の選手には、トーナメント表が配布されます!!

 スタッフの皆さん、お願いしますっ」


 サクラちゃんの合図と共に、運営スタッフが紙を配り始めた。


「まず簡単なルール説明から!!

 決勝トーナメントからは、今までと違い、一対一で戦う本格的な戦いとなります!!

 武器の使用も魔法もどちらも使用可能です。相手を戦闘不能にするか、降参させるかすれば勝利が確定します!!」


 基本的なルールは同じだけど、今までと違って完全な一騎打ちだ。今までは仲間同士の連携が求められていたけど、次からは単純な実力勝負という事になる。


「予選の時と同じく致死級の攻撃を受けそうになると強制的に転移され、避難する仕掛けになっていますが、今回はここにルールを追加させていただきます」


 ルールの追加?


「この闘技大会は殺し合いではありません!!

 相手の命を奪うような攻撃を加えた場合、またはそれに準ずる行為をした場合は反則負けとさせていただきます!

 たとえ、命が保証されていようが、だからといって嬉々として人を傷つけるような行為は失格と見なし、即刻退場させますので注意です!! また、降参した相手に攻撃を加えるのも同様の処置を行います。ご理解お願いしますねっ!!」


 サクラちゃんは彼女なりにキリッとした表情で、観客や参加者に聞こえるような大声で言った。


「あくまで、闘技大会は正々堂々を心がけてくださいね!

 お互いを尊重し、高め合うためにも、どうかよろしくお願いします!!」


「「うおおーー!!」」

 会場は盛り上がりを見せる。


「決勝トーナメント一回戦の対戦相手はもう決まっています!!

 皆さん、紙は行き渡りましたか?」


 ボクの手元には既に配られたトーナメント表が握られている。

 だけどまだ見ていない。ここまで来たら彼女の言葉を待つ。


「それでは、発表しますよー!! 」


 そして、ボク達四人は固唾を呑む。


「決勝トーナメント、一回戦、第一試合は――――――」

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