第342話 みんながんばれ(レイくん、頑張らない)
闘技大会2日目、決勝戦にて―――
「だああーっ! 分かった、俺の負けだ! だからもう勘弁してくれぇぇ!」
色々あって、ようやく対戦相手のアルフォンス団長が降参した。
「よしっ!! 勝ちっ!!!」
ボクは嬉しくて飛び跳ねてガッツポーズをする。
そして、司会のサクラちゃんが叫んだ。
「な、なんとっ!!
前回優勝者のアルフォンス選手、まさかの降参ですっっ!!」
会場中からブーイングが起こる。
「嘘だろ!?」
「おいおいおい、確かにすげえ魔法使いだけど、降参かよっ!!」
「絶対まだ余裕あっただろっ!!」
観客達は何人かは席から立ちあがって、
団長に向かって罵声や文句を浴びせ続ける。
そして、団長は大声で叫ぶ。
「うっせええええええええ!!!!!
今回は前哨戦!! ただの腹の探り合いだっ!!
次こそ勝つんだよぉぉぉ!! だから黙ってみてやがれぇぇぇぇ!!」
団長はそう言い放つと、舞台から退場していった。
「(全く、往生際の悪い人だなぁ)」
ボクは呆れてため息をつく。
だけど、彼が言った事は本当だ。ボクも彼も本気で戦っていない。
本戦の後半、トーナメントで当たった時こそ、全力勝負だ。
しかし、一部の観客は彼の降参をむしろ褒めていた。
「さすがアルフォンスですね……。あの状況で降参なんて」
「この決勝はどちらのチームも既に、次の本戦に進むことが確定している。
だからこそ、手の内を見せる前にあえて降参したということか」
「となると、次に激突した時、むしろ不利なのは彼女だな」
……次に当たったらボクが負けるみたいな言い方されてるのが気に喰わないけど、大体合ってる。
「さぁ、まさかのアルフォンス選手の降参には驚きましたが、まだ勝負は続いています!! エミリア選手の災害のような攻撃魔法を何とか凌ぎつつ、防戦一方ながらも耐えておりますっ!!」
彼女の実況通り、ボク達以外の戦いはまだ続いていた。
こちら側はエミリアの攻撃魔法を主軸にして戦っているのだが、
あちら側の後衛二人がどちらも防御魔法が得意なようで、
それを打ち崩そうと、レベッカが前衛になって攻撃を加えようとするのだが、あちらのもう一人の前衛もかなりの実力者のようで、レベッカに押されながらも何とか攻撃を凌いでいる。
エミリアは彼とレベッカの戦いには手を出さないつもりのようで、完全にレベッカに任せている。姉さんに関しては、妨害と補助を担当しているが、それでもなお牙城を崩せずにいた。
「ここまで凌ぎきるとは、あなた様のお名前をお聞かせください」
レベッカは敬意を表して、そう彼に問う。
「私の名前か? アルベルだ。
これでも、前大会で準優勝しているからな。簡単には負けんよ」
アルベルと名乗った剣士は、髭を生やしたダンディーな中年おじさんだった。
カウボーイのような帽子に、肩当てをつけている。口に葉巻を咥えており、かなりのヘビースモーカーのようだ。雰囲気的に西部劇に出てきそうなガンマンのような恰好をしている。
武器にしても、ボクらが使用する剣とはちょっと違う。サーベルと言われるタイプの若干長めの洋刀で、刀身がほんの少し曲がっている。曲刀に近いタイプだろうか?
鞘には半球の鍔が付いており、カッコいいデザインの剣だ。実力も高いようで、レベッカの攻撃をうまく捌いて攻撃にこそ転じないが対等に渡り合っている。
「(どうしようかな……)」
レベッカとアルベルさんの勝負に割って入る気にはならない。
お互い真剣勝負のようだし、手助けして勝ってもレベッカが納得しないだろう。
後で可愛らしく文句を言われそうだ。
エミリアと姉さんの側だけど、互いに後衛同士の戦いだ。あちら側はおそらくエミリアのMP切れを狙っている。彼女は絶え間なく攻撃魔法で攻め続けているが、今のところ突破できそうな様子はない。
ただ、相手側もかなりギリギリだろう。
如何に防御魔法と盾の魔法を重ね掛けしながら自動回復で時間稼ぎしても本気になったエミリアなら十分突破出来る。それをさせまいとエミリアの詠唱魔法を妨害しながら拮抗させている。
姉さんも相手の攻撃を防ぐために手一杯のようだ。
「(……仕方ないか)」
こっちはこっちで手助けするとエミリアに何か言われそうけど、ボクもサボるわけにはいかない。レベッカとアルベルさんの邪魔をしないように、エミリアと姉さんの所に合流する。
そして、二人に声を掛ける。
「二人とも、こっちは決着ついたよ。そっちはどう?」
「……そろそろ厳しいかも」
「わたしはまだまだいけますっ!!」
姉さんは弱音を吐くが、エミリアは強がりを言う。
不意にこちらに攻撃魔法が飛んできた。それをボクは剣で斬り払う。
「あっちも防御一辺倒じゃないみたいだね」
「ええ。もし完全に防御に専念していたなら、極大魔法で一気に吹き飛ばせていたのですが、どうもそうはさせてくれそうにないです」
「うん、やっぱりそうか……」
「特にレベッカと戦ってるアルベルという男は、相当に強いですよ。彼の仲間である二人の魔法使いも相当な腕前でしょう。ここまで勝ち上がってきただけの事はありますね」
エミリア相手にいい勝負している時点で相当な強者だ。
「しかし、この調子だとキリが無いです。
消耗も気になりますし、一気に勝負を決めましょうか」
と、エミリアが息巻いたところで、ボクがストップを掛ける。
「そこまで全力で戦わなくてもいいって。もう決勝トーナメント進出できるのは確定してるし、全力出し過ぎると明日の戦いに響いちゃうよ」
「でも、負けたくありませんっ」
そう言いながらエミリアは派手な魔法を敵チームにぶっ放す。
しかし、その魔法は相手に届くまでにバリアによって防がれてしまう。
「それなら、ボクが手伝うよ。
ボクが前衛として斬り込むから、二人は魔法で援護を―――」
「嫌ですよっ!!」
ボクの提案を、エミリアはあっさり拒否する。
「何でさっ!?」
「だって、レイが突っ込んだら、多分あっさり勝っちゃいますよ!!」
「そんな事はないと思うけど……」
「レイばっかり活躍したら私が目立たないじゃないですか。
だから私が極大魔法を撃つのでレイはその間だけ私を守ってください」
「だから全力はやめなさいって」
エミリアが暴走気味だったので、ボクが止めに入る。
そんなことをやっていると、
お相手のチームがこちらに向かって手を挙げる。
そして、実況席のサクラちゃんに向かって叫んだ。
「すまん!! 降参だ!!」
「流石にこれ以上は付き合い切れん……こっちも体力切れだよ」
お相手のチームが白旗を上げた。
「おっと、ここでアルフォンス選手のチームが降参!
おめでとうございます!! 本戦チームバトルの勝者はレイ選手チームに決まりましたっ!!!」
サクラちゃんの声と共に会場中から拍手が巻き起こった。
「え、もう終わりなんです? もっと戦いたかったのですが……」
エミリアは不満そうな顔をしている。
「お姉ちゃん的には、もう泥仕合はやりたくないかなって」
姉さんはクタクタだ。
「まあまあ、まだ明日もあるんだし、今日はとりあえず休んでおこうよ」
「仕方ないですねぇ……」
エミリアは帽子を被りなおし、観客席に向かって手を振る。
そして、少し離れた場所でレベッカとアルベルさんが武器を納めて、互いにため息を吐いて苦笑する。
「ふぅ……どうやらこちらのチームの根勝ちのようでございますね」
「ああ、こっちの負けだ。決勝トーナメントでかち合うことになったらよろしくな」
「はい。その時は是非とも」
レベッカは握手を求め、アルベルさんはそれに応じる。
「しかし、その年齢でとんでもない強さだな。あっちのレイって嬢ちゃんも、まさかアルフォンスの奴と互角に渡り合うとは……これは私も引退が近いか」
「何を仰る。貴方様の剣は一部の衰えもなく冴えわたっておりましたよ」
「ふっ、そうか。なら引退はしばらくお預けだな」
二人は笑顔を交わしていた。
そうだよ。これこそがスポーツマンシップってやつなんだ。
「それでは本日はこれにて終了ですっ!
皆さま、ご観覧ありがとうございましたーっ!」
こうして、本戦の前半は終了した。
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